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Faith  作者: 桧山 紗綺


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38/41

38 変化はめまぐるしく

 髪の一筋が結ばれた指輪と書状を携えてふらふらと男が歩いて行く。

「途中で落とさなければいいんですけれど」

 先程の顔が嘘のようにトーンを変えた声で姫が呟いた。

「脅し過ぎだ」

 ジェラールが窘めるように姫の頭を押さえる。

 一時のこととはいえ、気を呑まれていた自分を内心で叱咤し口を開く。

「姫、彼を脅したのは書状を持って行くのを拒ませないためですか?」

「ええ、そうです。 なんだか途中で書状をを破棄しそうな気がしたのでやったんですが…。

 やり過ぎましたか?」

 確かに途中で書状を捨てられでもしたらせっかくシリルを捕らえた意味がない。

 家令の一存で行うには大それたことだが、可能性はゼロではなかった。

「多少そんな気もしますが、いいのではないですか?」

 人質を取られて働かされていた身からすれば同情する気にはならない。

 ああは言っていても騎士たちと革命派は人質を丁重に扱うだろう。

 短絡的なことはしないとわかっている。

 が、相手はそうではない。

 自分のやり口で想像していればさぞかし息子の身に起こることを恐れているだろうな。

 口には出さないがいい気味だ。

「私は仲間の様子を見てきます。 場所を教えてもらえますか」

 アルドの無事は確かめたが全員の顔を見たい。

「ああ、案内させる」

 会ったらこれからのことも話さないといけないな。

 いや、これまでのことを聞く方が先か。

 内容次第で侯爵への対応の仕方も変わる。

「侯爵への連絡まで今日済ませられるとは思いませんでした」

 数日どころか一日、数時間でめまぐるしく変わる情勢にめまいがしそうだ。

 そこはふたりも同じだったらしく、レイドの言葉に頷く

「そうですねー。 私も驚きました」

「そうだな。 ここまで順調にいくとは思わなかった」

 この状況を作り出した二人ですらそう感じているのだから巻き込まれたレイドの疲労感も当然だ。

 最初に巻き込んだのはこちらだったはずだけれど、いつの間にか彼らのペースになっている。

「さすがに疲れました…」

「姫も今日はゆっくり休んでください」

 話したいことはまだあったがこれ以上は今話すべきではない。

 感謝も、謝罪も、まだ早かった。

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