#1 『初めまして』
朝から夜まで働けば疲れる。それは当たり前だ。
給料がほしくて働いているのだ。楽しみだってある。
とにかく頑張るしか無い。
疲れた。バイトがやっと終わり、帰宅する。
そういえば、明日ってアレに載ってたゲームの発売日だな。
でも金が足りない...。今でも精いっぱいだ。
それでも欲しい....。
ぼんやりとそう思いながらいつもの横断歩道を渡る。
僕はどうやら横のまぶしいライトに気づけなかったようだ。
クラクションの音でやっと気づいた。まるで「邪魔だ」と暗示するかのような。
横を向いたときに、既にいたのだ。信号無視のトラックは僕を無理やり飛ばす。
その瞬間のこと。僕の目の前に水面が現れる。
混乱した。
しばらくして立つことができたが、水たまり程の深さの水が延々と続く。
空の向こうに綺麗な水平線が見えた。この光景は確かウユニ塩湖、とやらで見た。
...誰かがいる。
後ろ側に誰かがたっている。そんな気配がした。振り向いてみたが、誰もいなかった。
怖かったが、知らないフリをして目の前を見た。
「おう...」
そんな声しか出なかった。
目の前に人がいた。なんだか不思議な服装だった。
まるで中国人の、よう、な....。緑色の、服。男とは分かる。
でもちょっと男にしては小さいな...。
目の前の人はしゃべりだした。
『そこで何してるの?』
こんにちはでもなく、初めましてでもなく、質問から始まった。
その少し高めの声には何の悪意も混じって無かった。
混乱している僕も質問をした。
「あなた誰ですか?」
咄嗟に出た言葉だ。相手の質問にも答えず言ってしまった。
『あ、そう...初めまして。』
なんか少し冷めた様子だ。謝った方がいいのだろうか。
『あ、名前だよね...俺は尹って名前。よろしくね。』
やっぱり中国人なのか。初対面なのにフレンドリーだな...。価値観の違いか。
相手には僕も名乗らなければいけない。
「僕、は、...佐藤行雄です。よろしく...。」
ああ、人前は緊張する。これだから自己紹介は苦手なのだ。
お互いに自己紹介を済ませる。個人的にはあまり好かない。
夢なのか現実なのかよくわからない。そして、何も無さすぎてすることがない。
でも何も無いのはここだけかも知れない。それなら散策してみるのもありだな...。
勇気を振り絞って、ユンに話しかける。...と思ったら逆に話しかけられた。
『ここ何も無いよね...。ちょっと歩いてみない?』
思ってたことを全て僕に返してくれた。この人はすごい。
「ああ、ぼ、僕もそう思ってたんだよね。そうしようか。」
年下(に見える)を前にして挙動不審。なんて情けない..........。
そのうちなれるだろうけど、接し方に気をつけなくちゃな。
こうして僕らは一歩を踏み出した。