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04 お客様


 自身の能力を確認してから二週間ほどたった。

 森を駆け回り、木の実や野草を採取し、兎や鹿などの獲物を捕らえ、捌いて冷凍保存する日々。食料に関してはもう心配することはほぼなくなった。


 ということで次は服と住むところをなんとかしたい。とは言え服に関しては全く当てがないので後回しである。いくら人がいないとはいえ、裸族の趣味はないので早めになんとかしたいのだが。


「とりあえず崖でも掘りますかー」


 当初は木を加工して掘っ建て小屋でも建てようかと思っていたが、釘がないのでいかんともしがたいと気付き、適当な横穴を掘って住居にしようと決めた。

 雨やなんかを考慮し、崖の中腹あたりをざくざくと掘り始める。階段でも作るかと思ったが、出入りは爪でよじ登るか飛べばいいと思いやめた。

 爪と膂力でもって掘り砕き、尻尾で掃き出していく。あっという間にワンフロア分掘り進める。余りにも快調なので思わずテーブルや椅子、棚などを削り出して作った。


 寝室、倉庫、リビングと三部屋ほど作れたので、いそいそと食料や毛皮、石をくり抜いて作っておいた水瓶などを運び込んで作業終了。こちらに来てから今のところ雨に降られていないが、これでもし降られても安心だ。崩落が少々怖いが、出来るだけ硬い場所を選んだので無いと信じたい。


 また、トイレと台所を外に作った。さすがに中に作るのは難しいので、崖に溝を掘り、切り出した木板を差し込んで屋根代わりとした。

 トイレは頑張って水を引き込んで、そこに真ん中に穴をあけた板を渡して和式風に。疑似的ではあるが水洗にできた。紙はないので柔らかめの草で代用。

 台所は石積みの竈で、その上に水瓶同様くり抜いて作った石鍋を置く。調理台は岩をスパッと切って作った台。加工は全て爪。爪がなかったら今頃どうなっていたか…




 住むところが一段落したので、服の変わりに使えそうなものを探しに出る。とは言っても、二週間探してよさそうなものが見つかっていないので余り期待はしていない。半分散歩気分で森の中を歩く。兎でもいれば追加で狩っておこうかなーなんて思っていると、ガサッ!バキバキ!ドスン!と派手な音が聞こえた。

 倒木の音かな、とそのまま散策に戻ろうかと思ったが、もし原因がこの間の巨大猪とかであればせっかく作った住居が壊されかねない。確認して猪なら狩ってしまおうと音のした方へ向かった。


 (うーん?なんか様子が違うな)


 てっきり倒木かと思っていたが、木は倒れていない。代わりに葉っぱと小枝が散乱している。ぱっと見危険もなさそうなのでもっと近づいて確認してみると、それらに埋もれるようにして人が倒れていた。


 (人間…ではないね。僕みたいに翼がついてるし)


 恐らく飛んでいて何かしらの原因で落ちてきたのだろう。しかしまぁかわいい子だ。

 黒髪で肩口くらいのショート。頭の巻いている一対の角に、漫画でありそうな悪魔っぽい翼。尻尾は…なさそうだ。ちょっと残念。


「もしもーし?大丈夫ですかー?」


 息はあるようなので声をかけてみる、が意識がないのか返事はない。揺すってみても気が付く気配はない。

 仕方ない、一旦連れて帰ろう。住居が出来ていて良かった。




◇◆◇




「んん…」


「お、気が付いた?」


 連れて帰ってきた次の日の昼くらいに女の子の意識が戻った。


「…裸族だ!」


「開口一番にそれかい!」


 意識が戻るなり失礼な事を言ったこの子はルティモというらしい。なんであんなところに倒れていたのか聞いてみると、やはり墜落したらしい。


「連日飛び続けで疲れが限界まできてて、そこに空腹が重なっちゃったもんだから意識失っちゃったみたい。助けてくれてありがとね。裸族さん!」


「着るものないからこんな格好だけど、裸族じゃないってば…あと僕の名前は近藤夏樹っていうから宜しくね」


「コンドウナツキ?」


「夏樹って呼び捨てでいいよ」


「ナツキね。私の事はルティって呼んでね。ところで着るものがないってどういうこと?」


 僕はどう言えばいいのか迷ったが、うまく言える自信もないので、まったく別の世界からこの森に放り出され、今日にいたるまでの事をそのまま話した。


「ふーん…別の世界ねぇ、それよりも女の子になったっていうほうが驚きだわ」


「そのくらいの反応で済んでるルティのほうが驚きだよ。…そういえばなんで言葉が通じてるんだろう?」


 何気なく話していたがふと気になった。


「さぁ?体が変わったんでしょう?頭の中も変わったんじゃないの?」


 怖っ!ありえないと言えないのがさらに怖い。のーみそこねこねされたとか考えたくない。

 じゃあ会話が通じるなら文字はどうかと、試しにルティに書いてもらう。…読める。さらに書こうと思うと文字が頭に浮かぶ。怖いを通り越して、もはや気持ちが悪い。


「…とりあえず日も暮れてきたし、ご飯にしようか」


 お腹が膨れれば気も紛れるだろう、そう思い夕飯の準備をし始めた。

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