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ケース1 いったいどこの学校を受験しているんだろうか?


 茂みの中に身をひそめ、現在の状況を確認。

 今僕はどこか知らない世界にいて、どこかもわからない学校の受験を受けてる。この世界には魔法があってどうやらこの学校ではそれが重視されているらしく、これから行われるのは魔法の実技試験。そしてこれが……。

 手元の棒状の機械を見る。

 キャストといわれる機械で、たぶん武器の類。銃の形をしたものもあったところを見ると、そう考えるのが妥当だ。そして魔法の実技試験で配られたところを見ると、たぶん魔法を使うため、もしくは補助するための道具のことだと思う。

 とりあえず剣が得意だと言ったらこんな棒状のものを渡されたけど……。

 とにかく、身体の中の不思議な力、魔力を送ってみよう。身体の奥に意識を集中し魔力を右手からキャストに送り込んでみる。

 キャストいうらしい機械は魔力に反応して各部が薄っすらと光り、棒の先から剣の刃が形成された。

 刃は薄い両刃で青く半透明でほとんど重みはない。まだ試験開始の合図はなっていないので、周囲に人がいないことを確認して立ち上がり軽く振ってみるが、どうも刀身に重みがないので重心が柄の中心くらいにきてしまいうまく速度が出ない。剣というのは全体の重みも考えて作られているし、僕もそれを前提に鍛えてきたからうまく振れないのは当然だった。

 しかし、適切な剣の重量をイメージすると、刃が薄く発光して重量が増した。これなら今まで使っていた剣と同じだ。

 本当に不思議な武器だね。

 それに、新たに感じることができたこの魔力という力。『乱絶御影流』剣術と組み合わせたらどんな戦いができるだろうか。

 不謹慎ではあるけど学校受験のこの場で胸が高鳴る。試してみたい。


 <さ〜て♪ 今から実技試験を始めま〜す♪ 3,2,1……>


 ゴ〜ン!と鐘の音が森の中に響き渡った。







 乱絶御影流において剣というと、日本刀のことは指さない。御影流で使われるのは日本刀よりやや太い程度の細い刀身を持つ両刃の直刀で、古代の銅剣をイメージすればいいと思う。

 だからこのキャストという道具から出たのが両刃の直刀だったというのはラッキーだった。日本刀も振ったことはあるけどやはり御影流にはこの刀だと思う。

 風を切って剣を振り回す。魔力によって強化された身体は今までの何倍もの剣速を生み出すようだ。

 現在、森の中を飛び回りながら上がった身体能力の確認をしているところだ。

 この向上した身体能力なら木の幹や太い枝を踏み台にして森の中を縦横無尽に飛び回ることができる。

 ひとしきりの運動を終え地面に着地すると森の少し奥から他の人の魔力を感じた。人数はかなり多いようだ。それに僕より魔力の多い人が大半。

 でも……戦いたい。試してみたい。

 さっきからそんな思いで気がたかぶっている。奥に進むことにした。



 少し開けた場所に出た。その場所だけ木がはえておらず、空から光が降り注いでいる。

 そしてその場でしばらく待っていると奥から二十人くらいの一団がやってきた。一番前には金髪の男子がふんぞり返って歩いていて、彼がリーダーだということが悪い意味で読み取れた。

 「はっ! ま〜たいいカモ見つけたぜ! しかもフロント! こりゃあ楽でいいねぇ」

 金髪の男子はニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべている。

 フロント、たぶん前に出て接近戦をする僕のようなのを指す言葉だと思うけど……、まぁ、大勢で囲んで無効化しやすいと言われるとそうなのかもしれない。

 「お前ら!」

 金髪の男子が指示を出すと、取り巻きと思われる他の男子に周囲取り囲まれた。全員で21人か。

 金髪の男子は拳銃型のキャスト、取り巻きは半数が小銃型のキャストを携行し、その他は剣やら謎の杖やらだ。それに対してこちらは剣一本。これまでの世界だとすぐに剣を放り投げて両手を上げる状況だけど、今はなぜか恐怖が湧いてこない。

 「ん?何だよ、びびって声も出ねぇのか?何か言ってみろよ」

 僕が何も言わないのを恐怖しているととったみたいだ。というか、唐突にやってきてよくしゃべるね。

 「チッ!つまんねえな」

 金髪の男子は拳銃型のキャストを僕に向けた。

 「ま〜た10点ゲットォ!!」

 金髪の男子の持つ拳銃型キャストの銃身から光が漏れ、砲頭から光球が発射された。

 正体不明の光弾が迫っているというのに、心は落ち着いたまま。そして光弾がぶつかろうという瞬間、腕が勝手に動いた。

 振るった剣で光弾を弾き飛ばし、周囲を取り囲む男子の一人に命中させた。光弾は当たった瞬間はじけて紫電が散り、その男子は気を失って倒れた。

 なるほどね。実技試験が始まる前に言っていたスタンモードというのはこのことだったのか。

 「なっ!!?魔力弾を打ち返した!!?」

 この不思議な安心感の正体が分かった。光弾を打ち返した時、まるでそこに来ることが分かっているかのように腕が動いた。魔力の動きが感覚で分かるんだ。だから魔力に取り囲まれても自然体でいられた。

 「なるほどね。この力……、面白い」

 光弾には音速程度の速度はあった。それを感知能力と向上した身体能力を持って打ち返したわけだ。そんなこと、これまでの常識では不可能だった。


 ――僕はスリルが好きだ。遊園地では絶叫マシーンをハシゴするし、ドッチボールでは当てるより受ける方が好きで、野球でもフライをキャッチするのが好き、剣の試合でも相手と相対した時は神経が研ぎ澄まされていき、透明な高揚感が全身に広がる。


 鉛の銃弾とほぼ同速の光弾を打ち返した時も、胸には高揚感が満ちた。

 「ハハッ!」

 自然と唇がつり上がり、高まった興奮が吐息とともに外に出た。

 剣は中段に構え、リーダーと思われる金髪の少年に突き付けた。戦おう、というメッセージだ。

 「ど、どうせマグレだっ!やっちまえ!」

 金髪の少年がそういうと、周囲の男子たちもキャストを僕に向けた。とりあえず、距離が十メートル以上離れている以上、剣や斧を持っている人たちはあまり考えなくていいと思うけど、小銃を持っている十人くらいが目下の敵か。

 セオリー通りなら、小銃の一斉掃射の後接近戦用の武器を持つ者がやってくる。明らかに接近戦をすると見える僕に対して、距離をとって戦える人材がいるのにわざわざ接近戦を選択する必要性は考えられない。

 心配なのは杖のようなキャストを持つ奴らだけど、その戦い方はおそらく一般的に考えられる魔法使いのそれと推定できる。つまり、距離をとっての広域殲滅。

 さっきの光弾ははじき返せるけど炎やら雷撃が来たらかわすしかなく、隙が生まれ、不利になる。

 本当にそんな戦い方をするのかはともかく、不穏分子はさっさと片づけておくのに限る。

 周囲に緊張が満ちていく。この空気の中ではこちらも相手も迂闊には動けない。何か接近するとっかかりを探すことが必要だ。

 闘争の空気の中では絶えず神経を研ぎ澄ますことが困難となる。そのため、息を抜くためになんらかの変化が動作に現れる。

 それは足首に入る微妙な力加減の変化だったり、唾を飲んで動く首の動きだったり、普段なら自然に見逃している、毛の先ほどの儚い変化かもしれない。

 だけど、こうして剣を持って相対した僕が、その変化を見逃すことはない。


 一陣の風が吹き抜け、木の葉が数枚、僕と僕を取り囲んでいる男子たちの間に降った。


 その時、杖をかまえた一人の足元から、ジャリ……という音がするのを僕は聞き逃さなかった。

 十メートルの距離を三歩でうめた。気を抜いたところに超スピードで接近され、相手にとっては急に僕が目の前に現れたようにすら見えたかもしれない。そうでなくとも身体が硬直していることから今の速度、タイミングに全く反応できていないことがうかがえる。

 から空きの首筋に剣を当てるとバチッ!と静電気がはじける音がして杖を持った男子はその場に倒れた。

 少し首に切り傷ができるように切った感じだけど、倒れた男子の首筋には何の傷もない。ケガを気にしなくていいと言ったあの女性の言葉は本当みたいだ。

 それを確認すると、すぐに隣の小銃を持ったのに斬りかかった。

 「なっ!は、速っ!」

 小銃をこちらに向けることもできず、杖を持った者と同じように地に伏す。

 だが三人目は少し遠くにいる。

 剣を振り切った状態の僕に、残った銃口が向けられた。


 「ハアァァァァァ!」

 「だぁっ!」

 「デェェェェイ!」


 思い思いの気合とともに、小銃のトリガーを引いたのが見える。流石に小銃の形をしているだけあり、一人ひとりのキャストから一息に数十発の光弾が放たれる。360度ぐるっと取り囲んだままの一斉掃射。

 不思議なことに背中から迫っている光弾まで、まるで見ているように感じ取ることができる。しかし、せまっている弾丸すべてに対処することは不可能だ。

 弾幕のやや薄い場所に向かって飛び込み、直撃する弾だけ、その弾道を剣で少し変えた。わざと反対側の相手に当たるように。

 「ギャッ!!!」

 背後から聞こえた悲鳴を気にすることなく正面の小銃を持った人を斬り捨て、返す刀で杖を持った者ももう一人斬る。

 その時、僕の居る場所になんらかの魔力が発言しようとしているのが分かった。すぐに横に飛び退くと、それまでいた場所に大きな炎の塊が燃え上がった。背後を振り向くと、杖型キャストを持った男の一人がこちらに杖を向けていた。その杖の先にはオレンジ色の光が灯っている。

 やはり、杖型キャストの持ち主は魔法使いとしてスタンダード――あくまで僕の常識基準で――な戦いをするらしい。

 ていうかこれ、スタンモード?普通に燃えるだろ。それとも炎にのまれてもしびれるだけとかそういうことか?

 そして再び光弾がせまっている。

 ジャンプして上空に逃れるが、僕を追うように銃口も上を向き光弾が迫る。それを身体を回転させ、同時に剣をふるうことではじいた。


 ――どうやら小銃から発射される光弾は拳銃型のそれよりも威力が低い。普通なら、むしろ小銃の弾の威力の方が高いようなものだけど、魔法に関しては逆らしい。

 まぁ、普通に考えてみれば多くの弾を撃つ方が魔力の消費が激しいわけだし、その制度も威力も安定しないだろう。実際、僕のはじいた弾をくらった男も意識を失ってはいない。

 以上、ゲーム脳よりの感想です。


 そして着地したのは敵の真っ只中、そこで回転を加えた一線を放つ。逃げ遅れた五人を巻き込んで剣を振り抜いた。

 流石に剣や斧を持った近接戦闘基本の人たちは逃れたようだ。もっとも、今の技に反応したというよりも僕の接近に反応したのか。僕に向かって来るよりもまずは引いて様子を見ることを選んだ、そんな感じがした。でも……

 「流石だね。今のは牽制のために放った本気の一撃でないとはいえ、「旋風(つむじ)」から逃れるなんてね」

 当たると思って出した攻撃だったし、褒めてつかわす。なんて言ってみたり。


 ――乱絶御影流の奥義は基本的に遠心力によって剣速を上げることによって成り立っている。上位の技になると手首を柔らかく使って剣の軌道に特殊な変化をつけたり、斬撃回数自体を多くしたりするが、まずは身体の回転からはじまるのは間違いない。

 旋風(つむじ)とは、剣を持った方向――僕は右利きなので右方向――に回転し、一瞬のうちに二度斬りつける技で、達人が放てばほぼ同じタイミングで二度の斬撃が相手を襲うことになる。


 「くっ! て、テメェ……」

 金髪の少年が眉間にしわを寄せてこちらを睨む。

 僕を取り囲んでいた人たちは金髪の少年の前方をガードしている。もっとも数は半分になっているけども。

 「お、お前ら、はやくやっちまえ!」

 金髪の少年がそういう横暴な指示を出したことで、前をガードする人たちのうち半数の人のキャストを握る手に不自然な力が入った。

 もちろんそれを見逃す僕ではない。空気読めないのは分かってる!

 斧をかまえる少年の懐に潜り込み逆胴の一閃。心底驚いたような表情のまま硬直し、前のめりに倒れていく。そして硬直したままの隣の少年も斬り伏せる。

 そこからは簡単だった。連携を失った彼らは崩壊し、有効な攻撃を行えないまま僕に次々と斬られていった。

 大ぶりに斬りかかってきた男子を一突きし、逃げようとする杖を持った少年を背中から斬った。小銃を乱射する少年は光弾を全て本人にはじき返したら気を失い、呆然と立ち尽くす少年を袈裟切りにする。

 残虐だけど、仕方ないことでもある。乱絶御影流は殺人剣。その教えは冷酷無比。「礼は最大限に尽くせ、だが戦いとなったら躊躇するな。敵は全て切り捨てろ、逃げる者は後ろから斬れ」そう教えられた。

 そして――――

 「あとは君だけみたいだ」

 残るはリーダー格の金髪の少年一人になっていた。僕に剣を突き付けられ、木に背後をふさがれて動けないでいる。

 死ぬわけじゃないと分かっていてもやはり剣を突き付けられるのは怖いものらしく、冷や汗をかき身体を震わせている。

 「ま、待ってくれよ。俺は黎院十二家の柳ケンジだぜ?」

 「ん? それが?」

 有名な家柄だったんだろうか?まぁ、この世界の住人じゃない僕にはあんまり関係のない話なのか。

 「お前、強ぇから俺の子分にしてやってもいいんだぜ?な? 俺はもう入学なんてとっくに決まってるからよぅ、俺の子分になっとけば学校始まってもいろいろ楽できるぜ?」

 つまり、金髪の少年はかなり権力を持つ家の出で、学園に対してもかなりの影響力を持っているとか、そういうことが言いたいんだろうか。

 「俺も一応十二家だから、入試なんぞで負けるわけにはいかねぇのよ。な?分かるだろ?」

 うん。分かった。これは命乞いだ。


 「命乞いをする者は――――」


 少年の横を最短距離で駆け抜けた。草の中に何かが倒れる音が後ろから聞こえてくる。


 ――――即座に首を()ねろ。

 初戦なのでかませ的なのが相手。


 今回は主人公の戦いに関するスタンスとかそういう話。

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