第一章「想い」
第一章「想い」
一
――僕と勝負して? それで、君が勝ったら、赤の城も反乱軍に参加しよう。
その言葉に、アークは唇を噛んだ。――バカにしているのか。
握った拳が震えていた。こう見えても、ディテス国一番の剣士。それに、ただの忍者城の王子が勝負を仕掛けてくるとは。勝負は見えているっていうのに。
アークはヴィラを睨んで言った。
「俺はそんな無意味な戦いをするつもりはない。俺には、剣士の誇りってもんがある」
レラが前に飛び出た。「ヴィラ!」
ヴィラの肩をしっかりと掴み、揺さぶっている。
「ねえ、何言ってるの? あんたなんかが、勝てるわけ無いじゃない!」
ファールは口をへの字に曲げて立っていた。あのヴィラが、こうもきっぱりと言い切るなんて。いつもなら、「でも、だって」ばかり言っているくせに。
「僕は前言撤回するつもりないよ。君が戦わないというなら、僕だって反乱軍に参加しない。別に帝国に協力するわけでもないし」
ヴィラは先程のオロオロとした表情は見せていなかった。そして、アークからフイと顔を背けた。アークはその鋭い目でヴィラを睨み続けていた。
「俺もだな。しかし、このまま手ぶらで次にいけるわけが無かろう? それに、このままだと、世界が死ぬぞ!」
その台詞に、ヴィラは反射的に顔をアークのほうに向けていた。世界が死ぬ、ということ。それは全人類の――いや、この世に存在する全ての死を意味する。星も、この空も、全て死ぬ。
ヴィラは拳をしっかりと握っていた。汗で少しぬるぬるとする。
「ただ単に、戦うのが怖いだけじゃないか」
ポツリ、とヴィラは呟いた。
「きっとそうなんでしょ? だから、僕の挑戦も受けられないんだ。それとも、僕が王子だってだけで、なめて掛かってる?」
「なんだとっ!」
アークがぐっと体を乗り出した。それをシャンが慌てて押さえた。
「アーク様ぁ……」
シャンが今にも泣きそうな顔で呟いた。アークははっとして、シャンの頭をそっと撫ぜた。柔らかいネコっ毛の髪がとても気持ちよく感じる。
ふぅ、と一息ついてアークは言った。
「すまないな、シャン」
シャンはふるふると首を横に振った。「いいんです」
シャンはアークから離れると、キッとヴィラに向き直った。
「すみません……ヴィラさん。あなたの挑戦は、受けられないんです」
アークが顔を背けた。ヴィラは顔を顰めて、シャンを見ている。
ふっ、とヴィラが笑った。
「じゃあ、やっぱりあれ? 怖いんだ?」
「そういうことでは……」
レラははっとして、アークの顔を見た。緑色の瞳に映る、何か。アークが拳に力を入れていることに、レラは気がついた。
レラはヴィラの腕を引っ張った。
「ねぇ……どうしてそういうこと言うの? ヴィラにだって、色々あるでしょ? どうしてわざわざ戦わなくちゃいけないの……?」
ファールがヴィラの肩に手を添えた。
「そうだよ、ヴィラ。いつものお前らしくない」
「うるさいっ!」
ヴィラは二人の手を振り払った。レラはその反動で尻餅をついてしまった。ヴィラははっとした。一瞬止まり、レラの顔を見る。
「あ……」
振り払った手が、空を過ぎる。青色の澄んだ瞳から、零れ落ちる涙。
「どうしたの? ヴィラ……なんか変だよ」
泣かせてしまった――ヴィラは後悔の念で一杯だった。でも、これだけは言うまい。絶対に言ってはいけない。
ヴィラは握っていた拳を開いた。
「僕には僕の理由がある。だから、こんな決断しか出来ない僕を、許してほしい。許す、許さないとかではなく。今は――」
其処まで言って、ヴィラは言葉を切った。言いたいけれど、言うわけにはいかない。それが約束だから。
――お前が必要だと感じたときに話しなさい。
ヴィラはかぶりを振った。いいや、まだだ。まだその時ではない。時を待たねばいけない。
ヴィラは口をぎゅっときつく結んだ。
アークがちらり、とヴィラを見た。
「俺だって理由くらいあるさ。此処にいるやつら皆に。人間、誰にも知られたくないことぐらい誰にだってある」
アークが俯いた。ファールは地べたに座り込んでいるレラを立たせた。「大丈夫?」
レラは静かに頷き、涙を拭った。
「私、もしヴィラが反乱軍に行かないなら、殴っちゃう」
はっ、とアークが顔をあげた。ヴィラは開いた拳をもう一度握りなおした。
「もう一回言うよ。私、ヴィラが反乱軍にいかないなら殴っちゃう」
ファールはレラの足が震えていることに気づいた。そして、視線をヴィラに戻す。
シャンが心配そうに近づこうとしたが、アークに遮られた。シャンは不思議そうにアークを見上げた。
レラはヒック、ヒックとしゃくり上げながら言った。
「私は、ヴィラの傍に居たけど、ずっと居たけど、理由なんて知らない。ヴィラの全てを知ってるわけじゃない。だから、わからないけど、今のヴィラの判断は間違いだと思うよ? この場合、誰が悪いかははっきりしているんだもの。魔物たちが、この世に現れたのは、ぜーんぶ帝国の仕業なのに。なのに、何にもしないなんて。おかしいよ、そんなの」
ヴィラはフイ、とレラから顔を背けた。アークは頭を掻いた。
「……一日だけ待つ。返事はそれからでいい。よく考えてみてくれ」
明日もう一度来る――そういってアークとシャンは赤の城を後にした。
残されたのは、三人と、そして空虚感と。
この胸に開いた、穴。
二
ヴィラは自室のベッドで転げまわっていた。落ち着かない、そしてまだ決められないで居る自分に腹が立つ。
もう満月が空高い場所に昇っている時間なのに、ヴィラはまだ寝付けないで居た。寝る気分にもならない。寝てしまえば、みんな忘れられる――否である。その時間には限りというものがある。起きたら朝、それでアークに答を問い詰められるようなことにはなりたくない。まだ、どっちつかずのまま。
ヴィラは額に手を当てて呟く。
「中立って、ないのかなァ……」
一番戦いたくないのは、自分だ。それに、無謀な挑戦だったこともわかっている。鎧もつけて、威力のある剣を振り回せる、アークに敵うわけが無い。こっちの持っている武器といえば、手裏剣と細い忍者刀のみ。そんなに重い装備をつけられないので、一度斬られればおしまいである。(まあ、アークもできるだけ致命傷をつけないようにやるつもりだろうが)
戦いに不慣れな自分。皆から、【頼りない王子】の銘をつけられてしまっている。自分でもわかっている、だけど、どうしようもないのが現実。
ヴィラはシーツをぎゅっと握った。
「こういうとき、父さんならどうしたかな……」
脳裏に浮かんできたのは、優しい父の笑顔。時には厳しく、忍者刀や手裏剣の指導をしてくれた。
ほろり、と一滴の涙が頬を伝う。
「……僕は、ファールやレラみたくはなれないよ。僕は弱いんだ。だから、僕は皆に受け入れられるような王にはなれない。僕は……僕は……」
呻きに近いその呟きは、ヴィラの頭の中でこだましていった。
父さん。
幼き日に、一緒に散歩した道。舞い落ちる色とりどりの落ち葉が、眼を潤してくれた。繋いだ手。温もりの伝わってくる、父さんとの繋がり。思えば、父さんと手を繋いで歩いたのは、それが最後だったのかもしれない。
母さんは僕を産んだときに亡くなり、父さんはおおいに哀しんだそうだ。母さんの記憶はあまり無い。微かに漂うミルクの匂い、優しい声。顔は、肖像画で見ただけだった。父さんはそれ以来、僕をちゃんとした人に育てようと努力したらしい。その結果が、これだった。頼りなく、情けない、ひ弱な王子様の出来上がり。
赤の城の代表として、皆を率先していかなくちゃならないのに。決められないんだ、なにもかも。法律だって、今あるものをただ守っているだけ。新しく追加なんてできっこない。だって、どういうものが皆にとっていいのかわからないんだもの。
僕を叱咤したり、優しく頭を撫ぜたり……。父さんは僕にどんな人になってもらいたかったのだろう……。
あの剣士と決闘すれば、何かが見つかる気がした。
勿論負けることぐらいわかってる。力もないし、丈夫な鎧も無い。素早さはこっちが上回るとしても、無理だ。勝てっこない。
反乱軍に入ったとしても、役に立てるのだろうか?
その答を出してほしかった。「俺と戦って、骨がありそうなら入れてやる」そうやって言ってくれれば、一番良かった。
力が無いことぐらいわかってるから、僕は無力だから。だから、僕に何かをさせて。
「世界が死ぬ……か」
僕はアークにとって失礼な態度を取ってしまったんだ。剣士としての誇りに傷をつけてしまったんだ――ヴィラは悔しさの念で一杯だった。後から後から、アークに悪いような気持ちが押し寄せてくる。
ごめん。
その一言ぐらいいえないのか、とヴィラはごろんと寝返りを打った。ふとヴィラは窓の外に月が輝いているのに気がついた。ベッドから身を起こし、窓を開ける。ヒヤリとつめたい夜風が入ってきた。
青白い光が静かにヴィラを照らす。月は薄らとヴィラに笑いかける。
ヴィラは微笑んだ。
「僕も変われるだろうか……父さん」
手を月に向かって伸ばす。父の幻影が温かい手を差し伸べている。握った――手は空を掴んだ。ヴィラははっと現実に引き戻された気がした。
――逃げちゃダメだ。
ヴィラはそう心の中で幾度も呟いた。自分自身の心にしっかりと刻み込むように。
――僕の意思で、いえるように……。
夜は明けていった……。
翌日、レラはドキドキしながらそのときを待っていた。窓辺の椅子に座って、アークとシャンが再び赤の城を訪ねてくるときを。(彼らは近くでテントを張っていると言っていたのである)
胸に手を押し当て、自らの鼓動を聞く。早鐘のように鳴る心臓。ドクン、ドクンと。
レラが一人窓の外を見ていると、キィと扉が開く音がした。レラは驚いて振り向いた。ファールだった。
「や。昨日は眠れた?」
レラはふるふると首を振った。ファールは「やっぱりね」といって苦笑した。
レラが俯く。
「私……間違ったこと言っちゃったかしら。ヴィラがもし反乱軍に入らないって言ったら、私赤の城に盾突くことになっちゃうわ。そうしたら」
レラが思わず立ち上がった。椅子がガタンという音をたてて床に倒れる。ファールは静かに歩み寄り、その椅子を直した。
「……もうヴィラには近づけなくなってしまう。遠い人になってしまう……」
レラは胸に押し当てた手をぎゅっと握り締めた。目頭がどうも熱い。
「それはヴィラも同じだろうよ。恋人を無くす悲しみは半端じゃないから……」
ファールははっとして口を押さえた。レラが眉を顰めて顔をあげた。
「え……?」
「いいや、なんでもない」
ファールは慌てて手を顔の前で振った。レラはふっ、と微笑した。ファールから目をそむける。
「それでも私、反乱軍につくつもりよ。ヴィラが断っても、私は行く」
ファールはふと窓の外を見た。黒髪の青年とオレンジ色の髪の少年が、此方へ向かって歩いてくるのが見える。ファールは窓を開けた。
「……あいつは断らないさ」
「えっ?」
レラが振り向いたとき、ファールは其処に居なかった。
三
アークとシャンは、昨日言ったとおりにもう一度赤の城を訪れた。朝早く起きて、テントを片付け、顔も洗って。食事もして。
アークは紳士のたしなみとして、髪をとかしていたがシャンは全くやったことがなかった。(そのためシャンの髪はいつもパンクしたように、横方向に向かっているのであった)
二人は赤の城の城門をくぐると、(兵士はお客が来るとヴィラに言われていたので、二人を通した)真っ直ぐ城に向かっていった。
シャンは歩く途中チラチラとアークのほうを見たが、アークはキッとただ真っ直ぐに前を見ているだけだった。シャンも、レラと同じく胸の高鳴りが止まらなかった。
アークは「イエス」という答を期待していた。しかし、そんなに簡単に行くはずも無い、という考えも持っていた。どっちにしろ、アークは今日此処を去る予定で居た。
シャンは不安になって、杖を握りしめた。
二人がそれぞれの想いを抱えながら、あと五メートルくらいで城に入る――というとき、ふと通常では考えられない場所に影が出来た。はっとして二人は顔をあげた。上のほうで何かがキラリと光った。そしてそのままそれは下へ――こっちに来る――……。
しゅたっ、と白いマントを翻し、それは着地した。アークはそれに見覚えがあった。白いターバン、そして首から下げた赤いペンダント。先程光ったのはこれだろう。そう、ファールが降ってきたのだ。シャンは驚いて飛びのいた。
ファールはニヤリ、と顔をあげた。シャンがびくりと肩を震わせて、アークの陰に隠れた。
「ふ、ふ、降ってきた!」
自分の腕にしっかりとしがみつくシャンを見て、アークは微笑した。そして、ファールの方に向き直り、その鋭い目を向ける。
「何か? 俺はヴィラ王子に用があってきたんだが」
ファールは立ち上がると、にっこりと笑った。
「やだなあ。好意っていうものを表しにきたのに、それはないんじゃないの?」
ファールは肩をすくめながら言った。そして、上を向く。
空は少し陰り始めていた。
「好意、ねぇ……」
アークが呟いた。アークは昨日テントに戻ってから、シャンにファールが男であることを聞いたのだった。アークは眉を顰めていた。
「そ、好意。これからヴィラのところにいくんでしょ」
アークはぴくり、と眉を動かすとファールをジロリと見た。ファールは動じない。シャンはまだアークの腕を掴んでいた。
「君さ、あれでしょ? 断られたらどうしようって、思ってない?」
シャンは顔を顰めた。この城は、なんと失礼な人が多いのだろう。ディテス国一の剣士に対する、嫌がらせか? シャンはそう考えた。
「ああ、そうだな。正直に言えばそういうことも考えている。俺はイエスであってほしいと願っているがな」
「たぶん、だけど」
ファールは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「あいつは断らないと思うよ」
「え?」
アークは思わず聞き返していた。そこでファールと目が合う。懐かしいような、この顔。黒い髪。屈託の無い笑顔。体つき、背の高さこそ違うものの――……。
――お兄ちゃん。
アークは唇を噛んだ。シャンが心配そうに顔をあげたのを見て、アークは我に返った。
ファールはもう一度笑って言った。
「多分、あいつは断らないと思うよ。俺の経験上」
ヴィラに返事を聞きに行ったら――とファールは道を開けてくれた。アークは深々と礼をして、すたすたと城の中へ消えていった。ファールはその背中をしっかりと見送った。
「どうしたもんかな。俺も、あいつも」
おかしいのはこのことよ――……。
ヴィラはアークが尋ねてきたことを既に知っていた。アークが城に入ると、其処にはヴィラが気をつけをして立っていたからだった。アークはヴィラの真剣な表情を見て、「答をもらえる」と確信したようだった。それがイエスなのかノーなのかはわからなかったが。
ヴィラは静かに話し始めた。
「昨日は、ごめん。君の剣士としての誇りに傷をつけてしまったことを、謝らせてほしい」
アークは何も言わなかった。求めているものは、その「答」だけかのように。
シャンは何も言うまいと、硬く口を結んでいた。そのかわり、杖をがっちりと掴んでいた。
「君の誘いに対する、答が出た」
その言葉に、アークはぴくりと反応した。からからに渇いた喉を、湿った唾が通る。
シャンはヴィラの後ろの柱の影に、人影があるのを見つけた。それは、ヴィラがどう答えるのか気になり、こっそりと聞き耳を立てているレラの姿だった。レラも自分と同じように、答が気になっていることがわかるとシャンはなんだかホッとした。自分だけではなかったのだ、と。(勿論アークは気になっていたに違いないが)
「青の城に対する、反乱軍にならないか――という誘い」
空気がピンと張り詰めた。レラの胸の高鳴りはもはや留まることを知らなかった。
爆発してしまいそうなくらいに。
次の言葉を、優しいヴィラの声が告げた。
「受けるよ。僕――この赤の城は反乱軍側につく」
アークはほっとしたようだった。シャンとレラは一気に肩の力が抜けたようで、へなへなと座り込んでしまった。それでレラが後ろに居ることに気がついたヴィラは、慌ててレラの方に駆け寄っていった。
アークはシャンの腕を掴み、立たせた。
「緊張していたのか? 俺でなく、お前が」
アークが笑う。シャンは口を尖らせた。
「外での初仕事ですからね。ディテス国からの旅を除いて」
「そうだな」
先程まで張り詰めていた緊張の糸は、いまや音をたてて切れ、バラバラになっていた。
座り込んで息をついているレラの傍で、ヴィラが囁いた。
「大丈夫……?」
レラはこっくりと頷く。
「うん、大丈夫。それよりも、ちゃんと正しい選択できたみたいだね」
「うん……」
「私、ヴィラがノーっていうんじゃないかって、心配していたの。ノーっていってしまったら、ヴィラはとても遠い人になってしまうから。そんなの私には堪えられないもの」
レラは今にも泣きそうな顔をして、ヴィラを見上げた。ヴィラは切なそうな表情を浮かべる。
「それは、僕もだったよ。それに、僕は僕自身に従った」
レラはその言葉を聞いて安心したのか、にっこりと微笑んだ。それを見て、ヴィラは満面の笑みを浮かべた。
はっ、としてヴィラは振り返った。
「ところで、アーク」
突然呼びかけられたアークはきょとんとした。そして「何だ?」と聞き返す。
「今はレジスタンス活動が繰り広げられて居ることは、青の城に知られていないけど……。もしバレてしまったらヤバい。それに、城の兵士を率いてっていうのはとても難しいことだと思うんだけど……」
「ああ、それなら」アークは笑った。
「あんたと、あんた。そう、そこのあんただ。それと、さっき窓から飛び降りてきた無謀なヤツだけついてくればいい。仲間集め、にな」
アークはヴィラとレラを指差していった。窓から飛び降りてきた無謀なヤツ、とは勿論ファールのことだった。ファールは丁度アークたちの後ろから入ってきたところだった。(アークがそれに気がついたのは、言い終わった後だったが)
シャンがアークの腕をしっかりと掴み、言った。
「ねえ、皆さん。これから行動を共にするんですから、自己紹介しませんか? もう僕たちは仲間なんですし」
それはいいアイデアだ、とヴィラが同意した。
「じゃあ、まず俺から」
アークが一歩前に進み出た。そして、オホンと咳払いを一回。
「反乱軍の指揮をとらせてもらう、ディテス国の一剣士、アーク=ファルシオンだ。アークで構わない」
「じゃあ、次は私ね。本当の名前は、レイヴェラ=アドヴァンナっていうの。私はレラって呼ばれるほうが好きなの。レラって呼んでね? 武器師っていう、この国にはいまや私しかいない、とっても凄い職業なのよ。まあ、どんな職業なのかは旅の途中でわかるわね」
ファールがふふっと笑った。
「俺はファール。本名はファール=ヒーラム。俺は魔剣士。剣に魔法をかけて、炎の剣〜とか。操れんの。すごいでしょ? 好きな食べ物はたまごスープ」
シャンがアークの影から飛び出した。
「僕は、シャン。ええと、この名前はアーク様につけてもらったので、苗字のほうはちょっと。別に苗字なんてこの旅で必要ないんですけどね。ディテス国の魔導士で、アーク様の側近です」
アークがさっ、と横に避けた。そして、ヴィラに手を差しだした。
「最後を飾るのは、ヴィラ王子?」
「王子はヤめてよ」
ヴィラが呻いた。ヴィラを除く全員が笑った。
「ヴィラ=レッド。二十歳。忍者……のなりかけ。王子だからといって、特別扱いはしないでほしい。嫌いなものは暴力」
五人は顔を見合わせた。アークが言う。
「絶対に帝国の思い通りにはさせない! 皆、これからが勝負だ!」
全員が頷いた。
もう、運命の歯車は止められない――……。