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セカンド・サーガ  作者: 勇者ロト6
3/5

第二話 新しい仲間

 仲間を呼び、順調に数を増やしていくゴブリン。

 その一方で俺は身体が縮んでいたことに戸惑っていた。これでは上手く戦えないじゃないか。手足を動かそうとしてみるものの、ぶかぶかの鎧が邪魔になってまともに動きやしない。


「しゃあない、解!」


 鎧が輝き、身体がふッと軽くなる。俺は身軽になった体をほぐすと、ボクシング選手よろしくファイティングポーズをとった。そしてステップを踏みながら、一気にゴブリンたちの方へと距離を詰める。


「ギャギャア!!」


 無数の銃口が火を噴いた。

 鉛弾が唸りをあげてこちらへと殺到してくる。その輝きを目で捉えた俺は、身体をひねるとその弾道をぎりぎりで回避する。そして一歩ずつ距離をつめて行き、すぐに先頭に立っていたゴブリンのもとへと到達した。


「おらァ!!」


 拳を振り抜く。

 鉄帽が凹み、ゴブリンの身体がぶっ飛んだ。緑の身体は周囲のゴブリンたちを巻き込みながら地面を統べるように飛んでいき、やがて近くの気に衝突する。ドーンと激しい音がして、この葉が何枚か落ちた。ゴブリンたちは口々に唸り声を上げる。


「ギャア! ギギギャ!!」


 赤い鉄帽をかぶったゴブリンが何やら号令をかける。どうやらこいつがリーダーの様だ。

 するとたちまちゴブリンたちは平静さを取り戻し、俺の方へ銃口を向けてきた。その数はざっと見てニ十から三十。ち、かなり大規模な群れだな。きっと、遺跡にでも住み着いてたんだろう。


 俺は生粋の剣士だ。剣がなければろくに攻撃ができない。

 逆に剣があればゴブリンぐらいまとめて薙ぎ払えるのだが、あいにく手元にはそれらしき武器がない。さすがに木の枝ぐらいならいくらでも落ちているが、いくらなんでもそれじゃ無理だ。ゴブリンたちを薙ぎ払う前に枝の方が逝ってしまう。


「殴り倒すしかねーか」


 手を組み、指の骨をぽきぽきと鳴らす。

 ゴブリンたちは俺の迫力にビビっているのか、遠巻きに銃口を向けているもののなかなか攻撃はしてこない。やるなら今のうちだ。


 身体を傾け、足を一気に踏み込んだその瞬間。後ろからパンッと乾いた音が聞こえた。ゴブリンの首がぶっ飛び、頭がぼたッと鈍い音を立てて落ちる。俺が後ろを振り向くと、先ほどの女たちがそれぞれ二丁拳銃と人の背丈ほどもある大剣を手に立っていた。そのうち、拳銃を持っている金髪の女が俺の方を見ると、目を見開き顔をする。


「大丈夫?」


「これでも勇者だぞ、当たり前だ」


「そう、良かったわ。でもヤバいわね、ゴブリンに囲まれるなんて……!」


 チッと舌打ちをすると、金髪の女は黒髪の女へと視線を走らせる。黒髪の女はポニーテールを揺らしながら、彼女の視線に黙ってうなずいた。その形のいい富士額には汗が浮かんでいて、紫がかった瞳や嫌に鋭い。


「何をそんなに警戒してるんだ?」


「何ってゴブリンに決まってんでしょ! あんた勇者だったのにゴブリンの恐ろしさを知らないの!?」


 ゴブリンの恐ろしさと言われてもな……。

 そこらの村人でも武器があれば狩れるレベルの魔物だったとしか、覚えていない。冒険者だったら、それこそ小遣い稼ぎに狩るような雑魚敵だ。しいて言うなら驚異的な繁殖力でどんどん増えるから、数の多さが厄介といえば厄介だが、それ以外は本当に何でもない魔物である。それをなんでこんなにビビりまくってるんだ?


「知らないというか、ゴブリンなんて余裕で狩れるだろ」


「嘘! ゴブリンといえば厄介な魔物の代名詞じゃない! あっという間に囲まれてマシンガンでハチの巣よ!」


「そういうもんかな…………。まあいい、何かいい武器持ってないか? 俺がこいつらを倒す」


「……武器? どんなのがいいの?」


「できれば剣だ。なかったら小さくてもいいから刃物がほしい」


 女たちは顔を見合わせた。彼女たちは互いに端末のようなものを取り出すと、画面を勢いよくタイプする。そしてすぐにまた、俺の方を見た。


「手持ちの武器は渡せないけど、ナイフがあるわ。それでいい?」


「頼む!」


 モーターが唸るような独特の音がすると、緑色の光とともに端末からナイフが現れた。どんな原理かはわからんが、すごいなこれ。俺が少し感心していると、女は出てきたナイフをこちらへ投げてくる。


「よッ!」


 空中でキャッチすると、ずっしりとした重みがあった。

 刃渡り二十センチほどのかなり大ぶりなナイフで、その刃は少し蒼みがかっている。おそらく特殊合金か何かでできているのだろう。鋼よりもなお重くて武骨だが、その分よく切れそうである。


「これさえあれば……空壊斬くうかいざん!!」


 ナイフに魔力を込め、超高速で薙ぐ。

 魔力が見えない刃となり、扇形に広がった。無職透明だが金剛石でできているが如き鋭利な刃。それは瞬く間にゴブリンたちの身体を通り過ぎて行き、あちこちで血が迸る。ゴブリンたちはまともな断末魔すら上げることなく、絶命した。人形の糸でも切ったかのように、緑の身体がバタバタと倒れて行く。それを女たちはただただ唖然とした顔でみていた。




 ◇ ◇ ◇




「えっと、金髪の方がロッテで黒髪の方がユキノだな?」


 ゴブリンを倒した俺たちは、改めて自己紹介をしていた。さすがにいつまでも、金髪の女と黒髪の女では不便すぎる。こいつらには聞きたいことが山ほどあるから、長い付き合いになりそうだしな。具体的にはなんで俺の身体が小さいのかとか、元に戻る方法はあるのかとか聞かねばならない。


「ええ、よろしく」


「私もよろしくだ、勇者殿」


「こちらこそ……と言いたいところだけど、まだ状況がよくわからん」


 俺はそういうと、服の袖をつかみ自分の身体を改めて見回した。小さくなっているということを自覚してみると、どうして気付かなかったのかと思うぐらい俺の身体は縮んでいた。たぶん、小学校高学年ぐらいの身体つきになっている。身長は軽く十五センチくらいは縮み、肩幅もかなり細い。


「なんでこんなちんちくりんになってんだ?」


「実は……」


 ロッテはユキノの方に視線を走らせると、彼女の肩を肘でこんこんと小突いた。ユキノはバツが悪そうな顔をしながらも、ゆっくりと口を開く。


「私が悪いんだ。お湯を入れて三分待たなければならないところを、二分半で蓋を開けたんだ。これでアルデンテだと思ったんだ、アルデンテだと……!」


「…………何言ってんだよ」


 なんでカップラーメンの話が出てくる。俺の眉が思わずへの字に歪んだ。するとすかさず、ロッテがフォローを入れてくる。


「私たちが見た時、タカハシはミイラ化してたのよ。で、それを元に戻すために必要だって言われてた時間が三分。ユキノはそれを待ち切れずに二分半でお湯を入れた石棺の蓋をあけちゃったってわけ」


 ……ひでえ! ひど過ぎて声も出ねーぞ!

 ミイラ化してたとか、お湯をかけて三分で元に戻るとか、俺はいったい何なんだ。増えるわかめか何かか。というか、待ち切れずに二分半で蓋を開くとか食べ盛りの大学生かよ!


 こうして頭の中をツッコミの激流が走り抜けると、俺はようやく落ち着いた。正確には、真っ白に燃え尽きたというべきか。が、とにもかくにも考える余裕ができた俺は目の前で神妙な顔をしているロッテたちに話しかける。


「……わかった。それで、元に戻る方法はあるのか?」


「真理の書を使うしか思い当たらないわ」


 俺はナイフに手をかけた。さらにロッテの蒼い瞳をまっすぐ睨みつけると、ドスを効かせた声で言う。


「お前たち、俺を体よく使おうとしてるんじゃないだろうな?」


「そ、そんなわけないでしょ! ほんとにほんと、突発的な事故だったのよ!」


「そうだ! 本当にこれは私の勘違いだったんだ。すまない、心の底から申し訳ない!」


 二人はそういうと、勢いよく土下座した。瞬時に膝を折りたたみ、頭からダイブしていくようなそのフォームはまさにジャンピング土下座だ。うん、リアルで見るのは初めてだな。


「……ッっち、わかったわかった。真理の書を捜すのを手伝ってやるよ。あくまでも、俺が使うために捜すついでだけどな!」


「も、もちろん。それでいいわ。ユキノもそうよね?」


「あ、ああ。異存はない」


 犬がしっぽを振るように、ぶんぶんと首を振るユキノとロッテ。何だか、必要以上にビビらせちまったみたいだな。俺は蒼い顔をしている彼女たちの方に、そっと手を出してやる。


「さっきの答えだ。こちらこそ、これからよろしく」


「ありがとう!」


 二人の声が重なった。彼女たちはようやく満面の笑みを浮かべると、ギュッと俺の手を握りしめてくる。こうして俺たちは一応ながらも、仲間になったのであった。


魔物解説


ゴブリン:身長140センチ前後の小型の魔物。知能が高く、人間が捨てた武器で武装している事が多い。集団行動を得意とし、密林で囲まれればまず命はない。体格が貧弱であるため接近戦に弱いが、多くの場合マシンガンを携帯しているため近づくことは難しい。

ゴブリンの中でも特に戦い慣れた者は部隊長として赤い鉄帽をかぶっており、その個体をレンジャーと呼ぶ。

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