37 調査で尾行は鉄板
それから数日。何度も街と山間部を行き来して探しているけど、さっぱり見つからなからない。
そして僕はあまり眠れなくて、日に日に疲れが溜まっていった。
『早く見つかってくれないかな……さすがにキツイ……』
『確かに、このままだとナツキさんが倒れてしまいますね……』
いつもの様に朝食後に打ち合わせをしているけど、ネラさんも体力的にはともかく、連日気を張っているから精神的な疲労はそこそこ溜まってるみたい。溜息の回数が前より増えてきてる。
お互いこの状態だとジリ貧だ。何か打開策は……。
暫く二人で考え込んでいると、宿のドアが勢いよく開けられ、バタバタと人が入ってきた。騒がしいなぁと、いまいちすっきりしない頭でドアの方をぼんやり見やる。
あれ、あの人初日に挨拶しに行った街長だ。どうしたんだろ。
「ああ、よかった! まだいらっしゃいましたか!」
「どうかなされましたか?」
「つい先程、荷馬車が賊に襲われたという報告がありまして! 急ぎ報告に来たのですが!」
なんだって? くそぅ、アジトを突き止める前に被害が増えてしまった。
「ナツキさん、急ぎましょう。チャンスです。後をつけていければアジトがわかります。
街長、申し訳ありませんが、賊の追跡を優先させて頂きます。襲われた荷馬車の対応は街長と衛兵でお願いいたします」
なるほど、これ以上の被害を抑えるためにも、大本であるアジト発見を優先するのか。さすがに判断が早い。
街長におおよその位置を聞き、急いで宿を出た。
緊急事態なので門まで行かずに、そのままネラさんを抱きかかえて飛び上がる。
『あれですね』
飛び始めてすぐに現場が見えてきた。賊は撤収済みのようだし、御者の人は街に連絡に行ったので、荷馬車の近くに人の影はない。
そのまま現場から山間部にかけてのルートを探す。若干草が倒れたりしてる部分が見つかったのでそれを辿っていく。
『……いた!』
『このままの距離を維持して追ってください!』
賊達は荷車を引いて走ってる。……けど何あの速度? 僕達が魔力循環させて走ってるのといい勝負。
『ねぇ、ネラさん。あれってやっぱり魔力循環させてる?』
『恐らくはそうでしょうね……。魔法が使えるかどうかまではわかりませんが、これは油断できませんね』
魔力循環出来るからと言って、必ず魔法が使えるとは限らないらしい。身体を効率よく動かす訓練をしていて、自然と覚えることもあるからとか。
僕が自然と飛べるようになったのと同じ感じか。
しばらく賊の後をつけていると山間部が見えてきた。向かっている先は……あれ、この間調べた場所っぽい?
見落としがあったとは思えないんだけど、でも実際向かってるしなぁ。
木々で見えなくなってしまうので、降りて走って追いかける。うん、やっぱり調べた場所だ。この先にちょっとした壁っていうか崖があるところ。
賊達はその崖のあるところまで来ると、何やら崖のところを叩いたりし始めた。
すると、崖の一部が変形し、洞穴の様に穴が開いた。あの叩いてたのは合図か。
『魔法で塞いでいたとは。悔しいですがあれを見つけるのは困難ですね。今回チャンスが巡ってきてよかったと言うしかありません』
『とりあえずアジトが見つかったのは良いけど、これ、魔法が使える面子が賊にいる事が確定だよね?』
『そうですね。それも結構、練度が高そうです。やはり団長の言う通り、殲滅戦を避けて正解でした。これはよくよく調査して報告しなければいけませんね』
想定していたよりも賊は面倒な相手だった。ルティが一緒じゃなくてよかったと思ったのは初めてかもしれない。団長に感謝かな、これは。
賊の規模などを知るために、近くに潜んで様子を窺う。時折、周辺の見回りの為なのか武装した賊が出たり入ったりしてる。帯剣してるけど、こっちも訓練されてるんだろうか。
ずっと見張っていると、僕達が追ってきたのとは別の荷車が運び込まれてきた。またどこかで被害でも出たのかと思ったけど、どうも積まれてるのは食料とかっぽい? 野菜っぽいものなんかが見えてる。
『食料……』
昼も食べずに見張ってるから、余計にお腹が減ってくる。ああ、がっつりと分厚いステーキをこう、がぶっといきたい。
『ナツキさん、涎出てますよ。私も同じなのでもうちょっと我慢してください』
うぅ、殺生な。しかしまぁ大量に運び込まれるなぁ。保存食じゃなくて生鮮ものを大量にだから、それだけ大所帯ってことだよね。この賊の討伐隊組むときは結構な人数が必要になりそう。
ネラさんと共に渋い顔をしていると、また見回りの人員の交代なのか、入っていく男達と入れ替わりで獣人の男達が出てきた。
「あー、もう交代かよ。もう少し休ませろってんだ」
「まぁそう言うなよ。ここんとこ順調で腹いっぱい食えてんだし悪かねぇだろ」
「腹は満たせっけどよぉ、もうちょっと休みが欲しいだろ。後何より女っけなさすぎ。近くに色街があるわけでもねぇし、その辺なんとかなんねぇかなぁ」
なんともまぁ下品な会話だこと。いや、気持ちはわからないでもないよ? 僕だって昔は男だったわけだし。
「さぁてとお仕事……ん? なんかいい匂いがすんな?」
そう言って鼻をスンスンさせながら獣人の男がこっちに向かってくる。
『え、ちょっと待って。魔法切れてないよね?』
『切れてるわけないですよ! さっきかけなおしたばっかりじゃないですか! 嘘でしょう!? この魔法、ただ見えなくなるだけじゃなくて認識阻害の効果もあるんですよ!?』
ネラさんが凄い慌ててる。珍しい……じゃない、どうすんのこれ!?
味噌づくりで体がへろへろ……




