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セカンド・サーガ  作者: 勇者ロト6
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第三話 魔力を追って

 草原の道を疾走していく一台の車。いわゆるエアカーという奴で車輪はなく、流線型でスポーツカーを思わせるデザインをしている。


 その赤い車に俺たち三人は乗っていた。ユキノがハンドルを握り、そこへ助手席からロッテがあれやこれやと指示を出している。特にやることのない俺は、後部座席に腰掛けて遠くを眺めていた。オープンカーなので、吹き抜けて行く風が頬に当たって気持ちいい。窓の外を緑の海が波打つようにして過ぎて行く。


「なあ、その機械ほんとに信用できるのか? ちっともそれらしいものが見えてこないが」


 俺は後部座席から身を乗り出すと、ロッテが手にしている機械を覗き込んだ。水晶玉のような物体から半透明のウィンドウが出ていて、そこには地図が表示されている。千年前はまともな地図なんてなかったからいまいちよくわからないが、たぶん縮尺はあまり大きくないだろう。その地図上で点滅している矢印が二つある。


 超小型マナ粒子探査機、通称魔探。それが今ロッテが持っている機械の名称だ。これは大気中に存在するマナ粒子の流れを魔力波で測定することにより、一定の範囲内に大きな魔力を持つ物体がないかなどを調べることができる装置である。もともとは探検隊などが危険生物に遭遇しないために携帯するものなのだそうだが、それをロッテが真理の書を捜すために改造したらしい。真理の書は巨大な魔力を持つから、大きな魔力を捜していけばそのうち見つかるという寸法だ。


 手を組んだ俺とロッテたちは遺跡を出るとすぐに、この魔探に表示された大きな魔力へと大急ぎで向かっていた。ロッテによるとめったにないレベルの反応だそうで、真理の書の可能性が高いとのこと。しかし、かれこれ二時間以上も走っているのに魔力の発生源へ到達できる気配がない。


「それがさ、結構な速さで移動してるのよ。魔力の大きさからすると、間違いなく何かあるんだけど……」


「どっちへ向かってるんだ?」


「北よ。まっすぐ北に向かって、二百キロぐらいの速さで進んでるわ」


「うわッ、ずいぶん速いな」


 ひと昔前の新幹線並みじゃないか。この車の速度が百五十キロぐらいだから、五十キロも差がある。どおりで、追いつけないわけだ。


「よっぽど足の速い車か飛行機ね。できればもうそろそろ捕まえたいんだけど……」


 ロッテはユキノに視線を送った。するとユキノはハンドルを握りながらも眉を寄せて険しい顔をする。


「スピードはこれでほとんど目一杯だ! これ以上出すと事故を起こすぞ」


「やっぱそうよね。うーん、魔力の向かってる場所は大体想像がつくんだけど……そこへはあんまり行きたくないしなぁ」


「どこだ、それ」


「ライセン市よ。大陸東部最大の都市だわ。今の時期は年に一度の大バザーをやってるから、恐ろしく混んでるのよ。そこへ紛れられたら見つけるのが大変だわ」


「なるほど、じゃあ急がないとな!」


「ええ!」


 気合を入れる俺とロッテ。するとその時、ピピッと警告音のような電子音が響く。ユキノの口からあッという声が漏れ、彼女はしまったという顔をした。


「どうしたのよ?」


「すまん、魔結晶を補充するのを忘れてた……。石切れだ」


「どうしてあんたは、いつもいつも肝心な時にトラブルを起こすのよ~!!!!」




 ◇ ◇ ◇




 ロッテの叫びから時を遡ること数日。

 大陸の中央に広がる深き森に、雲を貫き天を裂かんばかりの大樹が聳えていた。その樹の名は世界樹。この世界を支える物の一つにして、全ての植物の始祖と称される世界最大の樹木である。


 その大いなる樹のふもとに、エルフ族の村があった。遥か昔から人を寄せ付けぬ深き森に守られ、また彼ら自身も外界との接触を拒み続けてきたため、数千年に渡り生活様式を変えていない古からの集落である。そこに住むエルフたち自身も平均して三百年ほどは生きる長命種であるため、あたかも時の流れから切り離されたような場所だ。


 そんな村はこの日、数十年に一度の大切な日を迎えていた。族長の娘であるルルが、二十歳の誕生日を迎えたのだ。エルフ族では二十歳になると初めての狩りへと向かい、そこで何かしらの獲物をとらえることができると成人とみなすという風習があった。


 しかし、当の本人はというと――。


「困りました、どうしましょう……」


 弓を地面に置き、大木にもたれかかるルル。流れるような赤毛の髪をくしゃくしゃにして頭をぽりぽりとかくその様子は、人生に疲れた中年のようだ。彼女はぼんやりと空を眺めながら、ほうっと大きなため息をつく。


 彼女は眼は抜群にいいのだが、どうにもコントロールのセンスがなかった。そのおかげで、今のところ獲物を狩るどころか命中した矢自体がゼロ。しかも、矢の残り本数はすでに一本とかなり追いつめられていた。


「コラッ、何を休んでいるのですか! そんなことでは族長になどなれませんよ!」


 もたれている木の裏側から、長身で年かさの女性が現れた。彼女の名はマイヤー、ルルのお目付け役に当たる人物である。今日の狩りも、彼女の監督のもとで行われていた。


「しかし、矢が全然当たりませんの。私、きっと子供のままなんですわ」


「簡単にふてくされるのではありません! ほら、絶好の位置に獲物が居ますよ!」


 そういうとマイヤーはルルから見て左側の木の頂上付近を指差した。するとそこには、大きな茶色い鳥が巣を作り、羽を休めている。鳥は完全に油断しきっているようで、さらに矢の邪魔となる障害物のようなものはほとんどない。まさに絶好の機会だ。


「わかりました」


 ルルは弓を手にすると、背負っていた矢筒から矢をつがえた。キリキリと弓が張り詰めていき、彼女の目も細まる。そして弦の張りが最大に達した時、矢が放たれた。風切り羽が空気をうならせ、矢じりの白い輝きがまっすぐに飛んでいく。


 しかし、ここで鳥が頭を下げた。矢はむなしく宙を切り、何処かへと飛び去ってしまった。興奮した視線を送っていたマイヤーは、ここで大きく肩を落とす。


「はあ……仕方ありません、村へ戻って換えの矢を貰いましょう」


「ちょっと待ってください。あれは?」


 ルルの矢が飛んで行ったあたりの景色が、不自然に歪んでいた。水面に映った景色が波で揺らいだような感じだ。しかもその歪みは少しずつ移動していて、徐々に東の方角、彼女たちの村がある方へと接近していた。


「なんでしょうね……」


 マイヤーは風の魔法を使うと、空気をゆがめてレンズを形作った。それを虫眼鏡よろしく覗き込んだ彼女は、たちまち顔を驚愕に歪ませる。


「まさか――」


 どこからか放たれた白光。

 それはたちまちマイヤーの細い体を貫き、強烈な爆発を引き起こしたのであった。

娘の名前を『ルル』に変更しました。

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