30 ここは学園ではありません
「一目惚れしました! 好きです! 俺と付き合ってください!」
「もうルティと付き合ってるから……ごめんね」
あれから魔法士団に行ったりカフェに行ったりの生活。入ってすぐだからか意外と魔法士団の仕事の頻度が高めなので給金ちょっと減らすかもなんてリーズナーさんに言われた……本業はカフェのはずなのに。ちくせう。
そして訓練だけじゃなくて座学もあるらしく、今日もせっせと本部まで講義を受けに来ていたんだけど、突然休憩中に呼び出されて……告白された。
まぁサクッと断るんだけど。がっくり項垂れた相手を見るとちょっと悪いかなとも思うけど、好きでもない人にそこまで気を使ってもしょうがないか。
「ねぇルティ、そっち何人目?」
「まだかろうじて両手で数えられるかしら……?」
ごめん、気なんて使ってられない。休憩の度に呼び出されては告白されるんだもん。さすがに毎回だと疲れる……。ぐったり。
周りの女の子の視線も同情だったり、嫉妬だったり、もー大変。僕達なんか悪いことしたっけ?
「はーい、席について。講義を始めますよ」
そう言って部屋に入ってきたのはネラさん。各講師は隊長クラスがやることになってるらしい。あ、そうそうネラさんは隊長で、僕達はネラさんの隊に配属された。知ってる人で、女の人が隊長でよかった。知らない男の人だったらこの間の事もあるからちょっとね。……女の人だから絶対安全とは言えないんだけども。
ネラさんの講義は前に言っていた魔力循環についてだった。真面目に聞いてると、やっぱり僕達の知ってる循環とはちょっと違った。体の中を巡らすという点は同じなんだけど、血液のように巡らすんだとか。細かく体の隅々まで回すようにすることで、魔力コントロールの練習にもなるし、魔力と体が一体化し、魔法の効率化、身体の強化にも繋がるとの事。
ただ、その中心となるのは心臓ではなくて、臍の下の丹田になるとか。丹田って格闘漫画とかで読んだような気もする。あれはこの世界だと現実なのか。
「後日訓練で実際にやってみますので、予習がてら時間のある時に練習しておくようにして下さい」
練習したいけど時間あるかな……。あと変な癖ついてそうで怖い。やっぱり我流は駄目だよねぇ。
そう言えば団長の講義もあった。内容は詠唱関連だった……んだけどチラチラこっち見てくるのが凄くウザかった。何?気でもあるの? 無駄なんで諦めてください。
講義内容は真面目だから仕方なく聞いてたけど、そうじゃなかったら出て行ってたね。
……でもなんで団長が講師やってたんだろう?講師は隊長クラスって聞いてたんだけどなぁ。
こっちも後日訓練でやるらしい。その時も団長が担当だったら事故を装って吐息撃ち込んじゃおうかな。
「……なんてことがあってさぁ」
カフェのオープン前準備の時に魔法士団の話になり、思わず愚痴が零れてしまった。
「それはぁ災難でしたねぇ」
「気のない相手からの視線は得てしてそういう物なのです」
「団長って今日オフじゃなかったかしら? もしかしたらお店まで来るかもね」
やめてください死んでしまいます。そして息をするように建てられたフラグってまず間違いなく回収されるんだよね。
「ここがユートピアか……」
ほら早速回収。オープンして大して経ってないのに来たよ。で、何?ユートピア?こっちからしたらディストピアだよ。
「いらっしゃいませ、お帰りはあちらになります」
「ナツキ君酷くないかね。私は仮にも上司なんだが……」
「今はオフだからね。公私の区別はつけないといけないよね?」
これ以上ないくらいの営業スマイルで応対する。元フリーターを舐めてはいけない。
「わかったわかった、私としてコーヒーくらいは飲ませてくれ。別に何をするわけでもないんだ、それくらいはいいだろう?」
何かされたら色々困るんですが。それにそれはもうお客じゃない別の何かとなるような。
「はいはい、で注文は? 早く飲んで帰れるアイスコーヒーなんてお勧めだよ」
「寒くなってきたというのにそれはないだろ……。一体何が不満だと言うのだね? 私自身は何かした覚えもないし、契約内容ならナツキ君達に十二分に有利な内容だろう?」
「よく言うね? あんなセクハラされて、一方的な告白されまくって、挙句講義中に団長がチラチラ見てくるとか辞めてないだけいいと思うよ?」
「み、みてないぞ? そんな中傷はやめてくれないか」
「バレバレだから。僕かルティに気があるのか知らないけど、僕とルティはもう付き合ってるからね。お生憎様」
ここぞとばかりに捲し立てる。周りから見たら結構辛辣だと思われるかもしれないけど、鈍い僕だって薄々は気づいてるんだよ。なーんか下心があるなって。
ん? なんか周りが騒がしいような?
「え、なんかセクハラって聞こえたんだけど?」「俺ナツキちゃんとルティちゃん付き合ってるの知らなかったんだけど」「お前知らなかったのかよ」「掛け算が捗るぜ!」「待て、掛け算でどっちが先に来るかが問題だ」「おいおい、ファンクラブ会員ですら告白は禁止されてるのに、誰が告白したってんだ?」「ナツキちゃん達入ったのって魔法士団てとこだっけ? そこのやつらじゃね?」
あ……。飛び火しちゃった? お客さん達が団長をガン見してる。
若干殺気も出始めた。あー、僕しーらないっと。
「頑張って?」
「若干誤解があるようだから、ナツキ君とは今度じっくり話し合わないといけないな……」
苦い顔をしながら何かを詠唱してそのまま消えていった。テレポート? 地味だけど凄い。伊達に団長やってるわけじゃないんだなぁ。
……待って、この状況だと僕かルティがみんなに質問攻めにされるパターンじゃ?
予想通り、この後滅茶苦茶質問された。
うーん、不定期更新て皆さん嫌ですよねぇ?
どうしようかな……とりあえず次回の投稿は木曜にします。
申し訳ないです。




