表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Faith  作者: 桧山 紗綺


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/41

9 模擬戦

「始めっ!」

 短い掛け声でフレッドが走り出す。

 陽動も何も仕掛けず、真っ直ぐな剣筋でアンネムに向かう。

 アンネムは笑みすら浮かべる余裕でフレッドを見ていた。

「ほんっとに単純だよね」

 薄く開いたくちびるから辛辣な言葉が飛び出す。

 渾身の力で振り下ろされた剣がアンネムに迫る。

 すっ、と自然な動きで身を躱し、姿を消す。

 勢い余ったフレッドはその場でたたらを踏み、アンネムの姿を探す。その致命的な隙をアンネムが見逃すはずもなく、音も無く繰り出された拳がフレッドの顔を捉えた。

「はい、おしまい」

 神速の拳を眼前で止め、つまらなそうにアンネムが告げる。

 気を呑まれていたエリクが慌てて終了を宣言し、二人に駆け寄った。

 完膚なきまでに叩きのめされたフレッドは信じられないような目でアンネムを見る。

 その瞳に苛立ったようにアンネムが厳しい言葉を投げつけた。

「マジ弱すぎ。 口が達者だからもう少しましかと思ってたよ」

 フレッドは悔しそうに唇を噛むが言い返すこともできない。それほど圧倒的な試合だった。

「小さいから射程を延ばしたいとかなら槍を使えばいいじゃん。 なんでわざわざ扱いきれないヤツ選んだの」

 冷たい声の問いかけに言葉もなく俯き、拳を握りしめている。

「まさかカッコイイからなんて短絡的な理由じゃないよね。 さすがに呆れる」

「…それの、何が悪いんだよ」

 憧れの人と同じ武器を持ちたい。それがフレッドの動機だったがアンネムは切り捨てる。

「妄想も大概にしなよ。 武器を持てば強くなるってわけじゃないんだから」

 武器は自在に扱えてこそ無駄のないきれいな動きになる。振り回すだけでは剣術とは言わない。

「威嚇のために大きな武器を持つとかもあるだろうけど、お前じゃ却って逆効果だって。

 小さいし、顔だって怖くないし。 むしろ動きが遅くて逃げやすそうに見える」

 睨みつけながらもアンネムの言葉が正しいことはわかっているのだろう。これまでも注意はされていた。アンネムほど厳しい言葉で言う人間がいなかっただけで。

 歯噛みするフレッドに息を吐いてアンネムが促す。

「剣を取りなよ。 もう一度試合するから」

 何を言っているのかといった目でフレッドがアンネムを見る。今しがたの敗者は明らかだが、アンネムの言いたいのはそういうことではなかった。

「そんな役に立たない得物じゃなくて普通の剣持ってきて」

 アンネムの真意を図りかねるようにのろのろとした動き。見かねてエリクが自分の剣を貸す。

 渡されたのはごく一般的な剣で、長さもそれほどない。それ故に扱いやすく多く使われている剣。

「構えて」

 剣を手にしてフレッドの表情も改まる。自然な構えでアンネムに対峙した。

 それを見てアンネムの瞳が微かに細められる。

 笑んだ―――。

 そう見えた瞬間、アンネムが剣を構えるフレッドに向かって駆け出す。

 一息で距離を詰め、打撃を放つ。

 反応したフレッドが剣の腹で受け止めようとする。

 それを読んでいたアンネムは一歩引くと反転して足でフレッドの頭を狙う。

 これにもフレッドはついて行き、僅かに首を傾けるだけで蹴りを避けた。

 アンネムのくちびるが動いた。わずかに上がった口角が笑みを形作る。

「何かアンネム笑ってるね」

 アーリアの隣にきたエリクが二人を見ながら言う。

「フレッドのことちょっとは見直したのかな?」

 ケンカばかりすることを一番気にしていたエリクは剣を打ち合わせる二人を見て嬉しそうだ。

「さっきと違ってよく見えてる」

 アーリアが淡々と言う。

 アンネムの素早い動きをフレッドはよく見ていた。

「うん。 武器のこともあるんだろうけど、落ち着いてる」

 挑発を真に受けて興奮していたときと違い今は相手の動きを見て反応できている。

 後ろに跳んでアンネムの蹴りを避けたフレッドが剣を凪ぐ。

 二撃目を放とうとしていたアンネムは牽制され足踏みする。

「いつもああならいいのに」

 フレッドの相手を務めることの多いエリクが呟く。

 大剣を持っているときのフレッドは気負いすぎるから、と。

「アンネムはいい刺激になったみたいだな」

 突然二人の間に別の声が割って入った。

「「副長!」」

 驚いたアーリアとエリクが揃って同じ名を呼ぶ。

「いっくら言ってもやめようとしなかったのがあれだ。 アンネムが負かしてくれて良かったな。 いい経験だ」

「副長。 いつから見てたんですか?」

 エリクが不思議そうに問う。訓練場には自分たち以外に人影はなかったはずだ。

「今来たところだよ。 珍しく時間になっても来ない奴がいるから」

 ジェラールの言葉にアーリアが反応する。

「え?! もうそんな時間でした? すみません」

 空はまだ明るいが、陽の色が変わり始めていた。

「まあいいけどな」

 何でも無いことのように笑うジェラールを見てアーリアはさらに頭を下げる。

「すみません、行きましょうか」

「見ていってからでもかまわないが?」

「いいえ。 優先がありますから」

 そう答えてアーリアはアンネムに呼びかける。

「アンネム!」

 振り返ったアンネムがアーリアの隣にいるジェラールを見て目を大きく見開く。

「ごめんなさい! 時間になったのでまた今度!」

 アーリアが謝罪を述べるとフレッドが口を挿んだ。

「え? 何。 アーリアどっか行くのか?」

 フレッドの言葉を無視してアーリアがジェラールに目を向ける。それでエリクとアンネムは察したらしい。

 アンネムが走り寄りジェラールに低く告げる。

「仕方ないけど。 次は邪魔すんなよ」

 ジェラールは笑うだけで返事をしない。

 舌打ちをしてアンネムはアーリアに向き直った。

「気をつけてな。 手合せは今度楽しみにしてるよ」

「ええ。 また今度」

 アンネムに頷いて見せるとエリクの心配そうな顔が目に入った。

「アーリア…」

「いってきます」

 笑顔で告げるとどうにか作った笑みで答えてくれる。

 フレッドに軽く手を振ると三人に背中を向けて歩き出した

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ