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Faith  作者: 桧山 紗綺


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34 非公式の同盟

 レイドとアーリアの話が纏まった後、青年は部屋を出て行く。

 怪我がないとはいえ、彼はまだ本調子でない。今一番必要なのは休養だった。

 レイドも安心したようで、本来の余裕が出てきたようだ。

 それに反して顔色をなくしたのがシリルだ。レイドが彼に従う理由も、彼を守る理由も、もう何一つない。

 侯爵に対する人質になり得る彼は手土産としてゴードンの監視下に置くことになった。

 ゴードンの部下に連れて行かれるシリルは、肩を落とし力無い足取りで部屋を後にした。完全に立場は逆転している。

「しかし人の隠れ家でいろいろやってくれるな」

 男が咎めるが言葉はおもしろそうに笑っていた。

「あんたらは結局何者だ。 お嬢ちゃんも王家の血を引くただの小娘ってわけじゃないだろう」

 ここに至るまでアーリアもレイドも、当然ジェラールも自身の所属について話していない。

 レイドについてはアーリアが明らかにしたが、本人たちはクロスフィールド騎士団の人間であると言っていない。男が疑問を持つのは当然の流れだった。

「紹介が遅れたのは申し訳ないが、見てわからないか」

 ジェラールが指し示したのは自身が身にまとっている軍服。

 黒を基調にした軍服は襟に何処の騎士団であるかを示す紋章が刺繍されている。

 わかりづらいように同色で縫われてある紋章を見て、男も流石に息を呑んだ。

「よく、そんなものを着て外を歩いてこられましたね」

 レイドが感嘆ともつかない声で言う。

 敵として戦ったことのある国で纏うには危険な服だ。

「遠目からはわからないし、ちゃんと上からコートを着ていたからな」

 胸を張って言うが、そういう問題でもない。何が起こるかわからない他国で不用心すぎる。それだけ自信があるということなのだろうけれど。

「クロスフィールド王国騎士団の紋章…? まさか、本物なのか」

「本物だ。 信じられないのならこれも見せよう」

 そう言ってジェラールが取り出したのは一振りの剣。柄に埋め込まれた宝石と刻まれた紋章に男の顔が真剣なものになっていく。

「本物か…。 いや、もういい。 ありがとう」

 男が真剣になるのも当然だ。本来騎士が与えられた剣を他人に見せることなどないからだ。身分証でもあるが、王から賜った剣を一介の市民に身分の証として見せることなど、通常あり得ない。

 そこにジェラールの本気を感じ取ったから男も黙ったのだろう。

 男の目がアーリアに移る。

「私には彼のように証明するものは何もありませんが、彼と同じ騎士団に所属しております」

 一礼して顔を上げたアーリアは雰囲気を一変させ、凛とした気配を身にまとう。

 男もこの答えは意外だったようだ。女の騎士がいるなどとはこの国どころかこの大陸でも聞いたことがないからだろう。

「騎士…? あんたがか?」

「叙任されていませんので、騎士ではありません。 私の存在は国王陛下も知りませんから」

 非公式に騎士団に所属していると聞いて男が更に驚いた。

「レイフィールド王家の血を引く娘がクロスフィールドの王国騎士団で秘密裏に働いてるって…」

 頭を抱えて唸る。彼は今、知らなければよかったと思っていることだろう。

 秘密など、極力知らない方が平和に生きていける。

 男から平穏に生きる道を奪ったアーリアは平然とした顔で話を続ける。革命組織のリーダーをやっている時点ですでに平和とは程遠いが。

「革命派がこの国で力を得るためには国軍派と貴族派を排除、または力を削ぐ必要がありますが、まだあなた方にそれだけの力はない」

 現状を知っている故に厳しい顔をする男に、アーリアは力に満ちた声で宣言した。

「私たち王国騎士団が力添えいたします」

 アーリアの言葉にその場にいる人間が唖然とした顔で彼女を見つめる。

 他国の内乱に介入するなんて前代未聞な話だからだ。

「もちろん人数の問題などがありますから表だって戦闘に参加することはできませんが、事前工作や戦闘訓練などは任せてください」

 この国に来ている騎士団の人員は十数名だと言う。一度に他国に派遣する人数としても少ないし、集団戦闘が出来るほどの人数はいない。

 また、人数が揃っていたところで戦闘に参加などできるわけもない。

 他国に軍事介入することを知られるわけにはいかないからだ。特に国王や貴族には知られるわけにはいかない。そんなことが知られれば騎士団の存続そのものが怪しくなる。

「正気か、あんたら…」

 男の言葉はかなり失礼だったが、レイドも同じ気持ちだった。

「そうでなくてこんな場所まで来ると?」

 ジェラールが不敵な笑みで答えれば、姫も口の端を上げて笑う。

 並んだその笑みはそっくりに、よく似ていた。

「ばれたら首が無くなる可能性もありますね」

 姫が笑んだままとんでもない未来を語る。彼らはその覚悟もしているのだ、本気で。

「我々はそれでも手を貸す価値があると思っています」

 重大な結果をもたらす決断を、男が迷ったのは一瞬だった。

「…改めて頼む。

 俺たちに力を貸してくれ。 この国を変えるにはあんたたちの力がいる」

 男の言葉にジェラールが頷き、手を差し出す。

「クロスフィールド王国騎士団副団長ジェラールの名を以て、貴殿らへの助力を約束する」

 ジェラールの手を強く握り返し、決して表に出ることのない非公式の同盟は結ばれた。

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