39 守りたいもの
レイドと案内の騎士が立ち去るのを見送りながらすでに限界を感じていた。
彼らが視界から消え、辺りに人がいないのを感じるとアーリアの身体から一気に力が抜ける。
「おっと…」
ふらついたアーリアを抱きとめて、倒れるのを防ぐ。
「すみません…、もう、限界です…」
消えそうな声で呟いたかと思うと目を閉じた。
力の抜けた身体を抱きかかえて息を吐く。
「やれやれ、エネルギー切れか」
子供のように身を預けて眠る姿を見つめるとじわっと胸が熱くなる。
大方昨日は寝ていないんだろう。
アーリアがこうして無防備な姿を晒すのは団長とジェラールの前だけだ。無条件の信頼に喜びが浮かぶ。
「何があってもお前を守るよ」
乱れた髪の間から覗いた額にキスをする。
何も考えずにしていた頃とは、胸に浮かぶ感情も何もかもが違う。
身を守る術も知らなかった少女はいつの間にか身を守る力を付け、危険に慣れ、ジェラールの一番近くに立っている。
「手放せる訳ないじゃないか…」
共に戦える力を得るほど一心に騎士を慕い続けたアーリアを憐れだとも思う。
寄る辺のない少女に仮初の宿を与えそこを家だと錯覚させた。
しかし年月と共に少女は成長し、自らの力で仮宿を家にしてみせる。
その強さに感嘆し、いつの間にか惹かれていた。
感じるのは親心ではなく、年長者としての愛情でもなく、利己的な欲望。
「俺が歪めたかもしれない人生を、また選ぶなんて馬鹿だな」
騎士団から飛び出すこともできたのに、残ることを選んだ。
馬鹿な選択だと思うのに、たまらなく嬉しくて、愛おしい。
「お前はどんな生き方だってできる。
それこそ姫として生きることも、一国の君主として玉座に立つことも、一人の女として平穏な道を選ぶことだってできるんだ…」
それでも―――。
「その全てを捨てて俺と共に騎士団で生きてほしい。
騎士団副長の妻、ではなく、騎士として。
ただの『アーリア』として、俺を愛してくれるか」
眠っているからできる身勝手な告白にアーリアの口が動いた。
何ごとかを口内で呟き、また口を閉じる。
あどけなくも見える表情に口元が緩んだ。
「夢でも見てるのか? やれやれ」
腕の中で眠る姿をかわいいと思う。
時と共にその意味が変化しても、根底にある「守りたい」という思いは同じだった。




