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schermirsi  作者: 影都 千虎
2/11

02

 叩きつけられた身体はピクリとも動かない。ビアンコは自分が何をされたのか全く理解できないでいた。

「光属性……ッ」

 どうやらクリムはビアンコが何をされたのかわかったらしく、きつく女を睨み付けた。そして、こういうとき自分が力を失ったことを心の底から恨めしく思う。今のクリムには何もできることがない。

 ビアンコの身体には黄色く光る鎖のようなものが巻き付けられていた。それはクリムの見立て通り光で作られたもの。影を遣うネロの魔力で作られたビアンコは勿論影で出来ているため、光で縛られてしまえば身動きができなくなるのは当然のことだった。しかも、女は鎖だけではなくビアンコに直接魔力を注ぎ込み麻痺させるという技まで使っている。ビアンコは指一本動かすどころか、少しの間は声を発することすら封じられていた。

「……狙いは、何」

 縛られたビアンコを横目で確認しつつ、クリムは鋭い声で言う。

「あら、聞いてなかったかしら? 『不老不死の魔女』と『影遣いのヴァンパイア』。二人がいれば此方の計画が完成するのよ。そっちが協力してくれるっていうなら、これ以上手荒なマネはしないわ」

「……こんなことしておいて、信用するとでも思ってるの?」

「ふふ。何をしたところで協力してくれるとは思ってないわ。だから最初からこういう手段に出たの。そうね……今のは『脅し』よ」

 愉しそうに顔を歪めて女は言う。ビアンコに指を向けると、ビアンコを縛る鎖が強い光を放った。

「見た感じ、そこの分身ちゃんは動けなくなっただけでダメージは無いみたいね。でも、ナイフの時のあの反応からすると、全くダメージが無い訳じゃなくて、ダメージは本体に反映される……そういうシステムね?」

「…………」

 無言のクリムに女は舌なめずりをしながら「もし」と続ける。

「その鎖が、本来なら相手にダメージを与えるものだったとしたら……ふふ、素直ね。素直な子は嫌いじゃないわ」

 脅しの意味を理解し目を見開いたクリムを見て女は上機嫌に笑った。すると強い光を放っていた鎖が弱い光に戻る。さて、今のでどれだけのダメージがネロに与えられたのだろうか。

 ヴァンパイアであるネロは光が弱点だ。その弱さは魔力を扱い始めて間もないロレーナに大ダメージを負わされてしまうほどのもの。更に、ネロは力の源である血液を飲むことをギリギリまで拒むため、普通に殴られただけでも常人より多めのダメージを負うことになる。一時的とはいえ血を飲めば、桁違いに強くなれるのだが。

「……っ、そんな人の言葉聞くに値しませんよ、クリムさん」

「あら……もう喋れるの?」

 おかしいわね。と女は眉を寄せた。

「クリムさんがここで素直に言うことを聞いたところで、どうせ主は抵抗するんです。むしろ、クリムさんが言いなりになる方がダメですよ。確実にあのアホは激昂します」自分のことでもあるから、確信をもってビアンコは告げる。その口元は笑っていた。「だったら今ここで大暴れしてしまった方がいい」

「!」

 近くの建物、クリムの影、木の影、女の影、ずっと無言のままクリムとビアンコの背後と左側にいる男の影が一斉に波打ち三人に襲い掛かる。四方八方から襲い来る影を避けることは難しく、三人は直ぐに影に縛られ封じ込まれた。

「逃げてください、クリムさん。いつまで抑え込めるか分かりません」

「でも、ビアンコが……」

「私のことを気にかけるなら、主のことを気にかけてあげてください。あのアホがちゃんと血を飲むヴァンパイアであれば、そもそも私は縛られたりなんかしないんですから」

 恨めしそうにビアンコは言った。人を襲わないというその姿は誇らしいものではあるのだが、こういった肝心なときに大切な人を守れないのでは意味がない。

「いいから早く……」

「残念。タイムアップよ」

 逃げてくださいと言うよりも早く、女を縛っていた影が弾けとんだ。そして女は右腕を高く挙げる。

「分身風情で調子に乗らないで頂戴」

 女の声は鋭く、表情はゾッとするほど冷たかった。

 女が頭上で指を鳴らすと、空中に大きな十字架が出来る。動けないビアンコにはそれを確認することはできないが、クリムの表情を見れば十分だ。

 大きな十字架は女の腕と共に真っ直ぐに落ちていく。真下にいる、ビアンコ目掛けて真っ直ぐに。

「っ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 痛みを感じないはずのビアンコが、十字架を突き立てられた瞬間に喉が壊れんばかりの絶叫をあげる。動けない身体を無理矢理動かそうとし、とにかく悶えもがいている。

「分身ちゃんは魔力の塊。なら、魔力を散らしちゃえば消えちゃうわよね?」

 苦しむビアンコを冷たく見下ろして女はいい放つ。「さようなら」

 ビアンコの身体が消滅すると同時にビアンコの意識は闇に飲まれて消えた。

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