生首少女
また悪夢を見た。
目のまえに美少女がいた。少女が言う。
「わたしの体はどこに行ったの?」
少女は首だけだった。ガラステーブルに乗っていた。少女の長い黒髪がテーブルの上にたゆたっている。
私は答えた。
「まっていてください。いま、体を探してきます」
私は手で土を掘った。道具を使うことは許されていなかった。
土砂のなかに白い手が見えた。
首のない体を掘りあてた。肩も腰もほそく、繊細な女性の裸身だった。
「体をみつけました。これが、あなたの体ですか?」
生首少女はまばたきしてから、
「いいえ、それはわたしの体ではないわ」
私は別の体を探さなければならなかった。
凍土をつめで掘った。十指から血がながれた。
氷の下に、ゆたかな乳房が見えた。
首のない体を掘りあてた。大きな胸、豊満な尻。ふとももから足首への流麗な脚線美。
「体をみつけました。これが、あなたの体ですか?」
首だけの少女は沈黙した。ゆっくりと目をひらいて、
「いいえ、それはわたしの体ではないわ。――わたしの体がどんなかたちだったか、やっと思いだしたわ。わたしの体がどこにあるか、やっとわかったわ」
「教えてください。あなたの体はどこにあるのですか?」
私は地にたおれた。いつのまにか、少女の髪が足首にからみついていた。
少女の髪が、黒い触手と化して私をテーブルへ持ちあげた。
髪は私の全身にからみついていた。動けない。
少女はほほえんで言った。
「わたしの体は、初めからないわ。わたしは首だけで生まれたの。……おまえのせいで」