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逃走犯はオトコノコ!  作者: 青い鯖
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第31章

 翌日京都に一人で向かった鶴田は、教えられた住所に着くと、そこは女子学生専用マンションだった。玄関はオートロックで、鈴木名の呼び鈴を押すが、反応がない。試しに携帯に電話を入れてみるが通じない。夏休みだから帰省しているかもしれない。


 大学に行けば実家の住所を教えてくれるかもと考えて大学の事務局を訪れるが、警察手帳を見せても「令状が無いとお教えできません」と断られた


 大学のキャパスは夏休みで学生もまばらだった。大学内で警察手帳を見せて話を聞くわけにもいかなかったので、大川奈緒美の携帯に電話してみた。


「昨日伺いました警察の鶴田といいますが、亜由美さんから何か連絡ありませんでしたか?」


「はい、亜由美留守でしょ。どこかに行くって昨夜メールが入っていましたから」


「そうなんだ。だから留守だったのかな。でどこに行ったのかな?」


「詳しくは聞いていません」


「だったら大川さん、亜由美さんの家とか行ったことがあるの?」


「ええ、高校時代に亜由美のアパートに遊びに行ったことがありますけど、

それが何か?」


「いや、亜由美さんの実家の連絡先を知りたくてね」


「でも亜由美は実家からではなく、一人で下宿して清泉に通っていたから、実家の住所までは聞いていません」


「そうか、どうもありがとう。亜由美さんと連絡が取れたらば、この携帯に電話してくれるよう、伝言お願いできますか」


「はい、分かりました」


 鶴田は、何か違和感を感じ始めていた。高校時代の親友だと大川奈緒美は言ってはいるけど、鈴木亜由美のことは、本当は何も知っていない。今の時代、携帯やネットだけでつながっている人たちが多い時代では、それが普通なんだろうか。


 鶴田は鈴木亜由美という女の子が、不思議な存在に思えてきた。この子が何かを知っている。鶴田は直感でそう思い始めていた。


 大学では何も得られなかったので、鶴田はもう一度学生マンションに戻って、念のため呼び鈴を押したが、やはり留守だった。


 管理人に警察手帳を見せて、鈴木亜由美に早急に連絡を取りたいので実家の連絡先を教えてくれと頼むと、こちらは簡単に見せてもらうことが出来た。


 そして実家として記入された亜由美の住所と電話番号を見て鶴田は驚いた。電話番号は、携帯の電話番号をハイフンを付けて区切っただけだった。そして実家として記載された住所は、鈴木亜由美が清泉女子高生として一人で暮らしていた街の住所だった。


 鶴田はすぐに署の松本課長に電話を入れた。


「例の鈴木亜由美ですが、住んでいる学生専用マンションの入居時に登録した実家の住所が、彼女が高校時代に一人で下宿していたアパートの住所となっていて、しかも、その電話番号があの携帯のものでした。何かあるに違いありません。すぐに、彼女の下宿していたアパートについて調べて下い。」


「分かった、すぐに手配する」


 鶴田は何かあるには違いないと思ったが、鈴木亜由美がなぜ実家の住所や連絡先を隠そうとしているのかは、全く想像がつかなかった。


 その夜、課長の松本から鶴田に連絡が入った。


「鈴木亜由美という女子高生が部屋を借りた時の父親の名前と住所は出鱈目で、また保証人となった人物は、全く身に覚えが無いと言っている。そこまでして身元を隠そうとしているには理由があるはずだ。その女が田川とつながっている可能性は非常に高い。ひょっとして昔からの知り合いで、田川をかくまっているのかもしれない。令状を取るから、大学か高校からその女の写真を手に入れろ」


「はい、わかりました。友達の大川奈緒美から入手したプリクラの画像がありますので、とりあえず送っておきます」


 鶴田はまだ、鈴木亜由美が田川本人などとは思わず、前日に写したプリクラの画像をメールに添付して署へ送った。


 度重なる警察からの問い合わせで奈緒美は不安になって、清香に電話してみた。


「清香、久しぶり。ねえ、亜由美のことで警察から何か聞かれた?」


「警察から? 亜由美のことで? ないけど何で?」

清香は訝しげに答える。


「亜由美の持っていた携帯電話が、何か、不正に取得された可能性があるんだって」


「へー、でもどういうこと」


「私も全然分からないんだけども、警察がその携帯のことを調べているそうなの。私の電話との通話記録が残っているって」


「亜由美が何か事件に巻き込まれたの?」


「分からない」


「心配ね」


「うん、それに少しおかしなメールが亜由美から来たでしょ」


「そうね」


「ちょっと遠い所に行かなければならなくなって、もう会えなくなるけどって、どういうことかしら」


「本当にどうしたのかな、心配よね」


「亜由美に何か困ったことが起きているならば、力になろうね」


「うん、あたりまえじゃん」


「そうね、だって私が大学に落ちてメゲているときにも、本当に励ましてくれたもんね」


「確かに、あの時は奈緒美随分落ち込んでいたもんね」


「亜由美から何か連絡あったら、よろしく」


「うん」


 奈緒美は亜由美と過ごした高校時代の出来事を振り返りながら、亜由美が親友だと改めて思った。でも考えてみたら、亜由美のことをそれほど知っていないことにも気が付いた。


 東京に戻った達也は、「女ひとり旅」の時とは違って、顔を合わさずに自動チェックインできるタイプのビジネスホテルに宿を取った。


 間もなく警察は亜由美に到達し、最近撮った高校生や大学生としての写真が全国に手配されるだろう。だからできるだけ人目につかないようにした方が安全だろうと考えた。少しでも時間を稼がねばならなかった。


 しかしこれからやろうとしていることは、皮肉にも、自分が田川達也であるということを証明できるIDが必要だった。そのために、危険を承知で東京に戻り、逃走を始めたあの街に戻らなければいけなかった。


 翌日、達也は清泉女子高の制服に着替えてホテルを出た。いずれこの制服姿も通用しなくなるのだろうが、まだ時間の猶予は残っているだろう。とりあえず現時点では女子高生が最も安全な姿に違いない。達也は私鉄に乗り込み、ほぼ一年前に逃走してきた経路を逆に辿った。


 あの日は、自分がちゃんと女性として見られているか不安に思いながら電車に乗っていた。今はその点は全く気にならなかったが、警察の追跡がどこまで及んでいるかが気掛かりだった。


 達也は、かつて通っていた高田実業高校のある駅で降りた。二年ばかりの高校生活だったが、何も良いことはなかった。それに比べ、たった半年足らずの「女子高生」時代の方が、素敵な思い出に満ち溢れている。


 大学の夏休みはまだ続いていたが、もう九月に入っていて、高校は二学期が始まっていた。駅前のゲームセンターの入り口には、まだ授業が終わっていないはずの昼過ぎの時間帯なのに、柄の悪い高田実業の生徒たちがたむろしている。その横を通り過ぎようとすると「ピュー」と口笛を鳴らされ、達也は足早に通り過ぎた。


 達也が中学時代の、まだぐれる前の友人が、高校の近くに住んでいた。陸上部に入っていた時の友達だ。彼はまともな高校に入学し、大学へも進学した。しかし、不良化した達也とも、嫌がらずに仲良くしてくれていた。もっとも、二月に一度か二度くらいしか会うことはなかったが。


 達也が警察に捕まる前の日は、たまたまその友人の家にスクーターで遊びに来ていた。酒を飲みながら世界陸上の話などをしていたと思う。そして、バイクは近くのアパートの駐輪場に置いたままで帰った。翌日警察に逮捕されてしまったわけだが、バイクがそのまま放置されているかもしれない。


 そのアパートの駐輪場は、達也も高校時代頻繁に利用していたし、高田実業の生徒とか住人以外の利用にも無頓着で、中には錆びついたバイクが放置されていることもあった。


 また、その友人は不良仲間ではなかったから、警察も彼のところまでは行っていないだろう。一年くらいたっても達也のスクーターが置かれたままになっている可能性は高かった。そしてそのスクーターのヘルメットケースに、達也は免許証を入れたままだった。


 高田実業の裏門に回り、少し歩いたところに駐輪場はあった。ここにも何人かの生徒たちがたむろして、煙草をふかしている。早くいなくなって欲しいと思いながら陰から様子をうかがうと、果たして達也のスクーターはまだ置かれたままだった。しかしその周りにいる生徒たちは一向に立ち去る気配がない。


 達也は近くの公衆電話から学校に電話を入れ、煙草を吸っている生徒がいると通報した。すぐに生徒指導の教師が駆け付けた。達也も見覚えのある体育の教師だった。


 あの教師からはひどい言葉で叱責され、暴力まがいの体罰を受けたことも何度もある。もっとましな教師だったら、あんなにもぐれずに、高校をちゃんと卒業していたのにと思う。


 達也は、生徒を追いかけて走ってきた教師にわざとぶつかって、道に腰を落とした。


「あ、ごめん、ごめん」


「大丈夫です。こちらこそすみません」


 達也は、起き上がってスカートの裾を払った。そして少し脚が痛いふりをしてスカートを膝の上までたくし上げると、「怪我したのか?」と覗き込んできた。


「やだ、エッチ」


 達也は教師の頬を、思いっきりひっぱたいた。


「いや、そんなつもりでは」


 教師は言い訳しながら、生徒の方へ向きなおして、全力で走り去っていった。達也は気分爽快だった。


 ようやく駐輪場に誰もいなくなって、達也は急いでスクーターのヘルメットケースをこじ開け、免許証を取り出して鞄に入れ、急いでその場を立ち去った。


 駅前にたむろしている高田実業の生徒に出くわすのも嫌だったから、一つ隣の駅から乗ろうと住宅地の道を進むと、広い幹線道路に出た。あの日バイクで突っ切った道だ。


 しばらく歩いて行くと交差点の角にマックを見つけ、何人かの高校生が出入りしているのを見て、達也も中に入って一息つこうと思った。アップルパイとコーラを注文して一人で席について食べながら、さっき手に入れた免許証を鞄から取り出して見てみた。


 確かに田川達也だ。一年前の田川達也がそこにはいた。茶髪で目つきの悪い不良が写っていた。


 達也は悲しくなった。こんな素敵な女の子に変身できたのに、捕まればこの田川達也に戻ってしまう。もっと逃げ続けたい。


 しかしこの一年で達也は、「女の子としてなら、もう一度人生をやり直せるかも」という希望らしきものも感じ始めていた。


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