残された眼球
また悪夢を見た。
私は学生服を着ていた。中学生だ。
バスをおりて校門へ歩いていると、異常に気がついた。
眼帯をしている生徒が多い。いや、全員が右目をかくしている。
「おはようっ」
級友が私に声をかけた。笑顔。眼帯はしていなかった。昨日まで右目があった場所は、えぐれて赤黒い肉穴を見せていた。
「お、おはよう……。そ、その目はどうしたの?」
「右目? ああ、朝おきたら、なくなってたんだよね。ほかのみんなもそうだと思うよ。……あれ? あなたは、あるんだね、右目」
級友は急に無表情になって、私から去った。
教室。みんな右目がなかった。
「おはよう。へえ、きみだけ右目があるんだね」
「ふうん、きみは、右目がなくならなかったんだね」
あいつだけみぎめがある。
アイツダケミギメガアル。
教室で私のうわさが始まった。
あいつは僕たちとちがう。
あいつは私たちとちがう。
私を見つめる視線が、どんどん冷たくなっていく。
級友たちは全員が眼帯をはずしていた。血ばしった左目と、右目代わりの赤い傷穴が私をにらんでいる。
私は教室をでた。耐えられなかった。なぜ私だけこんな目にあうのか。なぜ右目があるというだけで仲間に入れてもらえないのか。なぜ私の右目は消えてくれなかったのか。
悪いのは私の右目だ。
全部、全部、この右目が悪いんだ。
私はトイレにいた。鏡のまえ。親指と人差し指を突き入れて、一気に右目をくりぬいた。
教室にもどった私は、すがすがしい気持ちで席についた。
血がとまらない。
痛い、痛い、痛い。
それでも、私はみんなとおなじなのだ。もう仲間はずれではないのだ。
教師がやってきた。
起立、礼、着席。
「よし、出席をとるぞ。おや? このクラスは、ひとりだけ左目があるやつがいるんだな?」
クラス全員がふりかえって私を見た。
教師も級友も、全員が両目をなくしていた。