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Faith  作者: 桧山 紗綺


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7 アンネム

 黙って少年を見つめていたジェラールの右手が閃いた。

 ジェラールの手刀が少年の脳天に落とされる。

「いだっ!」

「却下」

 端的な否定に少年が文句を言う。

「何でだよ! 俺はそこのより絶対に役に立つぞ!」

 視線で指されたフレッドが赤い顔で言い返す。

「馬鹿にするな! 俺の方が役に立つに決まってるだろう!」

 フレッドを無視してジェラールが少年に告げる。

「理由は二つ。

 一つ、この国では騎士団には入れるのは見習いでも14から。

 二つ、お前みたいな子供を働かせるほど騎士団は困っていない」

 頭を抑えながら少年が反論する。

「嘘だ。 この国は騎士が少ないって聞いたぞ。

 だからあいつもここで仕事することにしたんだし」

 少年の話を聞いて何人かはやはりかと思った。騎士団にとっては頭の痛い課題だ。

「人数が少なかろうが多かろうが子供を働かせたりはしない」

「何でだ? 俺がいた方が絶対に便利だぞ?」

 少年が言い募る。この年で自分の価値を知り、利用させることをためらわないことに、ジェイドが痛ましげな視線を向ける。

「それは私たちが目指す騎士団の形じゃないから」

 アーリアも口を挿む。子供の頃から騎士団と行動を共にしていたアーリアの言うことではないが、少年の主張は受け入れられない。

「なんで…、意味わかんねえ」

 理解できないと少年が首を振る。

 納得できない様子の少年にジェイドが穏やかに現実を突きつけた。

「まあ、どんなに嫌でも君が救護院に行くことはほぼ決定ですから。 抵抗してもしかたがないですよ」

「あー! もういいよ。 俺に選択肢はないってことだろ?」

 少年が観念したのを見てジェラールが縄を解くようジェイドに命じる。

「そうですね。 君が何処の誰だかわかれば帰してあげられる可能性もなくはないですが」

 掛けた縄を解きながらジェイドが少年の生まれを聞く。

「そんなの俺にもわかんないよ」

「そうですか。 まあ、話はこれからも聞くことになりますから、その過程でわかることもあるでしょう」

 淡々とした言葉で語るジェイドに答えながら少年が部屋を見回す。

「そういえばここ、何処?」

「さっきも説明したんですが興奮して聞いていませんでしたからね」

 ジェイドは責めるつもりで口にしたのではないが少年はばつの悪い顔で黙った。

「ここは王宮内にある騎士団の宿舎です。

 この部屋は医務室。 君が怪我をしていたので連れてきました」

 少年が自分の体に巻かれた包帯に目を落とす。

「あんたが手当てしてくれたのか?」

「ええ」

「悪かったな、暴れたりして」

 ジェイドに怪我はなかったものの、部屋の物はあちこち壊れ散乱している。

「大したことではないので、気にしないでください」

「片づけ、手伝うよ」

「それは助かりますが怪我が痛みませんか?」

「これくらい怪我の内に入らないって! 俺を誰だと思ってるんだ」

 得意気に胸を張る。少年の言葉にジェイドが首を傾げる。

「そういえばまだ君の名前を聞いてませんでしたね」

「そうだった。 俺はアンネムっていうんだ!」

 手当てを受けた恩義からか、アンネムはジェイドに対して素直な態度だ。

「アンネム? 変わった名前だな」

「うるさいな。 そういうお前はなんだよ」

「俺はフレッドだ!」

「お前も騎士なのか? 弱そー」

「んなっ…!」

 怒りで顔を赤くするフレッドを無視してアンネムはエリクに顔を向けた。

「あんたもさっき見た気がする」

「ああ、俺も君が起きた時医務室にいたからね」

 アンネムが暴れだしたためジェイドに部屋を出されるまで、エリクは医務室にいた。

「よろしく。 俺はエリクっていうんだ」

 にこやかに握手を求めるエリクに毒気を抜かれたのか、アンネムは大人しく手を差し出す。

「よろしく…」

「なんか俺と態度が違い過ぎないか…?」

 憤懣とフレッドがぼやくがエリクは笑って取り合わない。

「フレッドが怒鳴ってばかりいるからじゃないのか」

「違うって! 最初から態度悪いぞ」

 ぶつぶつと文句を言うフレッドをエリクが宥める。彼らのやり取りはいつもこうだ。

「私はアーリアといいます」

 アーリアが名乗ると少年が目を煌めかせる。

「アーリア、いい名前だな!」

「ふふ、ありがとうございます。 あなたの手当てをしていた彼がジェイドといいます」

「ジェイド、さん。 手当てありがとな」

 ジェイドにさん付けしたのを聞いてフレッドがますます不機嫌になる。

「当然のことですから、いいんですよ」

 視線は最後の人物に向く。

「ん? 俺か。

 俺はジェラール。 この騎士団の副団長を務めている。」

「副団長? あんたが?

 どう見たって俺とそんなに変わらない歳なのに。 さてはコネか」

 アンネムは11だという。年齢に比べて幼い外見は栄養不足のせいだろう。

「コネだけで副長が務まるほど騎士団は暇じゃないさ。 俺の実力」

 そもそも実力のない人間に副長を任せられるほど騎士団に余裕は無い。

「へー。 すごいな」

「アンネム君。 彼は若く見えますが、僕よりも年上です」

 二十歳そこそこのジェイドに言われてアンネムの目が大きくなる。

 ジェラールはどう見てもフレッドと同じくらいに見えた。

「うっそ…。 全然見えないし!

 詐欺じゃん! 何その外見!」

 あり得ない…、と呟くアンネム。驚いたことに気分を良くしたジェラールが力強く答える。

「ふっ…。 時計の針の止まった身体、永遠の少年、奇跡の体現者などといろいろ呼び名はあるが、俺を表すのに必要な言葉はただ一つ」

 期待を持たせるように間を取ったジェラールをアンネムは期待した瞳で見つめている。

「『騎士』の一言だけだ」

「すっげ! かっこいいね!」

 騎士団の面々は呆れた顔をしていたが、何故かアンネムは称賛の眼差しでジェラールを見つめている。

 ぱちぱちと手を叩くアンネムにアーリアが注意する。

「アンネム。 あまり彼を誉めないでください」

 調子に乗るので、とアーリアが言うとジェラールが口を尖らせた。

「俺の部下は冷たい奴ばかりだな。 たまには褒めたって罰は当たらないぞ」

「喜んでまた働いてしまうから駄目です」

 アーリアの答えにアンネムが不思議そうに聞く。

「働くならいいじゃんか。 働かない男は最低だけど、よく働く男はいいって言ってたぞ」

「誰が?」

「食堂のおばちゃん」

 どこの食堂か知らないが子供に吹き込むことではない。

 それともアンネムにそうなりそうな未来が見えたということか。

「確かに働き者というところでは素晴らしいんですが、彼は働き過ぎなんです。

 終わりのない仕事だというのに休みもしないで働くから困るんですよ」

 アーリアに軽く睨まれてジェラールが肩をすくめる。

「ジェラール。 本当に自分で気をつけてください。

 あなたが倒れてもベッドは貸しませんよ」

「はは、本当に冷たいな」

「笑ってないで気を付ける努力をしてください」

 ジェイドとアーリア二人に言われて、さすがに耳が痛いように顔を顰める。

「あんた偉いのにあんまり大事にされてないんだな」

「違うさ。 大事にしてるから口うるさくいうんだ」

 アンネムの言葉を否定し、自慢気に笑う。

「わかってるならやってください」

 反省の色のないジェラールの台詞にジェイドが苦言を足した。

「なんかいいな。 家族みたいだ」

「四六時中一緒にいるからね。 ほとんど家族みたいなものだよ」

 アンネムの台詞にエリクが同意する。

「そうか? 俺はこんな家族はごめんだ」

「フレッドは近くに家があるからそう思うんだろうね。 俺は家族がいないせいか、余計そう思うよ」

 エリクの言葉にフレッドが気まずそうに目を逸らす。

「エリクも一人なのか?」

「そうだな…。 家族っていえるほど近い人間はいないな。 だから騎士団のみんなが家族みたいなものだ」

「ふうん、そっか…」

 アンネムも思うところがあるのかエリクの言葉を静かに聞いている。

「アンネムもこれから家族ができるよ、きっと」

「俺みたいな人間がそうそう受け入れられるとは思わないけどな」

「そんなことはないよ。 君ならやっていける」

 真摯な瞳で諭すエリク。真剣に自分に向き合っていることが伝わるのかアンネムは素直な顔で肯く。

「ありがと…。 あんた、いいヤツだな!」

 アンネムの言葉にエリクが微笑む。彼はいつも面倒見がいいけれど年少者を相手にすると、本当にお兄さんのようだ。

「さて、みなさん。 そろそろ戻ってください。

 アンネム君はまだ休まなければいけませんから、違う部屋へ案内します。

 エリク、お願いできますね?」

「はい! もちろんです」

「では、そういうことでジェラールも出て行ってくださいね。

 フレッド、丁度いいので片づけを手伝ってください」

「ジェイドさん、俺やるって!」

 慌ててそう言うアンネムにジェイドは優しく諭す。

「いいんですよ。 君はまず、怪我を治して元気になることを一番に考えてください。

 もし、気になるようでしたらまた今度何か手伝ってくれますか?」

「わかった!」

「また来るのか、あいつ…」

 ジェイドが許可したのだからきっと来るだろう。

 不満顔なのはフレッドだけで、エリクもジェイドもうれしそうだった。

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