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永遠  作者: まほろば
3/3



天魔界は暗く淀んでいた。

「う…」

來が鼻と口を左手で覆う。

「この苦しさは何だ」

來が顔をしかめた。

『神を名乗る物が負の気を天魔界に流しておる』

來の後ろに、黒い1枚羽根を広げた天魔界人の姿をした白虎が立った。

「父上」

來が懐かしそうに白虎を呼んだ。

『久しいな』

白虎は膝を付いてかしずいた。

『【永遠さま】』

「父上っ!」

來は白虎の腕を掴んで立たせようとする。

その動作に白虎が哀れみの目を向けた。

『緋龍は元気か』

「母上には最近お会いしておりません」

來が顔を背けてぼそりと言った。

永遠の立てと促す仕草に白虎が立ち上がった。

『そうか』

白虎の声は静かだった。

菩薩の期待は緋龍には重かったのかもしれない。

白虎の目は、來の奥に春雷と【鳳來】を見ていた。

『今日は如何様な』

白虎が永遠に問う。

『魔界に來の知り人が拐われてな』

永遠が最後まで言わなくても白虎は察して頷いた。

『宇宙の従者も愚かな事を』

『焦っているのよ』

永遠が微かに笑って來を見た。

『不出来な息子よ』

白虎のため息は深い。

最初來の近く天界に白虎が転生するはずだった。

が、天魔界の気に緋龍が耐えられず、天界に緋龍が転生する形になった。

天界と天魔界の恋愛はタブー。

それを、【鳳來】を内にした來が産まれると宇宙の従者の反対を退けたのは、転生を司る閻魔だった。

宇宙の従者は夫婦になろうと会うのは年に1度、それが飲めないなら許さないと強引に出た。

それが出来たのは、宇宙が従者の言い分を鵜呑みにして押したからだ。

後から激昂した閻魔が宇宙に真実を告げたのを、従者は知らない。

それでも決まりは決まり。

來の誕生後の育児は天界で緋龍に任せる形になった。

天界と天魔界の子の來には天魔界の気は強すぎて、天魔界で育てる事は断念するしかなかった。

緋龍の育児に不安を持った白虎が天界と天魔界を行き来するつもりでいたが、それは宇宙の従者に阻止されてそれが出来なかった。

それが悪手だと白虎が気付いても既に遅く、來の考えは孤独を好む緋龍に近くなっていた。

年に1度の再開では白虎が教えられる事も少なく、白虎が歯軋りした事も少なくない。

『來。また無茶をしたか』

「無茶ではない。大切な友の弟。助けるのが正義だ」

來は怒りのまま口にする。

『己で出来ぬ事を成そうとするは愚か者のする事』

「俺は出来る」

『自分でここまで来れる力を付けてから言え』

白虎が冷たく切り捨てる。

『お前では結界は超えられぬ』

「く…」

悔しそうな來を白虎が残念そうに見た。



「永遠。行くぞ」

來が苛立ちに任せて永遠を呼んだ。

その時の、絶望から天をあおいだ白虎の顔を見たのは永遠だけだった。

『緋龍の不始末、申し訳も無く』

『それも運命(さだめ)よ』

永遠の、穏やかな笑いに隠された諦めの思いが白虎の胸を強く叩く。

『【鳳來】まだ足りぬのか』

白虎の殺した声は來に向かった。

どれだけ【永遠さま】を傷付けるのか。

産まれ変わっても、【鳳來】の性格は変わらない。

緋龍に苦労させても、自分が來を育てるべきだった、と白虎は悔やんだ。

『みな宇宙の手の内よ。誰にも変えられぬ』

永遠の言葉の内には諦めが隠れていた。

『見舞いたいが』

永遠が白虎に聞いた。

白虎が目の光を來に悟られぬよう伏せた。

『こちらへ』

白虎が案内したのは天魔界の最下層だった。

「ここは…まさか妹の宝が居るのかっ!」

來が白虎を押し退けて先へ進んだ。

『來っ!』

白虎が咎めても來は聞きもしない。

分かってはいたが、これが息子だと思うと腹立たしい気持ちしか産まれない。

白虎の顔にはそう書かれていた。

「宝っ!」

來は暗い部屋に飛び込んで妹の名前を呼んだ。

しかし、ここでも來は結界に阻まれる。

「何故だっ!俺は兄だぞっ!」

來は怒鳴りながら結界を叩いていた。

結界の外からでは、ベッドに誰かが横たわって居るのは分かるが顔までは見えない。

『宝が妹だと?緋龍が言ったのか?』

白虎が殺気を隠さず聞いた。

「母上は何も教えてくれぬ。知ったのは神の啓示よ」

白虎の顔が怒りで歪んだ。

『また宇宙の従者か』

舌打ちの音に來が振り向く。

「違うのか」

來の問いに白虎は答えない。

「教えてくれっ!何故俺らは別々に育てられたんだ」

怒りに震える白虎の前に永遠が立った。

『我が答えよう』

「何故お前が?」

『來っ』

來を咎める白虎を永遠が手で制した。

『良い』

永遠が來と向き合った。

『お前が産まれた時、天界は消滅仕掛けた』

「俺が?何故だ?」

來は首をかしげた。

『お前の中には生と負が混在していたからよ』

それはどちらも激しい【鳳來】の気性だった。

転生して仮の姿と重なり合った事で、【鳳來】の力が暴走した。

それは閻魔にも計算外だった。

春雷として生を全うした戦いの神が、抵抗せず転生の流れに乗る事が出来た事が、閻魔を見誤らせた。

結果として【鳳來】の來としての3度目の転生を可能にしたのだが、産まれた時の衝撃が大き過ぎた。

天界を救うには來の中から負の気を取り払うしか策は無く、永遠が宝として來の負を封じ込めた。

「…嘘だ」

『嘘ではない』

「しかし神は、宝が目覚めた時この星は楽園に変わると言っていたぞ」

『それを信じたか』

白虎が冷たく言った。

宇宙の従者が言いたかったのは、來が成長して宝を掌握する力を付ければ【鳳來】として【覚醒】する可能性が高くなる、と言う事だ。

それを來の耳には聞こえの良い例えで並べた。

「宝が目覚めれば良い方に変わるのは本当だろ?」

『宝の目覚めはお前次第』

「俺次第?」

白虎の返事に來が首を傾げた。

『宝は力の塊。お前が受け入れられるほどになれば』

「俺は今でも受け入れられる。宝を受け入れられれば俺は強くなれるんだな」

目先の欲望に振り回される來を白虎が苦い目で見る。

『來の望むままに』

『ですが【永遠さま】』

白虎に迷いが見えた。

『構わぬ』

白虎の視線が永遠に訴える。

來が【覚醒】すれば自分の役割も終わると思い定めている【永遠さま】を見るのは辛い、と。

『解いてやれ』

今の來に宝を受け入れる力は無いが、引き合わせる事で【覚醒】する可能性は高い。

永遠はその可能性に期待した。



結界が白虎の手で解かれる。

一気に溢れた負の気が、來を飲み込んだ。

來の周りの空気が激しく振動した。

『來っ!』

白虎が衝撃に声を上げた。

來の背中には黒白1対の羽根が見えていた。

來が宝の負の気に飲み込まれる。

『白虎。結界を張れ』

永遠は宝と共鳴する來を結界に閉じ込めた。

來の放つ負の気が吸い込まれるように永遠へ流れる。

星の終息が近い永遠には無謀で苦痛しか生まない行為でも、來の中の【鳳來】を負の感情で【覚醒】させる事はさせてはならなかった。

『【永遠さま】我に任されよ』

『白虎には重い』

『それは【永遠さま】とて、いや我より辛いはず』

白虎の目に姿を保てなくなっている永遠が映る。

この星が壊れ、この星に生きる命が消える事よりも、苦しいだけで生を終えようとする【永遠さま】が白虎には哀れで切なかった。

【鳳來】さえ慈悲の心を知れば…。

その思いが悔しく白虎の中に消えない。

弱さを知らないから労りを知らない。

それを正せなかった自分と緋龍の罪は重い。

力ばかりが強さではない、と何度も來を諭してきた白虎だったが、來に他人に対する労りの心を芽生えさせる事は出来なかった。

今の白虎は、菩薩に叱責される事よりも【永遠さま】を救えない自分の非力さに歯噛みする。

その怒りは全ての根元である來に向いた。

『憎しみは何も生まぬ。春雷で悟ったであろう』

永遠の声に白虎の顔が歪んだ。




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