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逃走犯はオトコノコ!  作者: 青い鯖
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第22章

 亜由美の女子高生としての生活は順調に過ぎて行った。近所の人、アパートの隣の若い一人暮らしの女性の勤め人にも気付かれなかった。


 何回か奈緒美と清香が亜由美のアパートにも遊びに来て、ケーキを食べたり紅茶を飲んだりしながら勉強や、たわいのないおしゃべりして時間を過ごした。奈緒美と清香は亜由美の部屋が気に入ったようで「本当は私も大学は親元を離れて、こんな部屋で一人暮らししてみたいんだ」と言う。


 一度近くのコンビニに飲み物を買いに三人で出かけた時、商店主の大家の奥さんに出会い、「あら亜由美ちゃん。珍しいわね、お友達?」と聞かれると、「はい、お勉強仲間です」と二人を紹介して、三人でクスクスと笑った。


 亜由美は奈緒美と清香に誘われたファミレスのバイトも、親や学校の承諾もいらないということなのでやってみようと決め、奈緒美に連絡して、学校帰りということにして、制服を着て面接に行った。


「清泉女子だってね。バイトの経験ある?」


 店長が尋ねる。


 亜由美は首を横に振る。


「仕事はお客様が入ってきてテーブルについたら水を運んで注文を取り、料理を運ぶ。お客様が出たら食器を片づけてテーブルを拭くだけで簡単だから、すぐに覚えられると思う。でも大切なのは大きな声でいらっしゃいませ、ありがとうございます、と言えることと、いつも笑顔を絶やさないこと、亜由美ちゃんって言ったっけ、出来るよね」


「はい、頑張ります」


 亜由美は頷き、その日からバイトに入ることになった。


「前の子のユニフォームがあるけど、丁度同じくらいの体型だったから大丈夫じゃない」と奈緒美。


 早速女子のロッカールームで身につけてみるとぴったりだった。キッチンに戻ると清香が「ちょー似合っているじゃん。かわいい」と感嘆の声を上げる。店長も入ってきて「うん良いね。お客さんの評判になるかもね」と目を細める。


 あまり評判になってしまうのはまずいと達也は思ったが、それなりに良い気分ではあった。


 案の定亜由美のウェイトレス姿は若い男性に評判が良く、何回かバイトするうちにファンらしき客も付いてしまった。


 一度大学生くらいの男性からマジでデートに誘われてしまって断ると、奈緒美と清香はちょっとヤキモチを焼いて「メアドくらい教えてあげたら」とかからかって言うのだが、亜由美は「とんでもない」と強く首を振って困ったような表情をすると、二人は可笑しそうに笑った。


 一度、亜由美のファンの若い男性客から

「亜由美ちゃんって、あの女装した美人の逃走犯に似ていない?」と言われてドキッとしたことがあった。


「えー、本当―。でもあれ男でしょ。しかもおじさんじゃん。失礼しちゃうわ」と拗ねた表情をしてみせると、


「ごめん、ごめん、冗談だから」と言う。


 一度、奈緒美と清香が学校の行事で来られなくて、別の曜日のシフトの女の子と一緒になったことがあった。いつもの様にロッカーで着替えをしていると、その女の子が横のロッカーで着替えを始めた。


「あなたが噂の亜由美ちゃんね」


「はい、亜由美ですけど、噂って?」


「最近可愛い子が入ったって、評判よ」


「……」


「でも、あなたって胸小っちゃいわね」


 すでに着替え終わっていたが、亜由美はあわててエプロンドレスの胸のあたりを手で隠した。ブラウスを肌蹴た彼女の胸は、薄紫色のDカップのブラジャーに包まれた豊満な胸の間に谷間がくっきりと浮かび上がっていて、亜由美はドキッとしてしまった。


 店はいつもより混んでいた。


「あれアツシ君、火曜日も来てるんだ」


「えっ、今日はたまたまサークルの飲み会が流れちゃってさ。ゆかりちゃん今日はヘルプなの?」


 彼女が声をかけた客は、最近毎週火曜日の夜に来て、チーズインハンバーグを注文して、ドリンクバーでファンタグレープを何杯もお変わりしながら亜由美のことをジロジロと眺めている、気持ち悪い客だった。


「アツシ君、浮気しちゃだめよ」


 ゆかりと呼ばれた女の子は、アツシのテーブルに水の入ったグラスを乱暴に置いた。その日アツシは、ドリンクバーを頼まずに、チーズインハンバーグを食べただけで、おとなしく帰った。


「亜由美ちゃん。あの男、気を付けた方がいいわよ」


 休憩室でゆかりが亜由美に話しかける。


「あいつ、私がシフトの日に毎日来て、何時間もねばっているのよ。時々テーブルの下で何かモゾモゾしているので遠くから観察していたら、自分の股のモノを掴んでいて、びっくり。その上、私の帰りを待ち伏せしたりしていて、はっきり言ってストーカーね」


「へー、そんな人なんだ」


 亜由美は、ひょっとして部屋までつけられたりしなかったかと、少し不安になった。


「最近来なくなったと思っていたら、あなたに乗り換えたのね。ちょっとショック」


「え、そんな」


「きっと、あなたをおかずにして、毎晩いやらしいことしてるのよ」


 亜由美は、ポッと顔を赤らめた。


「あら、休憩時間もう終りね。わたし先にフロアに戻るわ」


「私はトイレに行ってから行きますので」 


 亜由美はトイレに入って鏡の前に立った。ストレートの長い黒髪に白いカチューシャを付けた、可愛らしいエプロンドレスを着た女の子が写っていた。


「バイト中だからダメだって!」


 達也は自分にそう言い聞かせようとしたが、ゆかりの胸の谷間も頭から離れない。


 「いけない、いけない」


 モヤモヤとした思いが全身を駆け巡る。

 しかしその時「亜由美ちゃん、まだ?」とのゆかりの呼び声に、慌ててトイレを出て、達也はフロアに戻った。

 


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