4 騎士たちの休憩
「リア、出てきていいのか?」
「ええ、もう家族が見えたので」
声を掛けてきたのはだらしなくソファーにもたれかかった青年。
癖のある黒髪の下からは愛嬌のある緑の瞳が覗いている。
「せっかく貴族の娘を助けたんだ、親にも顔を売ってきたらどうだ?」
からかっているのだとわかっていても、なんだか不快だった。
「そうですね。 ロドリオ、どうぞ行ってらしてください」
笑いながら言ったつもりなのに出た声は低い。
「おいおい、ちゃんと戻ってこいよ」
答えた口調を咎められる。
「そうだね。 いつまでも気を張っていたらいけないよ?」
机を挿んでロドリオの向かいに座っていた金髪の青年からも注意された。
一人掛けソファに座ってボードゲームの駒を手にしている。
机に盤があるところからして、二人で対戦でもしていたのだろう。
「す、…ごめん」
普段の口調に意識して戻す。
自分では普通にしていたつもりだったけれど、まだ任務中の緊張から抜け出てなかったみたい。
「まあ、いつもより緊迫感のある任務だったんだろうとは思うけどね」
そう言いながら青年がゲーム盤に駒を置く。
淡い金色の髪が揺れ青年の表情を隠す。
「俺も参加出来たらよかったな」
ぞっとする冷たさで青年が呟く。
顔が見えなくてよかったとアーリアは心の中で思った。
顔を上げたときにはすでに穏やかそうな笑みを浮かべていた。
「まあ尋問する機会はまだあると思うけど、あまり大げさなことは出来ないからな」
その言葉を聞いて彼が任務に加わっていたら、逃走や抵抗の危険があると理由づけて乱暴をするつもりだったんじゃないかと疑ってしまう。
彼を逮捕の人員に選ばなかったジェラールの采配に感心する。
「よっぽどじゃなきゃお前に声はかからねえよ」
ロドリオの言うことももっともだ。被疑者にも最低限の権利はあるのだから。
「ロドリオとクロードはここで何をしてるの?」
着崩した制服が違和感なく似合っている、街にいる色男といった様子のロドリオ(裏町に片足突っ込んでいるような雰囲気があるが)。
対してクロードは金髪碧眼に爽やかな顔立ちをしていて、物語に登場する『騎士様』といったイメージの人だ。中身は大分違うが。
見た目も性格も正反対な二人だけどよく任務で二人行動している。
プライベートでも一緒にいることが多いので仲が良いなあ、と思う。
「休みじゃなかったと思うけど」
騎士団の宿舎内なので彼らがいるのは当然だが、隣室には救助者とその家族がいる。わざわざこんなところにいる意味はあるのだろうか。
「見回りの時間まで警備を兼ねた休憩ってところだな」
「そう…」
警備を兼ねてとはいえ、広い部屋でゆっくりしたいんだろう。
早めに出て恋人のところでのんびりすればいいのに、とは口に出さなかった。
一度それを言ってすっごい冷たい目で「ガキは黙ってろ」と言われたことがある。
それまで騎士団の人間を怖いと思ったことはなかったが、そのときは本当に怖かった。
今ならロドリオがそう言った気持ちも少しわかる。
なので、黙って大人しくお茶を淹れることにした。




