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逃走犯はオトコノコ!  作者: 青い鯖
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第13章

 親から携帯を買ってもらえなかった同級生が、「レンタル携帯」というものを使っていると言っていたのを思い出した。


「料金はメールで知らせてくるから家に請求書もこないし、料金は振込だから、毎月ちゃんと払っていれば絶対ばれない」ということだった。


 元々不倫とか裏商売とかいった、犯罪ではないものの、少し後ろめたい目的のために利用する人が多いということだった。 


 達也はネットで「携帯 レンタル」で検索してみた。かなり多くのサイトがヒットして、その一つを見てみると、携帯を買うのに比べると、全然簡単に借りられることが分かって驚いた。


 本人確認書類も一応必要だったが、免許証のコピーをファックスで送るだけで良かったし、本人が店舗で受け取らなくても、指定した場所に届けてくれる。


 最初に本体の補償金をそれなりに取られるから、もし仮に金を払わなくなって持ち逃げされても、業者は損をしない仕組みとなっているようだ。確かにそれならば、本人認証が甘くても、どうってことはない。


 さすがにそれを使って犯罪を起こしたりするならば足がついてしまうかもしれないが、不倫とか単なる連絡用で使うだけならば、足がつくはずがない。


 しかしさすがに本名で申し込む訳にはいかないから、とりあえず架空の誰か、偽造した誰かかになりすますことが必要だと考えた。誰かに為り済ますことくらいは、なんとか出来るのではないかと思った。


 達也はテーブルに戻って紅茶をカップに注ぎ足して飲みながら、その方法がないかと窓の外をぼんやりと眺めながら考えていると、一台の車が止まって、二人連れの若い女性が店内に入って来た。


 一人はショートカットの少し太めの女の子、もう一人は黒ぶちの眼鏡をかけた少し背の高い、すらっとした女の子である。二人は達也の隣の席に座り、コーヒーを注文してしゃべり始めた。


「久しぶりの運転で緊張しちゃって疲れたわ」


 黒ぶち眼鏡の女性が首を回しながら言う。


「でもお母さんの車って上等ね」


「だってうちのお母さん、免許取る前にお父さんにこの車ねだって買ってもらったけど、まだ三回位しか乗ってないもん」


「へえー。贅沢」


「だって免許証取ったのが四十過ぎでしょ。最初は免許取ったらドライブ三昧とか言っていたけど、仮免取るまでにも随分かかったし本免取るのも一苦労だったから、免許証をようやく取った時にはもうドライブ熱は冷めてしまっていたみたい」


「もったいないわね。でも静香が自由に使えるから良いじゃない」


「それはそうね」


「ねえ、ところで今日どこに行く?」


 太めの女の子がガイドブックを開く。


「山頂の展望台に上がってみない?ロープウェーがあるって言うじゃない。わたしロープウェーに乗ったのは小学生の時以来だから乗ってみたいわ」


「それいいね、山頂の遊覧コースを回っても二、三時間で戻って来られるから、余裕を持ってホテルまで行けるわ」


「でも遊覧コースは結構坂道だってパンフレットに書いてあるわよ、大丈夫?」


「美味しいものを食べ過ぎたから、ちょっとダイエットしなくちゃね」とは太めの女性の言葉。どうやら二人の話はまとまったようである。


 二人がコーヒーを飲み終わって店を出ると、達也はゆっくりと冷めた紅茶を飲みながら、とりあえず誰かの免許証のコピーを本人に知られないように入手すれば、レンタル携帯の本人確認が突破できることに気付いた。


 達也はパソコン席に戻って急いでプラウザの履歴を消去して、勘定をすませてからロープウェーの駅へと向かった。駅前の駐車場にさっきの車を見つけ、更に駅の中を見回すと、丁度女二人連れがロープウェーに乗り込むところだった。


 これで数時間はこの車は無人となる。達也はロープウェーが出発するのを見届けてから、彼女達の車に近付き、周囲をさっと見回してから車のキーを簡単にこじ開け、ハンドル下のレバーを引いてトランクを開けた。


 山上に着いてから結構きつい散策コースを歩くということなので、彼女達は鞄を置きっぱなしにしていた。


 願わくば二人のうちのどちらかでも、貴重品の入ったバッグなりを置いていってくれていないかと二人のキャリーバッグを運転席に運び込み、中を探った。


 すると片方のバッグのポケット部分にカードケースらしきものがあり、取り出してみると、果たして少し背の高いほうの女性の免許証が仕舞われていた。


 達也はその免許証を自分のバッグに仕舞いこみ、キャリーバッグを戻してトランクを締め、車のキーを閉めてから、何食わぬ顔をしてその場を立ち去り、しばらく歩いてからタクシーを拾ってJRの駅へと向った。


 駅前のコンビニでコピーをとり、再びタクシーでロープウェーの駅まで戻って免許証を元のカードケースに戻す。


 とりあえず彼女の名前で携帯をレンタルしよう。免許証の持ち主は一切気付かないはずだ。自分の名前で携帯電話が勝手にレンタルされていても、本人には何の連絡も来るはずがない。


 達也はホテルの部屋に戻って免許証のコピーを眺めながら、レンタル携帯電話の入手方法を復習した。


 まず今日紅茶を飲んだカフェにもう一度行って、ネットにつなぎ無料メールのアドレスを作る。ついでに申込フォームに必要事項を記入して送信する。


 次に相手先から代金の振込先と免許証のコピーのファックスの送付先を知らせるメールが届くから、この免許証のコピーをファックスで送り、代金も振り込んで、受け渡し場所を指定する。


 場所は都内の山手線内側であればどこでも良いみたいだったから、一日だけ東京に戻って、ホテルのロビーかどこかで受け取ろう。料金は毎月指定口座に振り込めば良い。


 何と匿名性が高く、簡単な作業ではないか。かなりやばい携帯ではないかと思ったが、犯罪者であっても犯罪に使う訳ではないから、まず大丈夫だろう。


 行く行くは「ちゃんとした」IDを取って、まともな携帯を手に入れよう。それまでの間だけだ。


 達也は手続きを進め、東京に半日だけ寄って念願の携帯を手に入れた。

久々に手にした携帯なので、すぐに使ってみたかった。しかし持っていることが重要なわけで、今使う必要はない。必要な時には公衆電話からかけることにして、万が一の追跡に警戒することにした。


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