39 オカエリナサイ
気付くとベッドに寝ていた。見慣れた天井だから恐らく宿だと思う。
いつの間にここまで来たんだろう?
カフェでルティに抱き着かれて、それから……そういやルティは? と思い、ふと隣を見ると、すやすやとルティが寝ていてほっとする。ううん、可愛い寝顔だなぁ。
「……あふ」
そのままルティの寝顔をぼんやり見ていたら、安心したせいでまた眠気が出てきた。
疲れもまだ抜けきってないし、魔法士団も暫くお休みだからこのまま二度寝してしまおう……。
「うーん……」
今度は何か触られてる感覚がして目が覚める。もー、疲れてるのに誰なのさ?
若干不機嫌になりながら目を開けると、ルティが僕のほっぺたをぷにぷにしていた。
「……ルティ何やってるの?」
「んー」
「んー?」
「……帰ってきたんだなぁって思って」
……もう、そんな事言われたら起こされた不満もどこかにいっちゃうじゃない。
思わずルティを抱き寄せて首筋に顔を埋めてしまう。
「いい匂い」
久しぶりのルティの匂いで凄く落ち着く。そのまま首筋にキスまでしちゃった。
「あ! ちょっと! 昨日お風呂入ってないからダメ!」
「あれ? そうなの?」
僕は昨日意識が飛んじゃったからもちろん入ってるわけはないんだけど、ルティも?
「そうなのって、ナツキが運んでくれたんじゃないの? 私、昨日ナツキに抱き着いた後寝ちゃったみたいで、気がついたら宿にいたんだけど」
「ううん、僕もあの時意識飛んじゃったんだよ。僕もルティが運んでくれたのかと思ってたけど、じゃあ誰がここまで?」
「ナツキだとばかり思ってたから……。うーん、そうなるとフィルあたりかしら?」
よくよくお互いを見ると、僕は魔法士団の制服、ルティはカフェの制服のまま。
恐らく倒れた場所から直接運ばれただろうから、フィルが運んでくれた可能性が高いかな。チルはそこまで力ないし、リーズナーさんはお店離れられないだろうしね。
「次会ったらお礼言わないとね」
「そうね。私なんか途中抜けしちゃったわけだから余計にね。チルもリーズナーさんも大変だったろうからそっちもお礼言わないと」
あー、途中抜けの挙句、フィルも僕達を運ぶために一時的に抜けただろうから、二人の負担は相当だったろうなぁ……。三人用にお菓子でも買っていこう。
「とりあえずお風呂入っちゃおうか。制服から着替えたいし」
「そうしましょっか」
お風呂セットを持って二人仲良くお風呂場へ。
いつも通りに洗いあってから、湯船に入る。
「「ふぁ~」」
野営の時以外は毎日入っていたはずなのに、今日のお風呂はとりわけ格別に感じる。
「ねぇルティ、どうして昨日抱き着いてきた後寝ちゃったの?」
「それ、私がそのままそっくりナツキに返したいんだけど」
「僕は……その……隣にルティがいないせいかよく眠れなくて……」
言いながら恥ずかしくなってきて口まで湯船に浸かってしまった。
「…………私も同じ。ナツキがいないと落ち着かなくて……」
ルティも顔を赤くしながら、ぶくぶくと口まで浸かってしまう。
お互い暫くそうしていたけれど、ふと視線が合った時になんだかおかしくなって笑い始めてしまった。
「ぷっ、ふふ。もう、ルティはダメな子だなぁ」
「ふふ、ナツキこそダメな子じゃないの」
くすくすとひとしきり笑って、改めてルティを見て言う。
「本当、ルティがいないとダメな子になっちゃった」
「私もナツキがいないとダメな子になっちゃったわ」
ルティも僕を見てそう言ってくる。
「「……もう離れたりしないから」」
そっと額を合わせ、そう誓い合った。
お風呂から上がり、部屋に戻るとテーブルの上にメモが置いてあることに気付いた。
鍵は閉めて行ったから、部屋を出る前からあったんだと思う。
メモはフィルが残していったものらしい。二人を運んだけど、着替えさせるまで出来なくてごめんなさいって事と、お店の方はリーズナーさんに言って暫く休みにしてもらうように頼んでおいた事が書いてあった。
「最近調子が良くなかったから大分仕事減らしてもらってたんだけど、休みにまでしてくれるだなんて……。フィルにはお世話になりっぱなしね」
「次会ったらなんて言ったけど、今日戻ってきた頃合いにお礼言いに部屋に行こっか。そして明日、お店始まる前にチルとリーズナーさんにもね」
「その方がいいわね。手ぶらも何だし、ちょっとお菓子でも買ってくるわね」
そう言うが早いか、ルティの姿が掻き消える。テレポート……なんだろうなぁ。
戻ってきたらその辺も聞いてみようと思いながら、お茶の準備をする事にした。
お茶を蒸らしてカップに注ごうとした時に丁度帰ってきた。
「おかえり。早かったね」
「お店の前まで飛んだから。ほら、ナツキも知ってる小綺麗なお店」
前にティータイム用のお茶菓子買おうって話になって、お店の見た目が綺麗だからって入ったとこかな? 割と美味しかったからその後もちょこちょこ買ったりしてる。
「ちゃんと私達の分も買ってきてあるわよ」
「さすがだね」
お互い離れていた間にあった出来事なんかを話しながらお茶とお菓子を楽しむ。
「――流石にこっち近づいて来た時はバレたのかと思ったよ」
「危ないわねぇ」
「ところでさ、さっき……昨日もだけど、テレポート使ってたよね? いつの間に覚えたの?」
「ああ、あれは――」
なんでも、やっぱり僕に会いたくてしょうがなくて、でも飛行許可はでないし、歩いて行ったらすれ違うって団長に言われて、それでテレポートなら時間をかけずに街まで行けるだろうと思ったから団長に教えてもらったらしい。
でもテレポートは行った事のある所しか行けなくて、結局街までは行けなかったとか。
「最初、テレポートの原理を聞いたときにその事に気付けばよかったんだろうけど、とにかく会いたくて全然気付けなかったのよね。
それで覚えたはいいけど、調子が悪くなっていた上に私が街に行った事がないって気づいてショックを受けてたから、団長が気を利かせて魔法士団を休みにしてくれたのよ」
そんな訳があってテレポートが使えるようになってたのか。
「色々便利になったから、教えてもらったのはよかったけどね」
そう言ってお茶菓子を見せながら笑う。
あれこれ話していたらいい時間になってた。そろそろフィルも帰ってくるかな。
尊さが臨界点を超えるようなお話が書けるようになりたい……。




