右腕さがし
また悪夢をみた。
墓石、
墓石、
墓石。
私は墓地にいた。すべての墓石にありえないものが乗っている。
手だ。手首だ。生きている。にらにらと指を動かしている。墓石のうえに突きたっている。何百本という手が、異界の肉食植物のようにうごめているのだ。
地の底からひびくような声がした。
『このなかに、おまえの右手がある。選べ。当ててみせろ』
私は右腕を見た。手首が、赤い断面を見せている。右手がない。
『このなかに、おまえの右手がある。出血多量で死にたくなければ、当ててみせろ』
声の主は、墓石に乗っていた。カエルだ。醜悪なイボガエルだ。しゃべるたびにイボが割れて、毒の水をふきだしている。
『さがせ、おまえの右腕をさがせ』
私は手首たちを見わたした。
血まみれの手。
焼けただれた手。
ナイフをにぎった手。
正体不明の内臓をつかんでいる手。
どれが私の手首なのか。死にたくない。出血多量で死にたくない。だれかを殺してでも、死にたくない。
『選べ、おまえの手を選べ。おまえの手はこの墓地にある。たくさんの手のなかから、たったひとつのおまえの手を見つけてみせろ』
イボガエルがにんまりと笑った。
そのとき、どれが私の手なのかわかった。
私は右腕を見た。赤黒い断面。本物の手ならつながるはずだ。左腕でイボガエルをつかみ、そのままにぎりつぶした。
カエルから、血と、血ではない液体がほとばしる。
私はさらに強くにぎり、カエルの首を体からひきちぎった。醜悪な両生類の頭部を私の右手首に接合した。なじんだ。
『……そうだ、おれが、おまえの右腕だ』
私の右腕が、邪悪なイボガエルの顔で笑った。
私もにんまりと笑った。私の顔もイボガエルだった。