12
「すみません。お待たせしました」
「いえ、全然待っていません」
「そうですか?すみません」
理さんは黒いローブに杖と魔法使いのようなキャラクターの双子の男女らしきものが描かれた赤いTシャツに黒のパンツに黒のスニーカー姿。
この間同様リュックサックを背負っているが正面のためアクリルキーホルダーは見れない。
「何食べますか?」
「何でもいいです。山田さんの食べたいもので」
「外暑いですか?」
「暑いですね」
「じゃあ、もう駅から出ない方がいいですね」
理さんが歩き出したので付いていく。
並んで歩いていいものかわからず後ろに並んで歩くとこの間見た時と同じ野球帽を被った頬がぷるっとしたショタキャラが不自然な体勢で小さなボールを投げているアクリルキーホルダーがゆらゆらと揺れている。
野球アニメのキャラクターだろうか。
スポーツアニメあんまり見ないから見たことがないのでわからない。
「普段お昼って何食べてますか?」
「えっと、平日はありあわせのもので済ませていますけど、土日は作ります」
お弁当の残り食べていますは言っていいものかわからない。
まだ吝嗇だと思われたくないし。
土日は作っているっていうのも料理できますアピールみたいでわざとらしいのかな。
ひょっとしたら奥さんにそんなの全然求めてない人かもしれないし。
ああ、会話のシュミレーションもっと空ちゃんとしとけば良かった。
「俺ラーメン食べたいんですけどいいですか?」
「はい、大丈夫です。ラーメン大好きです」
ラーメン大好きは本当だけど、実は京都に来てから一度もお店で食べたことはない。
楓さんは外食したがらなかったし、私も一人でラーメン屋さんに入る勇気はなかったから、楓さんのいない平日のお昼にお湯を入れたらできるカップラーメンを食べたくらいだ。
だから京都の美味しいラーメン屋さんなんて知らない。
というより京都自体案内できるほど詳しくない。
「出かけると遂ラーメン屋に入っちゃうんですよ。ラーメン屋か蕎麦かうどん。おしゃれなお店とか入れなくて」
「そうなんですか」
お一人でですか?と聞きそうになるのをぐっとこらえる。
だってこんないきなりまだお昼も食べていないのに「彼女とです」なんて言われたらどうやってこの後顔を突き合わせラーメンを食べると言うのか。
「徳島ラーメンでいいですか?」
レストラン街に来るとラーメン屋さんがずらりと並んでいた。
札幌、新潟、福島など馴染みのない地名が見える。
駅ビルで食事をするのも初めてだったからこんなにラーメン屋さんが一か所に固まっているのも知らなかった。
「はい。何でもいいです」
混んでいるので少し並んだ。
きちんと列からはみ出すことなく並ばないといけないと思い、理さんの背中に隠れる様に立っていた。
「並みでいいですか?」
「はい、並みで。あの、自分の分は買いますよ」
慌ててお財布を出したけど食券機からはもう食券が出てしまっていて目の前に開いていた二つの席の左側に理さんが座ったのでその右の席に座った。
「すみません。お金」
「いいです。あの七百円くらいでなんですけど、払わせてください。わざわざ来てもらったんですし」
「いえ、あの、私もお会いしたかったので」
「考えたらここじゃゆっくり話しできないですよね。さっさと食べて、出ましょう」
「はい」
理さんの言う通り私達の座った席は向かい合わせじゃなくて、店内は凄く混んでいて、外にはお客さんがまだ並んでいた。
私達はラーメンが来ると互いに協力するように一生懸命無言で食べた。
「ご馳走様でした」
「そんなかしこまらないでください。かえって申し訳ないです」
私がラーメン屋さんから出てぺこりと頭を下げると理さんは恥ずかしそうに左手で首を掻いた。
「アイス食べに行きませんか?」
「え?」
「あー、すみません。アイスじゃなくてもいいんですけど。甘いもの食べに行きませんか。俺どっか出かけると昼食べたら必ず甘いもの食べるんです。もうちょっと経ってからでいいんですけど」
「そうなんですか」
「あー、甘いもの食べない人ですか?」
「いえ、大好きです」
「ですよね、好きじゃなかったらパティシエの学校行きませんよね」
「はい。作るのも食べるのも好きです」
「じゃあ、少しぶらぶらしてから何か食べましょう」
「はい」
理さんが歩き出すので又後ろから付いていく。
「和菓子とかも好きですか?」
「はい」
「粒あんとか平気ですか?」
「はい」
「抹茶アイスは?」
「大好きです」
「あんみつの黒い豆食べられます?」
「はい」
「ところてんは?」
「大好きです。黒蜜ですか?」
「はい。黒蜜以外は俺はダメですね。フルーツのやつはちょっと」
本屋に着くと理さんが立ち止まったので、歩き出してからも隣に並んで歩いた。
後ろからじゃ声が聞きとりにくいのでとか言い訳を考えたけど、彼は何も言わなかったので、袖が触れ合うような距離だったけどそのまま互いに平然と何事もないかのように歩いた。




