#5 「跳躍」
そこにはものすごく高い堤防があった。
それは一本道の側面にずっと続いている。
反対側には住宅街や団地がある。
こんなに高いと見ることも触れることもできないだろうに。
ジャンプしても絶対に届かない、なんて思ってた。
家しか見ることができなくてつまらない。
川も見たい...。隠れてるものは見たくなる。
僕の後ろでユンが堤防を見つめながら歩く。
川が見たいんだろうなあ。
ユンがジャンプした。
と思ったら、ものすごい勢いで空に飛んでいった。
まるで重力が無いことが当然だというように。
驚いて「ええ...」としか言葉が出なかった。
ユンが落ちてくるのを待っていたら、ものすごい声で落ちてきた。
凄まじい音で着地。どこまで飛んでいったのか知らないが、
これでは無事ですむはずが無いだろう。砂煙がもくもくと立つ。
しばらくして、砂煙はおさまった。彼は大丈夫だろうか。
ユンはしっかりとその地面に立っていた。
どうしてこんなに丈夫なのだろう。人間じゃないのではないか。
僕なら絶対に死ぬだろう。少なくとも骨折以上だ。
『意外と大丈夫だった。ユキオも飛んでみてよ。楽しいよ。』
なんと僕を誘うのか。殺す気か。僕は絶対に嫌だ。断固拒否する。
「えー...絶対に嫌だ。ユンは無事だったけど、こっちは無事じゃ済まない。」
ユンがしょんぼりとする。ちょっと可哀想だけど、後先を考えれば...な。
ここで立ち止まってしまったが、また歩き続ける。
いつの間にか、この狂った重力はもとに戻った。
住宅街は、特に何も無かった。
でも異様に静かだった。誰も住んでいないのだろうか。
普通なら、静かにしても少しは音が聞こえるだろう。
僕はその位の方が安心なのだ。でも、全くそのような音は聞こえない。
強いていえば、僕らの足音や息が聞こえるくらい。
何か気持ち悪さを感じたまま、住宅街を出た。
また来たいとは思えなかった。でもそれは、前にも行った他の場所達にも言える。
一回きりなら、今度は前よりもっと探索してみよう。
そう思いながら、僕らは次へ。