28 失望にも似た
廊下を歩きながらレイドは胸がざわつくのを感じていた。
彼女はあんな人だったのか、と失望にも似た想いが胸を騒がせる。
あの人の何を知っているのか、と自嘲も浮かぶ。
知らない間に期待をしていたのか。何故?
「ずいぶん騒がしかったな」
曲がり角から現れたジェラールがにやにやと笑いながらレイドに向かって歩いてくる。うるさいシリルの声は聞こえていたとしてもおかしくない。
「彼女はレイフィールドに行くことを快諾しましたよ」
「ああ、船の用意を早めるように伝えておいた」
レイドが告げてもジェラールは全く驚かなかった。
「まるで彼女が承知することを知っていたようですね」
抑えたつもりがいらだちの混じった声になり、それにまた苛立つ。
波立つ心がジェラールの笑みでさらに荒れていく。
「お前が失敗すると思ってなかっただけだ」
彼の顔を見て直感的に嘘だと感じた。
そこまでの信頼を得る理由がないのと、彼には別の思惑があるような気がした。それがなんなのかわからなくてもやもやする。
計画通りに進んでいるはずなのに知らずに破綻しているようなそんな気がしてならない。
「あなたも船に?」
「ああ、最後まで見ないと気が済まないからな」
「そこまでして何故彼女をレイフィールドに行かせたいのです?」
「どうしてだと思う?」
ジェラールの見せた笑みは謎かけを求めるような可愛いものじゃなかった。解けるものなら解いてみろと言うように不敵に笑い、レイドの答えを試している。
少年のような外見に惑わされるが、彼はレイドよりも人生を長く生き、世故長けた人間なのだ。
レイド自身も他人より多くのものを見てきたつもりだが、彼が経験したものはそれだけではないのだと、今更に思い知る。
額を冷たい汗が伝う。答えを間違えられないと、強く思った。
「あなたは…」
口が上手く動かない。舌がもつれそうになるのを抑え、ゆっくり言葉を切る。
「あなたは、本当に彼女を手放す気があるのですか?」
頭が回らないままの言葉は口から出た瞬間に脳へ到達した。
自覚もないままに出た言葉は彼の核心を捉えていた。
レイドが返した答えにジェラールが笑みを返す。顔に似合わぬ老獪な笑みに背筋に冷たいものが走る。
「いい勘をしてるな。 犯罪者にしておくには惜しい」
その顔を見てこの仕事に彼を組み込んだことを後悔した。
警戒心を最大にして目の前の男を見る。
彼の目的が読めない。姫が騎士団にいると不都合だからレイドに手を貸しているのだと今まで思っていた。それが違っていることは彼の口から確かめられた。
では何故。何のために。レイドと行動しているのだろうか。
答えを見失って混乱するレイドにジェラールは笑みだけを残して立ち去った。




