表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
schermirsi  作者: 影都 千虎
8/11

08

 ボスはやはりボスだったと言うべきだろうか。ヴァンパイアとしての本来の能力を得たネロのスピードにギリギリで対応し、女は繰り出された蹴りに光の壁をぶつけることでダメージを回避した。

「――――ッ」

 右足の焼けるような痛みにネロは思わず顔を歪めた。ヴァンパイアとしての能力が高まっているお陰で、太陽のみならず、光魔法にも弱くなっているのだ。

「全体的に強くなったお陰で、更に光に脆くなったのかしら? ――なら、こっちの方が有利よね」

 ネロの表情を見ると、女は強張らせていた表情を緩めて、ペロリと舌なめずりをした。そして気を集中させ、自分の周囲に複数の光の玉を造っていく。

「避けきれるかしら?」

 その声と同時に光の玉がネロへと降り注ぐ。どうやら光の玉は物理的にも強いらしく、光の玉が当たった箇所は土煙をあげ、抉れていた。これが人に当たったら一体どうなってしまうのだろうか。

 その場に居たままでは避けられないと判断したネロは、バック転をし、大回りに走ることで直撃を避けていた。光の玉はそんなネロをホーミングしているため、ネロの通った場所にはぼこぼこと抉られた道が敷かれていた。


「……あら? どこに消えたのかしら」

 女は攻撃を止めると周囲を見渡した。土煙のお陰で視界が悪く、ネロの姿をとらえることができない。

「――ここだよ」

「え?」

 声が聞こえたときにはもう遅い。ネロは女の懐に飛び込んできており、影を纏った掌底を放っていた。

 女の腹にあてられた掌は、打撃だけではなくだめ押しとばかりに真っ黒な光線のようなものを放つ。ボキボキと肋骨が折れる音を出しながら女の身体は宙を舞っていた。

「うッ……くッ……容赦、無いわねぇ……ッ!」

 なんとか空中で体勢を立て直したらしく、地面に着地すると女は低い姿勢で忌々しげにネロを睨んだ。右手は地面に、左手は身体にあてられており、かなりのダメージを負ったことが見てとれた。

 しかし、ダメージを負ったのは女だけではない。

「ッうぅ!?」

 たった今女をぶっ飛ばしたネロの右腕が一気に傷を開き勢いよく血を吹き出した。予想していなかったダメージに、ネロは驚愕の色を隠せない。

 なんと驚くべきことに、女は光線が放たれる直前かそのほぼ同時に、光で造った小さな刃でネロの右腕を斬りつけていたのだ。伊達にボスと呼ばれてない実力と根性である。傷口が開くまで攻撃されたとも認識させないとはかなりの業だ。

「……っは」ネロは中々血の止まらない右腕を影できつく縛り上げると軽く息を吐いた。「骨が折れてもそれかよ」

 化け物じみてる、と小さく呟いてお返しと言わんばかりに女へ影の雨を降らせた。そして、それが光の壁で全て防がれてしまうことを見越して、女の後ろへ回り込み隙をつこうとする。

「はい、ざーんねんっ」

「あ……ッ?」

 女に向けて伸ばした腕は女には届かない。隙をつけるはずだったのに、ネロは細い光に串刺しにされていた。光が消えると、支えを失ったネロの身体は潰れるように地面へ落ち、口からは血が溢れる。

「魔法でいけば防がれるから、逆にその隙をついて肉弾戦に持ち込む……いい狙いだったとは思うわよ? でもね」立ち上がり、クルリと半回転すると女はネロに顔を近づけ、にっこりと笑って言った。「そう来ると予測できちゃえば、対処できちゃうの。残念だったわね?」

「…………」

 ネロは何も返さない。何ヵ所も貫かれたため傷が深く、ただ苦しそうに呼吸を繰り返すだけだ。

「主ッ!」

「ネロッ!」

 見てられなくなったのか、ビアンコとブランテの声が重なり、二人は同時に動き出す。

 ビアンコが放った魔術を女が避けても、反対側にいたブランテが弾き返して再利用する、なんて連携に女は忌々しげに舌打ちした。そして「地味に厄介だわ」なんて吐き捨てるように言う。

「実体のない外野は大人しくして――」

「さ、せる……かぁぁあああぁぁぁぁッ!!」

 手を高く挙げピンと立てた人差し指に魔力を集中させ始めた女の言葉を遮って、ネロは気合いで動く。そして、女の魔術の発動を妨害するのではなく、ビアンコとブランテを守るために全力を尽くす。

「う、ぐッ」

 一瞬真っ白な光が辺りを支配して、それが消えていく頃にはネロは光の鎖でがんじがらめにされていた。

「ああああッ」

 ギシギシと鎖が身体を締め付け、串刺しにされた傷にも容赦なく圧力を加える。

「あら? ヴァンパイアちゃん捕まえちゃった。丁度いいわ、そのまま大人しくしていてくれるかしら?」

 これ幸いと女は言う。もう、ネロが動くことはほぼ不可能だろう。そう確信すると顔を綻ばせた。そして、ビアンコに突き立てビアンコを散らした、あの巨大な十字架をネロのすぐ上に出現させる。

「この状態で魔力を散らしちゃえば、おねんねの時間になるわよね」

 おやすみ。と女は軽くウインクをして指を鳴らした。

「がッ――ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 十字架が突き立てられると、ネロから絶叫が上がり、白と黒の花火が飛び散った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ