外見
また悪夢を見た。
私は街を歩いていた。
おかしい。みんながふりかえる。
私の顔を見ると、目を見ひらいて、顔をそらす。そらしたあと、すれちがった直後にふりかえって私を注視する。
私の顔に何があるのか。
私の顔に何がついているのか。
親子づれとすれちがった。若い母親と、未就学児の女の子。
女児が私を指さして、
「おかあさん、あのひと!」
と声を投げた。母親は女児の手をつかみ、たちさろうと足を早める。
もうがまんできなかった。
私は女児のまえにまわりこみ、できるだけやさしい声をつくって、
「どうしたのかな? 私の顔がどうなっているのか、教えてもらえるかな?」
と、たずねた。
女児の視線は私の顔に食いついている。
母親があわてながら女児をさとした。
「なんでもないわよね、ねっ?」
「……うん、なんにもないよ」
親子づれは去っていった。
私の顔の何が目をひきつけるのか、聞きだすことはできなかった。
帰宅した私は真実を知った。
鏡をみた。
女児はウソをついていなかった。
私の顔は、なかった。
首から上がなかった。
首の赤い断面のまんなかで、黄ばんだ白がふるえていた。背骨の断面だった。