09 お仕事
「~~♪」
朝起きてから、昨日もらった櫛とシュシュで髪を纏める。編み込みとかはやったことがないので手軽にローポニーだ。ツインテールも試してみたけど、角が邪魔してできなかった…角を疎ましく思ったのは初めてかもしれない。
昨日の買い物でもそうだったけど、随分と女の子を満喫している。思考も大分寄っている気がする。前の事を深く考えないようにしたからかもしれない。
「さぁて、服も買ったし、仕事して服代とかを返していかないと」
「だから…まぁいいわ。どの道仕事しないと食べていけないしね。朝食済んだら組合に行きましょうか」
組合?よくあるギルドというものかな、と聞いてみると大体同じっぽい。ただし名前が『嘱託組合』。もうちょっと名前なんとかならなかったのかな…
以前は『代行組合』という日雇い業斡旋所みたいなのと、『狩猟組合』という害獣駆除や食肉、素材を目的とした狩猟用の依頼斡旋所があったみたい。だけど区分が曖昧な仕事なんかで苦情が地味に多かったらしく、結局統合、今に至るらしい。
お高くない宿にしては割と美味しい朝食をとった後、組合まで来た。
「イメージと全然違う…」
よく物語に出てくるちょっと汚いスイングドアの建物を想像していたけど、実際は小綺麗な木造の建物でドアも普通の両開きのものだった。
中に入ってみるとやっぱり小綺麗。イメージに若干近かったのは軽食のとれる休憩コーナーが併設されてる事。それでもお酒はないみたい。
「それじゃまず登録に行きましょ。私がモイスで登録してあるから保証人になるわね」
組合員証は各国で使えるらしい。ただし運営は各国それぞれなので仕事の相場はばらばらだとか。というか登録はいいけど、保証人て…ルティに出会えて本当に良かった。
受付の人に用紙をもらい、必要事項を記入していく。名前…もうこの際だからナツキだけでいいや。性別は女、種族は竜人っと、…年齢?最初からこの姿だから何歳かわかんないな。
「ねぇルティ、年齢のとこなんだけど…」
「ん?…あーそっか、そうよねぇ。…うーん、背も同じくらいだし、私と同じ十四歳でいいんじゃない?」
じーっと僕を見てからそう言う。そういえばルティの歳を知らなかった。あれで十四…大丈夫、僕はまだ成長途中のはずだ。きっと。
「ん?どしたの?」
「イエ、ナンデモナイデス」
思わず見てしまっていたのでツイっと目をそらす。
書き終わったので係の人に渡す。するとちょっと驚いたように書類と僕を交互に見てくる。
「不備でもありました?」
「ああ、すみません。竜人の方は初めてお見かけしたので…」
竜人はかなり少ないらしく、まず見かけないのだとか。魔人も同じく少ないのでレアキャラコンビみたい。
そう言えば見たことないわねなんてルティも言ってる。今更過ぎじゃないですかね…
組合員証の発行に一時間程かかるというので、その間依頼をチェックすることにした。
「何がいいかなー?」
適当に依頼書の入ったバインダーをぱらぱらめくっていく。
「ナツキは何ができるの?」
「一応、一通りはできるつもりだけど…でもこの世界で通じるかはちょっとわかんないかな」
じゃあ森で狩りをしていたからその系統が無難ね、と害獣駆除、狩猟系依頼のバインダーを持ってきてくれる。
開いてみると、魔物、魔獣系なんて項目がある。この世界にいたのか。魔物はゴブリンだのオークだのよく聞く種族が書いてある。でも魔獣はそれっぽい単語は書いてない。
「魔物はともかく、魔獣ってどんなの?」
「魔獣?魔獣って、大気中に漂ってる魔力である魔素を取り込んで大きくなった獣よ?ナツキが森でよく狩ってたやつね」
あれ魔獣だったのか…通りででかいと思ったよ。というかあれがこの世界の標準サイズかと勘違いしてたよ。
ざっと目を通してみると、やっぱり魔物、魔獣系のほうが報酬が高い。
「魔物がどんなのか気になるし、報酬もいいからこの辺から選びたいかな」
「そうね、私も魔物は狩ったことがないから受けてみたいわ」
じゃあ決まりだ、と無難なゴブリン駆除の依頼を抜き出した。
出来上がった組合員証を受け取り、そのまま依頼を受注。受付のお姉さん曰くゴブリンは弱くて安全ということで、気楽に情報の場所まできた…んだけど…
「ねぇルティ?」
ドゴッ!
「なぁにナツキ?」
ボンッ!ゴシャ!
「これどうみてもゴブリンじゃないよね?」
ゴリッ!
「そうね、ゴブリンじゃないわね」
バキバキ!
そんな会話をしつつ相手しているのは…どうみてもトロールです。はい。しかも何匹いるのこれ…
依頼書だとゴブリン六匹だったのに、トロールな上に二十匹はいるっぽい。
「あー!服に血が付いたぁ!」
「馬鹿ねぇナツキ、遠くからやれば…あー!こっちも付いたぁ!」
特に強くないので怪我の心配はないけど、僕はうっかり爪で裂いたせいで、ルティは魔法で吹っ飛ばした腕や足のせいで返り血を浴び、血だらけ状態。せっかく買った服が台無しになったので途中から八つ当たり気味に倒す。
「うへぇ、ぐちょぐちょ…」
「こっちも酷いわぁ…」
「駆除証明部位は…わかんないから耳でも持っていこうか」
「それでいいと思うわ…」
戻ったら絶対組合に文句言ってやる。
耳の回収も終わり、僕たちは急いで街まで戻ってその足で組合へ向かった。
「一体どういうこと!?」
組合の扉を大きく開け放ち大声をあげる。当然こちらに視線が集中し、血だらけの僕達を見てぎょっとする。
「えと、いったい何が?」
「何がじゃないよ!ゴブリン六匹って聞いたのに、トロールが二十匹だったじゃないか!」
「!?ちょ、ちょっと待ってください!?」
受付のお姉さんが組合長!組合長ー!と言いながら奥に行ってしまう。
「おい!?トロールってのは本当か!?」
そう言いながら出てきたのは、頭を短く刈り込んだガタイのいいおじさん。とってもガテン系。
「血だらけだが怪我とか大丈夫か?」
「あ、うん、怪我はないよ。それより!依頼の内容があまりにも違うんだけど!」
「ああ、それはすまん。いや、すまんで済むものでもないんだが。誤情報…ってレベルじゃない誤りがあったようだな…代表として謝罪する、申し訳なかった。この通りだ」
そう言って頭を下げる。そして情報持ってきたやつを詰問しないといけないな…とぶちぶち言っている。
「とりあえず被害が出ないうちに早急に駆除隊を組まなきゃならん。済まないが、場所と数を正確に教えて欲しいんだがいいか?」
「場所は依頼書の通りで、数は二十よ。とりあえず全部倒したから駆除隊はいらないわよ?そんなことよりこの場合ちゃんと報酬額上がるんでしょうね?おかげでせっかくの服が台無しだわ」
ゴブリンくらいの小物であれば尻尾ではたく位でどうとでも出来たろうけど、大型でタフなトロールなんて出てきたもんだからそれなりの威力で攻撃しないといけなかった。結果血塗れというね。
どうしてくれるんだ、と組合長を睨みつける。…あれ、なんか固まってる。
「…あー、悪い。もう一度聞いていいか?トロール二十匹を駆除済み?オークとかの間違いじゃなくてか?」
何か疑われてる?イラッとして、つい尻尾を床に叩きつけてしまい、建物が揺れた。
「うぉぉ!?いや、すまん、だが普通トロールってのは一匹に対して三人から六人で対処するんだ。嬢ちゃん二人で対処できるもんじゃないんだよ」
「じゃあこの返り血と耳はどう説明するのさ!」
ぐいっ、と耳を入れた袋を押し付ける。そして押し付けた袋の中を見て組合長が目を見開いた。
「ひぃふぅみぃ…二十あるな。確かにこれはトロールの耳だ…本当かよ嬢ちゃん達」
そう言って呆然とした表情でこちらを見てくる。
「だからそう言ってるでしょ…」
だんだん疲れてきた。早くお風呂も入りたいのに。




