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12 秘密


 しんどい日々が終わった。ようやく僕もルティも満足に動き回れるようになったので、仕事を休んでいた分を取り戻すのと、気分転換を兼ねて大森林の近くまでやってきた。


「これで五匹目っと。順調だね」


「いいペースね。それにしても森に入ってもいないのに随分といるわねぇ」


 森に入ってしまえばなんて事はない量なのだけれど、入ってもいないのにこれだけ獲物がいるのはちょっと不可解だそうだ。


「まぁ楽だしいいんじゃない?」


 深く考えずそう言いながら、僕は血抜きを済ませ、野営の時に一匹食べようと毛皮を剥いでいる時だった。


オォォォォ!!


 何かの雄たけびが聞こえてくる。


「なんだろう…」


「気になるわね。ちょっと行ってみましょう」


 そう言ってルティは翼を広げ飛び立つ。僕も慌てて後を追う。


 そして雄たけびの聞こえてきた方向に飛んでいくと、何かが争っているところが見えてきた。


「!ルティ、あそこ!」


「助けるわよ!」


 そこにいたのはトロールが数匹と、それに囲まれている二人組だった。


 時間をかけていられない状況と判断して、着地せずに低空から風の吐息を頭に打ち込みバレルロールで回避。ルティはサイドスリップしながら水の矢を撃ち込んでトロールを殲滅した。

 やっぱりトロールって弱いと思う…


 撃ち漏らしがないか確認して近くに降り立つ。


「大丈夫ですか?」


「あ、ああ大丈夫だ。助かったよ」


 二人組の人間の男のほうが答える。もう一人は獣人の女性っぽい。猫耳がついてる…触りたい。


「ありがとうございますです。もう駄目かと思ってました…」


「改めてありがとう。俺はカイン。よろしくな」


「私はフィルです。よろしくなのです。」


「僕はナツキ」


「私はルティモ。ルティって呼んでね」


 お互い簡単に自己紹介を済ませ、何があったのか聞いてみた。


「この間トロールが大量に駆除されただろう?この辺じゃそんなに見かけないのにおかしいってことで調査依頼が出たんだ。そんでそれを受けて痕跡を辿っていってたんだが…」


 大量駆除はこの間僕達がやった件ぽい。異常だったんだ、あれ…


「森の中まで調査して、戻ってきたところでトロールと鉢合わせしちまったんだわ。いや本当に助かった」


「いえいえ。ところで調査結果は?差し支えなければ教えてもらいたいんですけど」


「ああ、いいぜ。どうもな、何かから逃げてきたみたいなんだわ。ただ何から逃げてきたのかがわからん」


「森の中で何かが大きく争った痕跡があったのです。痕跡を見る限り、魔獣の類ではなさそうですし、大分規模もあるので…。とりあえず報告に戻ろうとしたところなのです」


「そんな訳だから俺達はこれから戻って報告してくる。助けてくれた礼に今度飯でも奢らせてくれ」


「じゃあとびきり高いところ探しておかなくちゃ」


 笑いながらそう言うと、そこそこで頼むとカインは苦笑しながら街へ向かっていった。


「僕達はもうちょっと狩ってから野営しようか。…ルティ?」


 返事がないので不思議に思っていると、震えながら俯いていた。

 どうしたのかと覗き込んでみると変な汗をすごいかいていた。


「ルティ?体調でも悪いの?」


「…ナツキ。前に特訓なんて言って遊んだの覚えてる?」


「覚えてるよ?あと一日二日で森から出られるからって、ノリノリになって魔法やら吐息やら好き放題やっちゃったんだよね」


「場所は覚えてる?」


「場所?確か……そうそうここからあっちの方に行っ…て…」


 ちょっと待って。嫌な予感がしてきた。さっき争いの痕跡を発見したとかなんとか言ってなかったっけ…


「ええと、つまり…え?そういうこと…?」


「多分だけど、トロールを追い立てた犯人は…」


「「……」」


 お互い変な汗が止まらない。オカシイナーナンデダロウナー。


 何とも言えない空気になって結局狩りはやめて野営することにした。







「次ぃ!」


 次の日、即行で街に戻り、トロール関連の依頼を片っ端から受けることになった。

 最初は依頼を受けないで駆除しちゃおうと思ってたけど、依頼を受けて片付けたほうが街の人が安心できると気付いてやめた。でも依頼を片付けるということは報酬も貰うということになるわけで…。マッチポンプみたいで非常に具合がよろしくないが仕方がない。


 そんなこんなで駆けずり回り、日もとっぷりと暮れたころ全ての依頼が片付いた。


「よぉ、お疲れさん」


 組合に戻り報告をして、テーブルに突っ伏していると組合長が声をかけてきた。


「いやぁ、嬢ちゃん達が受けてくれて助かった。普通ならこんな早く片付かないからな」


 う…やって当然というかなんというか…気まずい。…かと言って真相を話す勇気もない。うぅ…


「纏めて片付けてくれたから、お礼として報酬にちょっとだけ色つけといたからな。うまいもんでも食ってくれ」


「アリガトウゴザイマス…」


 やめて!僕達の胃の耐久度はゼロよ!

 罪悪感ではち切れそうになった僕達はそそくさと組合を後にした。




 ちなみにその後しばらく、トロールという単語を聞くたびにビクビクしていたのは僕とルティだけの秘密。

お読みいただきありがとうございます。

閑話的な短いものがちょこっと入るので、一日から三日までは二話ずつ投稿致します。

それでは皆様良いお年を。

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