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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第5章:ある魔法使いの後奏曲
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第5章:第35話

それからキラはディオンに言った。


「じゃあじゃあディオンさん、ゼオンの本国引き渡し、なかった事にしてもらえますか?」


「そうだな、引き渡しは取り消す。だがゼオンに会わなかったことにするわけにはいかないから、一度城に戻って事件について再調査ができないか掛け合ってみるよ。

 もしかしたら投獄はなくてもゼオンが逃げたりしないように首都に連れて行くことになるかもしれないが…。」


えっ…とキラが声を漏らし、一瞬笑顔が消えた。

だがその時オズがキラとディオンの間に入り、ディオンに何か手紙のようなものを渡した。


「そのことでちょいと提案があるんやけど、お国の連中さんと相談してみてくれへん?」


ディオンは少し不思議そうにその手紙を見ていたが最終的にそれを受け取った。

キラも不思議に思ったがオズは詳しいことは教えてくれなかった。こんなことをするとは言ってなかったはずなのだが。

オズは終始笑顔を絶やさなかった。


「わかった、後で読ませてもらう。

 まあどうなるかはわからないがとりあえずゼオン、お前は村にいてくれ。また面倒なことになるからどっかに逃げたりはしないでくれ。

 あと、事件を起こしたのがお前じゃなくても、逃亡中に誰かを殺したりしていたら罪に問われるんだが……。」


「……って言われるだろうと思ったから、逃亡中誰も殺したりはしてねぇよ。適当にあしらって逃げてきた。」


それを聞いたルルカとオズが少し感心して言う。


「へえ、そいつは……逆にすごいな。大量虐殺しながら逃げてる王女様とか王女様とか王女様も世の中にはいるっちゅうのに。」


「……うるさいわね。それにしてもよくそれで逃げれたわね。」


「ふふん、これには忘却術のテクってのがあってだねぇ……。」


ティーナが自分のことのように得意気に言い始めるが二人とも聞いてはいなかった。

キラは苦笑しながらやっぱりこいつら悪党だなと思った。ディオンは頷いてゼオンに言った。


「そうだろうとは思った。国側でも有名だったんだお前のことは。一人も追っ手を殺さずに何年間も逃げ続けている少年……ってな。

 まあそれならいいんだ。首都に着いてまた何かあったら連絡する。

 俺は数日後には村を出るよ。やることは終わったしな。」


「ああ、わかった。」


ゼオンはそこまでは普段通りの淡々とした口調で話していた。が、次の一言からは違った。


「ところで兄貴……」


ゼオンが急にすごい形相でディオンを睨み、低い声で言った。

キラは何が起こったかわからず慌てた。ディオンも何故だかわからないようだった。周りのみんなの顔をきょろきょろ見るが全員理由はわからないようだ。オズですらそうだ。

ただ、ティーナとルルカは薄々何だかわかっているようで、少しディオンを睨んだりしていた。


「一つ聞きたいことがあるんだが、勿論答えてくれるよな?」


「な、なんだ……? わかることなら答えるが……」


ゼオンは一呼吸おいてから言った。


「姉貴が生きてるって本当か?」


「はぁ!?」


「え?」


キラとオズが同時に声をあげた。ルイーネも驚いていた。

ティーナとルルカはやっぱりというような表情、ホワイトとリーゼは特に変わった反応はなかったがホワイトはなぜかやたらニコニコしていた。

それにしても問題はゼオンの姉が生きているということだ。ディオンの話では死んだような口振りだったのにどういうことだろう。

するとこちらの混乱なんて知ったこっちゃないといった様子でディオンがさらりと答える。


「ああ、生きてるよ。」


「はぁぁぁ!? ゼオンに会うなり『姉さん殺したなー!』って感じでやたら怒ってたじゃないですか!」


キラは思わず怒鳴った。


「ゼオンが姉さんを殺したとは一言も……。」


「『あいつがシャロンの存在をー』って言ってたじゃないですか!」


「あれはそういう意味じゃない。」


「じゃあどういう意味だよ」と、キラとゼオンが眼力だけでディオンに訴える。

そしてキラがディオンに言った。


「じゃあ何さこのっこのっ、ゴキブリ当主ーっ!」


「ご……その言葉どこから出てきたんだ…?」


「……いっそミドルネーム、ジェランからゴキブリに変えたらどうだ? 同じGだし。」


「……ゼオンまで……。」


「じゃあディオン・ゴキブリ・クロードやな。ちょうどあんた髪長いし、触覚も作ったらどうや?」


オズが意地悪い笑みを浮かべながら便乗して言った。

ディオンは困った顔をして言い返せないでいたが、キラとゼオンはディオンを睨みつづけていた。

するとルルカがオズに言った。


「それにしても、貴方も知らないなんて珍しいわね。」


「知らへんわ。クローディアの奴、そんなこと一言も書いてなかったんやけど……くそ、あいつ隠したか……?」


「何だか知らないけど、とりあえずあの当主さん可哀想ね。」


半ばディオンに攻撃されたときの復讐のようにティーナが変な笑いを浮かべていた。


「いやいや、このノリについてこれなきゃ和解したとは言えないって。」


そうしてキラはディオンに文句を言い続け、ゼオンも冷たい言葉を浴びせ続けた。

ほとぼりが冷めた後、ゼオンが改めて尋ねた。


「で、結局姉貴が生きてるってどういうことなんだ?」


「ああ、姉さんはあの事件で瀕死の重傷を負ったけれどなんとか助かったんだ。

 けどクロード家一族の一部の奴らはお前を死刑判決にして排除したがっていてな…姉さんは表向き死亡したことにされた。死者の人数が一人違うだけで判決も変わってくるからな。

 今は姉さんは特に不自由な暮らしはしてないが、デーヴィアの国に密かに追放されてウィゼートに戻ることを禁じられている。名前もシャロンじゃなくて偽名を使っているんだ。

 だから俺が今姉さんの生存を公表してウィゼートに戻れるよう交渉中だ。」


ゼオンが黙り込み、少し表情が暗くなる。先ほどのふざけた雰囲気が消え、急に黙り込んだ。

そんな事情があるとは知らなかった。貴族を恐ろしいと思うと同時にディオンが姉の生存を伝えなかったのを責めたことをキラは後悔した。

言いづらかったに違いない。するとディオンは笑って言った。


「そんなに気にするな。どうせ伝えなければならなかったことだしな。」


ディオンなりに気を遣っているのがわかった。こういうところは全然ゼオンと似ていない。

優しくてお人好し。今まで対立していてあまり見えなかったディオンの一面にキラは気づいた。

ゼオンはディオンと普通に話しているこの状況にまだあまり慣れていないようでどこかまだぎこちない様子だった。

けれどもうディオンに対して敵意を見せる様子はなかった。

キラはそれを見てようやくほっとして、自然な笑みができた。するとオズがキラに言った。


「これでようやっと一軒落着やろ。

 キラもゼオンもあの戦いの後やし、怪我も完治してるかはまだわからんからはよ帰って休んだ方がええって。」


「そうだな。じゃあ、俺も戻るとするか。」


ディオンが言う。他のみんなもそうするようだった。

ゼオンも頷いた。どこかいつもより表情が柔らかく見えた。

すがすがしい快晴の空が今日この日にぴったりで、キラはとてもとても嬉しかった。

するとオズが言った。


「俺はちょいと用があるからちょいと残るわ。さいならー。」


「わかった、今日はありがとう。じゃあね!」


キラは手を振って歩き出す。

ルイーネだけはその場に残り、ゼオンを含むその他全員が村の方へ歩き出した時、急にオズが引き止めた。


「そや、そこの水色。」


水色、と呼ばれる可能性がある人物は髪が水色のリーゼしか居なかった。リーゼが立ち止まり、おどおどした様子で振り返る。

落ち着かない様子できょろきょろ色んな方向を見てオズと目を合わせなかった。


「お前、なんて名前やったっけ?」


「リ……。リーゼ、……ラピスラズリです。」


「わかった、覚えとく。じゃあな。」


オズが手を振り、みんな再び歩き出した。

特になんてことはない会話だったがキラは少し首を傾げた。オズはリーゼに今まで会ったことがなかったのだろうか。

リーゼはキラの親友で昔からいつも一緒にいるから、何度か会っていると思っていたのだが。

不思議に思ったが、結局偶然今まで会わなかっただけだと思うことにした。

今は、ディオンとゼオンが和解できたことを喜ぼうと思った。

そうしてキラ達は帰っていった。




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