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セカンド・サーガ  作者: 勇者ロト6
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第一話 マシンガンゴブリン

 目を覚ますと、昏い天井が広がっていた。その下に女が二人いて、俺の方を覗き込んでいる。金髪の女と黒髪の女で、それぞれやや趣は異なっていたが、頬がゆるんでしまうぐらいの美人だ。さらに胸元は豊かに膨らんでいて、特に黒髪の方はメロンでも仕込んでいるようである。服装もボディースーツのような露出の多い衣装で、ピッチリとしたデザインはこの世界に来てからは見たことがない類の物だ。


「な、なんだ!?」


 硬い石の上から身体を起こすと、女たちは驚いたようにすっと身を引いた。彼女たちは珍獣でも見るような顔をして、こちらをじーっと見ている。一体、俺が何をやったっていうんだ?


「……二分半でもいけたわね。ちょっと小さいような気もしないではないけど」


「良かっただろう? まさかほんとに動くとは予想外だったが」


「おい、ここはどこだよ。リーズロッテ城じゃないな?」


 俺の声に二人は顔を見合わせると、不思議そうに眼を丸くした。金髪の女が俺の方を覗き込んでくる。透き通るような青い瞳は、彼女の気の強さを感じさせた。


「あなた覚えてないの?」


「何も。俺は城で寝てたはずだけど」


「あらま……」


 金髪の少女は眉を上げると、ほうと息を漏らした。その後ろから、黒髪の少女がきつい顔つきで俺の方を覗き込んでくる。


「ほんとに覚えていないのか? タカハシ殿はずっと封印されていたのだぞ?」


「はあ……?」


 確かに、妙な感覚はあった。

 けれど封印されてたとはどういうことなのか。魔王でもあるまいし、思い当たる節がない。

 こうして俺が首をかしげると、少女の顔の呆れがより深まった。


「初代勇者タカハシ。かつてこの大陸を魔王バルガムから救ったのち、遥か千年後の魔王再来に備えて時の眠りにつく。伝承ではそう伝わっているぞ」


「そんな馬鹿な! 確かに魔王は倒したけど、時の眠りにつくなんて知らんぞ!!」


「そうは言っても、なあ?」


 黒髪の少女は困ったような顔をして金髪の少女の方を見た。金髪の少女は豊かなストレートを揺らしながら、わずかに眉を寄せてうんうんとうなずく。


「ええ。私たちの伝承だとそうとしか伝えられてないわ。それ以外の情報はとっくの昔に失われてる」


「おいおいおい……」


 俺の額に冷や汗が浮かんだ。ぞわぞわと、背中を虫が這いまわるような嫌な気配がする。

 もしかしてまた、何もかも失っちまうのか? この世界に召喚された時みたいに。昨日まで一緒に飯を食べてた仲間たちを……!


「いま何年だ?」


「統一暦784年よ」


「それじゃわからん。王国暦だと何年になるんだ?」


「えっと、ちょっと待ってね」


 少女は腰元のポーチからスマホのような端末を取り出すと、それをポンポンポンとテンポよく叩いた。高質な電子音が何度か響いて、SF映画のような半透明のディスプレイが瞬く間に表れる。こちら側からでは反対向きになってしまってよくわからないが、暦の換算表の様だ。新しいタイプの魔法具だな。


「王国歴で言うとそうね、3017年かしら」


「な、もう千年たってるじゃねえか……」


 俺が召喚されたのが王国歴2014年。魔王を倒したのが2017年だったから、すでにそれからきっちり千年たってしまっている。


 俺の身体から血の気が引いた。

 目が覚めたら千年後だと?

 ふざけるんじゃねえ! そんなのは召喚の時の一度で十分だ!

 そりゃ、召喚された時の俺は地球に未練なんてものはほとんどなかった。成績が伸び悩んでいた俺は親との仲は険悪だったし、それが原因で学校でもほとんどボッチだった。友人と呼べるものはほとんどおらず、知り合いが数人いる程度だ。だから勇者になれという無茶苦茶な要求にも素直に従ったし、逆に呼んでくれたこっちの世界の連中にも感謝していたくらいだ。


「クソッ! クソッ!」


 唇をかみしめる。口の中に鉄の味が広がった。

 俺はそれでもなお悔しくて、思わず横たわっていた石棺をぶん殴る。さすが勇者の腕力というべきか、バコンと音がして滑らかな黒い石に深い亀裂が入った。


 それから、俺はただ黙って下を向いた。

 嫌な沈黙が辺りを覆っていき、女たちは額から冷汗を流す。そうして数分が過ぎた頃、ひとまずだが気持ちの整理をつけた俺は、女たちの方を改めてみた。


「なあ」


「な、何かしら?」


「俺を復活させたってことは、また魔王の奴が蘇ったのか?」


 女たちの顔が曇った。彼女たちはくぐもった声で唸ると、口をもごもごとさせる。よっぽど言いづらいようだ。


「もしかして、何もないのか?」


「いや、その……旅を手伝ってもらおうと思ったのよ。真理の書の断章を捜す旅をさ」


 真理の書ねえ……。

 その昔、魔王も探していたことがある伝説の魔導書だ。全八章存在する断章を集めれば、この世の真理がすべてわかるとか言う胡散臭いアイテムである。俺が召喚されるよりもはるか以前から存在していたらしいが、大陸のほとんどを支配した魔王を含めて全八章をすべてそろえた者はいない。というか、ぶっちゃけただの伝説にしか過ぎない気がする。


「そうか。じゃあ協力するようなことはないな。ではさよなら」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! もう少し話だけでも聞いてくれないか? 我々にもそれなりの事情があるのだ!」


「すまないけど、そういうのは千年前で疲れちまったんだ。他を当たってくれ」


「なッ!」


 唖然とした顔をする二人。

 きっと、千年の間に「初代勇者タカハシは誰でも助ける慈悲深い勇者」みたいな感じで伝説が広まってたんだろうな。実際、俺が魔王を退治した直後からそういう英雄譚を語る吟遊詩人とかたくさんいたらしいし。そんなイメージで俺に接してた奴にとってはまあ、ショックだよな。


 けど、これが現実なんだから仕方ない。

 俺は二人の間をすり抜けて行くと、薄暗い通路を進んでやがて外に出た。どうやら俺が封印されていたのは古代遺跡のような場所だったようで、いざ外に出てみると荘厳な感じの石造建築が圧倒的な迫力で後ろに聳えている。密林の中に聳えるその威容は、カンボジアのアンコールワットとかに似ている。


「さてと、ギルドにでも行きますか!」


 大きく深呼吸をすると、気分を変えるべく声を上げた。

 いつまでもうじうじしていたって仕方ない。俺には勇者パワーがあるんだし、冒険者にでもなればいくらでも生活していけるだろう。もう勇者としての義務も知名度もないし、それこそ大陸中を暴れまわることだってできる。


 こうして一歩踏み出した俺。しかしその時、森の奥の方からギャギャギャッと耳につく高い声が響いてきた。気配を察した俺がそちらへ振り向くと――。


「ゴブリン……?」


 小学生ほどの背丈で、鬼のような厳めしい顔と緑色の肌の小人。間違いなくゴブリンだ。が、装備が明らかにおかしい。赤錆の浮いたマシンガンのようなものを肩からぶら下げ、頭にこれまた錆だらけの鉄帽を被り。さらに身体には動物の皮の腰巻ではなく、軍人が着るような迷彩服を着ている。


「ギャギャ!」


 ダダダダダッと連続する銃声。

 俺の近くにあった小石が吹っ飛び、遺跡の壁に罅が入る。

 なんだかわからんけど、こりゃまずいな。俺はいま、弥生人よろしく簡素な貫頭衣しか着ていない。この状態でマシンガンの弾に当たったら地味に痛いぞ!


「聖鎧よ、来い!」


 千年もたってるし、ちゃんと来てくれるか……?

 俺の頭の中をそんな懸念がよぎったが、すぐに俺の身体を光が包んだ。良かった、ちゃんと来てくれるようだ。だがしかし、そんな俺をすぐにまた別の問題が襲いかかる。


「あれ、でかくね?」


 俺に合わせてピッタリになるように変化させたはずの聖鎧が、何故かぶかぶかになってしまっていた。手足が大きすぎて、動かすにも一苦労だ。なんでこんなことになってるんだ? 不審に思った俺が手足をよくよく見てみると、心なしか細くなっているような気がする。そして、全体として何だか丸っこくなっていた。


「まさか、縮んだのか!?」



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