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05 魔法


「…ねぇナツキ、それ本当に食べるの?」


「え?」


 調理台に肉や野草を並べていると、ルティにそう言われた。


「言いづらいんだけど…それ毒草よ?」


「なん…ですと…」


 今まで食べていた野草はどうやらほとんどが毒草だったらしい。ピリッとした感覚は、香辛料的なものではなく毒によるものと判明した。体が丈夫なのは良いことなのか悪いことなのか…

 ルティがおおよそならわかるというので選別してもらう。毒草を放り捨て、残った食用に出来る野草と肉を石鍋で煮込んでいく。


「調味料はないから味はどうにもならないけど、お腹は膨れるから我慢してね」


「あ、調味料くらいならもってるわよ?ちょっと待ってて」


 そう言うとルティは自分の影に(・・)手を突っ込み、そこから塩や胡椒などを出していく。

 思わず目を丸くしてみてしまう。


「?…ああ、これは自分の影に空間を作る魔法なのよ」


「へぇ、便利そう。僕にも使えるかな?」


「どうかしら?使えるかは適正次第だけど、明日試しに練習してみる?」


「お願い!」


 明日が楽しみになってきた。そうしているうちに出来上がった料理を、削り出して作った木製の食器によそい、食事となった。久しぶりの塩味の効いた料理は実に美味しい。

 食事をしながら、ルティにあれこれと聞いていく。


「そういえば落っこちてきたのはわかったけど、そもそもなんでこんなとこ飛んでたの?」


「あー、それねぇ…」


 そもそも事の発端はルティの生まれによるものだそうだ。なんでも大森林と呼ばれているこの森の東にある国、モイス王国が出身地らしいのだが、そのモイス王国、僕らのような亜人と呼ばれる人々に対して強い差別意識があるとのこと。たまたま先祖返りで遠い先祖の悪魔の血筋が強くでたルティは、その差別の対象となってしまった。両親はいたって普通の人間であるため、迷惑をかけたくないと家を出たのだそうだ。


 ちなみにルティのような悪魔の特徴が濃い魔人や、僕のような竜人といった人達を総称して亜人と呼ぶらしい。


「そういう訳で差別のないアリスト王国に向かおうとしたんだけどね」


 本来であれば南にあるハーヴェスト連邦国という国を経由して、西のアリスト王国に向かうのだそうだが、ルティは横着して森を横断しようとしたらしい。そうしたら予想以上に森が広かった為、持ってきた食料は切れ、下が森のため碌に休めずあえなく墜落して今に至るということだった。


「よくよく考えたら、あのまま死んでたかもしれないのよね。ナツキがいて本当に助かったわ。改めてありがとね」


「どういたしまして。僕も久しぶりに人と話せてよかったよ」


 その後は枯れ草を布団代わりに被り、久しぶりの雑談を楽しみながら就寝となった。




◇◆◇




 翌日、早速魔法を教えてもらうことになった。


「魔法っていうのは、体の中にある魔力をイメージによって具現化して出力する物なの。で、イメージの方向性でなんとか属性って言われたりするんだけど、そもそも魔力はわかる?」


「いや、さっぱり」


「まぁ最初はそうよね。…ちょっと手を貸して?今から魔力を循環させてみるから感覚を掴んでね」


 そう言って僕の両手をとり、集中し始めた。

 暫くすると左手から右手にかけて流れていくような感覚がする。少しくすぐったい。


「今、体の中を動いていた感覚があったと思うけど、あれが魔力ね。あれを火なり水なりイメージで変換して出力する感じ」


 随分ふわっとした説明だ。とりあえず感覚を忘れないうちにやってみるしかないと、色んなものをイメージしながらあれこれ試してみる。が、どれだけ試してもうんともすんともいわない。


「おかしいわねぇ…普通なにかしら一つくらいは形になるはずなんだけど…うん?そういえば今朝もそうだけどナツキどうやって竈に火をつけてたっけ?火打石ではないわよね」


「どうってこうやってだけど?」


 そう言いながら火を吐いてみる。


「あー、腑に落ちたわ。それを見ていればもっと早くわかったのに」


 そういえば竈に火をつける瞬間はルティに見せていない気がする。でもそれがどうしたのだろう。


「ナツキはね、多分それしかできないのよ。残念だけど」


「えー!?」


 衝撃の事実を告げられる。どういうことか話を聞いてみると、種族によって特定の形でしか魔法を使えない事があるらしい。それが僕の場合吐息(ブレス)ということらしかった。ショックでがっくりと肩を落とす。


「まぁまぁそう落ち込まないの。魔力の扱い方がわかったってことは、その吐息も色々調整が効くようになったはずだから。試しに強い火でも吐いてみなさいよ」


 そう言われショックで若干自棄になっていた僕は、思いっきり強い火をイメージして吐いてみる。

 次の瞬間、すさまじい熱波が襲い、辺りが燃え始め地面が溶け始める。


「ストップ!ストォォォップ!?」


 ルティが叫びながら即座に魔法で水を撒き散らし、慌てて消火し始める。しかし勢いが強くなかなか消えない。


「ナツキも手伝って!なんかないの!?こう水の吐息とか!」


「ええ!?ええと、ええと、えい!」


 さすがの惨状にあわあわしつつ、今度は水をイメージしてみる。が、慌てていたせいか水が出てきたはいいが、勢いが強すぎて今度は辺りが吹っ飛ぶ。状況はさらに悪化した。


「「ぎゃああああ!?」」






 結局その後、氷の吐息で辺り一帯を凍り付かせて、ようやく鎮火となった。


「死ぬかと思った…」


「安易に試せって言った私も悪かったけど、ちょっとこれは酷くない?…くしゅん!」


 冷気で鎮火させたものだからものすごく冷える。一面真っ白で、まるでアラスカとかロシアみたいだ。


「明日には溶けてるといいな…」


「しばらくは無理だと思うわよ、これ…」


 暖をとるための火を起こし、今日の練習は終了となったのだった。

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