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逃走犯はオトコノコ!  作者: 青い鯖
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第27章

 七月の前期試験が終わって夏休みに入った。学生マンションの学生達の半数は帰省して、いつもより静かになった。亜由美はもちろん帰省などする場所もなかったし、中三の娘が受験の追い込みということで普段より家庭教師の回数を多めにしたりと、結構忙しい日々を送っていた。


 更に、沙耶の親戚がやっているという嵐山の老舗の地元料亭の仲居さんというアルバイトを、夏休みだけということで、沙耶と一緒にやってみることにした。


 亜由美は、このバイト料で旅行に行こうと沙耶から誘われていて、九月の初めに二人でどこかに行くことになっていた。


 料亭の仲居さんのアルバイトは面白かった。着物の着付けとか、ふすまの開け方にお辞儀の仕方とかいった礼儀作法、お膳の運び方や食器の並べ方とか、覚えることが多かったし、また指導も厳しかった。以前やっていたファミレスのウェイトレスとはえらい違いだと亜由美は思った。


「大きな声でいらっしゃいませ、ありがとうございます、と言えることと、いつも笑顔を絶やさないこと」でやっていけたファミレスのバイトは、やっぱりゼミの先輩が言う通り、可愛い制服を着せられた女の子を商売にしているのかな、と思った。


 でもおかみさんの親戚の子と友達ということもあって、料亭の従業員はやさしく接してくれ、色々と親切だったので、二人とも楽しんでバイトすることができた。


 老舗料亭ということで、会社の偉そうな人とか、テレビで見たことのあるような人もお客さんの中にいた。亜由美はベテランの仲居さんの補助でそういった部屋に時々行くと、「新入り?」とか声をかけられることもあった。


「いえ、夏休みだけのアルバイトなんです」と答えると、お客さんがベテランの仲居さんに「しっかりしたお嬢さんだね」と誉めてくれる。


「ええ、おかみの親戚のお子さんのお友達で、今時の女子大生にしてはしっかりしてくれていて、私達も助かっているんですよ」仲居さんは言ってくれたりもした。


 一度亜由美と沙耶の二人は、西陣の呉服屋の旦那さんから、祇園の割烹に食事に誘われた。


 おかみさんからも「お勉強になるから」と勧められて、二人はどんなところかと興味津々について行った。


 カウンターだけの小さな割烹だが、近くにある有名な料亭の支店ということで、上品な先付からメインの天ぷらまで、十分に満足できる品々だった。


 呉服屋の旦那さんは、昼間から熱燗の日本酒を飲んで、いい気分になっている。


 その割烹のおかみが呉服屋の旦那に言う。


「お二人とも可愛いわね。舞妓はんみたい」


 二人ははにかんで笑った。


「舞妓はん体験してみたらどうどすえ」


 おかみが提案する。


「舞妓さん体験?」


 沙耶が聞き返すと、おかみは、観光客相手に舞妓さんの衣装を着せてくれるところがあると説明した。呉服屋の旦那も乗り気になった。


「面白そうだね。やってみないか」


 最初は躊躇していた二人だが、沙耶が「やってみようか」と言うので、亜由美も仕方なく同調した。


 鬘を着け、顔を白く塗られて真っ赤な口紅を引かれる。重たい着物を着せられて鏡の前に二人で並ぶと、立派な舞妓はんが出来上がっていた。


 沙耶と亜由美は、お互いのなりをみて、思わずふき出した。


「沙耶、似合っているんじゃない」


「亜由美もなかなかのもんじゃない」


 二人は、呉服屋の旦那と連れ立って、花見小路に繰り出した。


 観光客の女性達が「あっ、舞妓さん」と言って、近付いて来る。


「すみません、一緒に写真撮っても良いですが?」


 呉服屋の旦那は横で笑っている。


「すみません。私たち、本当の舞妓さんではないんです。舞妓さん体験なんです」


 亜由美が申し訳なさそうに言う。


「えー。本当の舞妓さんかと思った」


 しかし結局亜由美と沙耶を中央にして、記念写真を何枚か撮られた。


 短期バイトも最終日を迎えたが、おかみさんも亜由美を気に入ってくれ、「九月からも週末だけでもお願いできないかしら」と頼みこまれ、引き受けたご褒美にと、バイト代の他に特別手当まで出してくれた。


 少しリッチな気分になった沙耶と亜由美は、どこに旅行しようかと相談を始めた。


「やっぱり沖縄がいいんじゃない」と沙耶。


 亜由美は本とかネットとかで胸のラインとか谷間の作り方を調べていて、ブラジャーを着けていれば、近くで見ても、可愛らしい自然な胸の膨らみが作れるようになっていた。だから、ワンピースの水着ならばれない自信はあったが、さすがに躊躇した。


「でもディズニーランドなんかも良くない?」


「亜由美行ったことないの?」


「うん、親があんまり好きじゃないって連れて行ってもらえなかったんだ」


「へー、あんたの親ってひどいね。あ、ごめん。でもそんな親も結構いるかも」


「だから小さい頃から憧れていたの」


 達也は小学生の頃、一度だけ母親にディズニーランドへ連れて行ってと泣いて訴えたことがあったのを思い出した。あまりに泣き続けるので仕方なく母親が承諾して、次の日曜日に連れて行ってくれると約束してくれた。


 前日の土曜日の夜は楽しみでなかなか眠れず、日曜日の朝に起きてから「さあ行こう」と母親が声をかけてくれるのをずっと待っていた。


 昼前になって、もうそろそろ声がかかるかなと思っていた頃男がやって来て、達也は三畳の部屋に閉じ込められた。そんなことを思い出し、少し悲しくなってしまった。


 その様子に気が付いた沙耶が、


「ふーん。だったらディズニーランドにしようか」と言ってくれる。


「え、いいの? やったー」


 二人は二泊三日の予定で、ディズニーランドに行く計画を建てた。余分の収入もあったので、すこし贅沢してオフィシャルホテルに泊まって、ディズニーランドとディズニーシーの両方を二日間ゆっくりと過ごし、帰りに銀座にも寄って、最近出来たばかりのブランドショップも回ろうと計画した。


「女ひとり旅」は経験したが、女二人旅は初体験だ。すこしドキドキしながらも、亜由美はその旅行を楽しみに思い描いた。


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