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03 森の中


 一瞬思考が止まる。なぜなら、姿かたちから猪であるのは確かだが、非常にでかい。

 体長は五メートルくらいはあるだろう。また牙も非常に大きい。ちょっと規格外すぎではないだろうか。

 フゴフゴ鳴きながらこちらを見ている。完全にこちらをロックオンしている模様。


「ちょっちょっ、わわわ!」


 逃げようとするが咄嗟のことでうまく体が動かない。マズイ!死ぬ!と気が焦る。普通の猪ですら体当たりされたら死んでしまったりするのに、あんな大きさの猪ならまず間違いなくお星さまになってしまうだろう。軽くパニックになりかけた時、猪が走り出す。


「わあぁぁぁぁ!?」


 せっかく生きていけるかと思っていたのにこのまま死んでしまうんだろうか。痛いのは嫌だ!などの思いが頭を駆け巡り、無駄だとわかりつつぎゅっと目を瞑り、恐怖を振り払うように腕を振るった。


「……?」


 襲い掛かってくる衝撃に備え身構えているが、その瞬間が訪れない。

 不思議に思い恐る恐る目を開けてみると、猪の姿がない。

 まさか夢だったのか。いやそんなはずはないと、よたよたと立ち上がり辺りを見回してみる。

 …いた。けれども明後日の方向を向いている挙句、随分と離れた位置にいる。しかも寝ている。これは一体どういうことかと思ったとき僕の手が視界に入る。


「なぁにこれぇ…」


 血塗れの手がある。が、問題なのは血塗れということでなく、そこについている大きな(・・・)爪である。

 わきわきと手を動かしてみる。きちんと動く。やはり僕の手であるようだ。さっきまでは何ともなかったのに一体どうして…と、そこでふと気付く。


 (そういや僕、人間じゃなくなってるんだっけ)


 恐らくは手を振るったときに無意識に変化したのだろう。となると猪は…と考え近づいてみると、そこには頭がグズグズになった猪の姿があった。猪の状況と、大分離れた位置まで吹っ飛んでることから、筋力なども人の規格ではなくなっているようだ。


 図らずもお肉ゲット!などとさっきまで怯えていたのも忘れ小躍りする。

 早速解体しようとするが、ナイフがないので大きくなったままの爪で捌くことになる。しかし大きすぎて使いづらい。もうちょっと小さければナイフ代わりになるのに、と思っているとスゥッと爪が小さくなっていく。


「おぉ!?」


 あっという間に僕が想像していたサイズにまで小さくなる。どうやら意思によって調整できるようだ。試しに猪の腹に当ててみるとサクサクと切れる。捌くのに問題はなさそうだ。意気揚々と皮を裂き、剥いでいく。


 (まさか猟師動画を見ていたのが役に立つなんて、思いもしなかったな)


 以前見た動画を思い出しながら作業していく。しかしさすがに大きすぎたせいで全部剥ぎ終わる前に日が暮れてしまった。

 続きは明日だな、と思い作業を中断し、木の実を齧ってその日は寝ることにした。








 昨日に引き続き爽やかな朝。背伸びをして起き上がる。

 布団なんてあるわけがないので地面の上に直接寝たのだが、思ったより体は痛くない。もしかしたら体自体も丈夫になっているのかもしれない。

 朝食として木の実と野草を齧る。いまいちお腹が膨れないが猪を捌き終わるまでだと思い我慢する。

 しかし捌き終わったらどうやって食べようか。生肉は避けたい。牡丹鍋とは言わないが、せめて焼いて食べたいところではある。


 (竜なんだから火でも吐けないかな?)


 などと思いながらフーッと息を吐いてみた。すると普通に火がでてきた。なんともファンタジーで便利な体になったもんだ、と呆れ半分でそんなことを思いながら、猪解体の続きに手を付けた。


 肉を切り分け、皮に着いている脂や肉をこそげ落とす。鞣すことができれば皮を服にでもできたのだろうが、さすがにそこまでの知識はなかった。とりあえず綺麗に洗って乾かせば寝床の敷物くらいにはなるだろうと、じゃぶじゃぶ洗って適当な岩場で干すことにした。

 日が天辺を通り過ぎたあたりで、一通りの作業が終わった。早速とばかりに枯れ木を集め、息を吹きかけ火をつける。切り分けた肉を木の枝にさし、焼いていく。




「げふ、いやぁ食べた食べた」


 新鮮な上、上質な脂身のおかげで非常においしかった。空腹なのと、一昨日お肉を食べ損ねているのでなおさらそう感じたのもある。まだまだ肉はあるのでしばらくはお腹いっぱい食べられるだろう。


 食後の休憩を終えてから、僕の体を見てみる。昨日は見た目しか確認しなかったが、どうも色々なことが出来るようなのでその確認である。


 まず筋力。試しに岩をもちあげてみる。ひょいっと持ち上がる。あまりにあっけなく持ち上がるので、一番大きい四メートルくらいの岩で試す。こちらもひょいっと持ち上がる。一体どういう原理…と思ったが考えてもわかるわけがないので、そういうものだと無理やり納得する。持ち上げても背骨が潰れたりもしないので、単純な体の強度も凄いことになってそうだ。もしかしたら昨日の猪の突進を食らっても大丈夫だったのかもしれない。試したくはないが。


 次に翼と尻尾。尻尾は大きさは変えられないが、結構自在に動かせる。岩に叩きつけてみると岩が粉々になった。巻きつけて締め上げることもできる。

 翼は大きさ調整ができた。練習次第で飛べそうだ。夢が広がる。


 そして爪。両手両足で大きさ調整はできるし、どうやら切れ味調整もできるようだ。引っかけて使えるし、刃物代わりにも使える。この先ナイフや包丁はもう使うことはないだろう。そのくらい自由が利く。


 あとは俗にいうブレスも試してみた。火以外に冷気も吐けた。早速解体した肉に吹きかけ冷凍保存。食料の長期保存が出来るようなったのは嬉しい。

 ここまで色々出来るなら光線でも吐けるんじゃないかとふざけて試してみたら――


 大惨事になった。


 文字通りレーザーブレス。吐いた先に合った崖がさっくりと切断され、さらに爆発。結構な範囲が吹き飛び、余波で木々がなぎ倒された。これはよほどのことがない限り封印しておこうと、夕暮れの中遠い目をしながら誓ったのだった。

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