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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第5章:ある魔法使いの後奏曲
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第5章:第26話

窓から射し込む日差しが眩しくて仕方がなかった。カーテンを閉めていてもまだ隙間から漏れて射し込んでくる。

誰もいない静かな部屋。外の鳥の声が聞こえてくるくらいだ。

少し値打ちのしそうな洒落た家具に、外からの光を受けて煌めくシャンデリア。ソファもベッドも寮の物よりずっとふかふかして柔らかい。

村長の家というだけのことはある。なかなかいい部屋だった。

結局カルディスの家の部屋を借りて一晩世話になったのだが、家自体が広く、部屋からほとんど出なかったのでディオンと会うことは一度も会うことはなかった。しかも見張りの人の話によるとディオンは今日はもう出かけたらしかった。

ゼオンは出されたお茶を飲みながら、武器の手入れをしつつ外の様子を確認していた。

いくら居心地のいい部屋とはいえいつまでもここに居るわけにはいかない。ゼオンはカップを置いて少し考えこんだ。

結局部屋を貸す代わりにカルディスが言い出してきたことは一つだけだった。オズが何をしようとしているのか教えることだけだ。

ゼオンが知っていることは全て教えた。ディオンがやってきてからオズがしたと思われることを全て。だが、その後どうしろとかさっさと止めろとかは言ってこない。

カルディスはゼオンにそこまでの期待はしていなかったのかもしれないが、だとしたら一体何のためにそのことをゼオンから聞き出したのか少し気にはなった。

最も逃げ出しやすい部屋をゼオンに貸したことから、オズを止めるのは自警団でも出すなりして自分でどうにかする気だろうか。だが今のところそのような気配はなかった。

今はそのことよりもここから早く出るべきかもしれないとゼオンは思った。

屋敷の外に厳しい監視もついていないようだし、ここからの脱出は容易い。

けど問題はそこからだ。ティーナ達の居場所がわからないし、おそらく屋敷を出ればルイーネが気づく。オズはきっと何らかの仕掛けは打ってくるだろう。

その状態からどうするか…そう思った時だった。


カツンと窓ガラスに何か当たるのが聞こえた。どうやら探す手間が省けたようだった。

ゼオンはさっさと荷物をまとめて杖を持って立ち上がる。今回は短剣を数本上着に隠しておいた。

杖を持って歩き出し、カーテンを開く。屋敷の柵の向こう側に赤髪と金髪を見つけた。

ゼオンはなるべく音がしないように窓を開けて庭へと出る。そしてすぐに裏門から屋敷の敷地外に出た。

すぐにゼオンは杖を剣に変えて構えた。遠くから誰かが走ってくる。ティーナとルルカだった。


「きゃほーぅ!やっと見つけたよ、ゼオ…」


「動くな、ティーナ!」


ティーナがびくりと動きを止める。ゼオンはティーナのすぐ後ろの茂みを斬りつけた。

確かな手応えとともに何もいなかったはずの空間に大きな魔物が姿を現す。

薄紫色の大きな体、全身についた真っ赤な目玉。ルイーネの操る魔物、ホロだ。

不意打ちに驚いた隙にゼオンはもう二度斬りつけて最後にホロを叩き落とした。

だが相手もすぐにはくたばらず、暴れ出した。それを抑えるようにゼオンは上着から短剣を取り出し、ホロの尾の辺りに投げ刺して地面へ縫い付ける。

だがまだホロは暴れていた。再び剣で斬りつけようとした時、急に白い魔法陣が地面に現れた。ホロは地面に押し付けられるように動きを封じられて静かになっていく。

ゼオンが後ろを向くと束縛の魔法を発動してる最中のルルカがいた。


「全く…手のかかるお化けね。」


「もー、それにしてもゼオン、探すの大変だったんだからぁ!

 どうしてこんなとこにいたの?」


ティーナが頬を膨らませて少し怒った。

それでも見つけた辺り、さすがティーナだ。ストーカー並に何度もしつこく校内に侵入してきただこのことはある。

ある意味感心したが、同時に内心呆れていた。


「村長のジジイがオズの企みの情報と引き換えに匿うとか言い出してな…。

 お前達こそよくセイラから逃げ出したな?」


「ああ、セイラってばゼオンが居なくなったらもう興味無しって感じで帰っちゃってさ。」


ティーナが口を尖らせていると束縛の呪文をかけている最中のルルカがこちらを見た。

ルルカがここまでゼオン側に味方するとは正直意外だった。

キラの記憶の件の時の行動からして、ひょっとしたらオズ側につくかもしれないと疑っていたのだが。味方のふりをしてる可能性もないわけではないが、こちらを騙すつもりは無いように見えた。


「…それで、これからどうするつもり?」


「そうだな…」


ゼオンが言いかけた時だった。村のはずれの方から激しい雷の音が聞こえてきた。

今日はこんなに澄み渡った青空なのに雷なんて鳴るわけがない。異変を感じてすぐにそちらを向くと、その辺りだけ空が妙に暗い。雨雲が重たく空を覆い、鉛色に変えてしまっていた。

これは何かあったなと思った。理由は大体想像がつく。

ゼオンは足でホロを抑え、剣をホロの目玉に添えて言った。


「ルイーネ、聞こえるか?俺の質問に答えろ。オズには気づかれないようにな。」


すると高い可愛らしい声が、今日はどこか深刻そうな調子で返ってきた。


『…そんな言うこと聞くと思っているんですか?』


「俺の後ろの建物…この魔物を通して見えるだろ?

 村長の屋敷だ。もし答えないようなら、今の騒ぎの犯人がオズってことにして村長にチクってやろうか。

 オズは攻撃魔法を使うとどうもまずい理由があるみたいだしな?」


正直最後の一言は本当かどうか自信はなかった。

キラがたしか前に、オズは普段絶対に攻撃魔法を使わないと言っていた気がするので鎌をかけてみたのだが、どうやら当たりだったようでルイーネは言葉に詰まってしばらく返事をしなかった。


『……用件は?』


ようやく返事が返ってきたところで、ゼオンが尋ねた。


「お前達は今どこに居る?あとその場にいるのは誰だ?」


『…村のはずれの草原です。今居るのは、キラさんとディオンさんとオズさんとあの性悪女と…あと、ショコラ・ホワイトさんです。』


「ショコラ・ホワイト?なんでその人が…」


『なんかディオンさんが連れてきたんです。』


「…あと、村はずれの草原というと今雷が鳴ったところか?…何があった?」


『それは……昔ゼオンさんが起こした事件は、ゼオンさん自身の意思で起こしたものではないかもしれないってキラさんが言い出して、それを証明するために…キラさんがあの杖の力で…』


「暴走しだした…ってとこか?」


『…はい。今、性悪女が止めに入り始めたところです。』


そこまで聞いたところでゼオンはため息をついた。やっぱりだ。

どうしてこうキラは自分の身をわざわざ危険にさらすようなことをするのだろう。ゼオンなんかのために。

キラはいつもそうだ。誰かが見ていないとすぐに突っ走っていく。馬鹿馬鹿しいくらいのお人好しで腹が立つくらいに勘が鈍い。

放っておいたらどうなるかなんて考えられなかった。

ゼオンはまたため息をついた。キラがもう少し賢ければ、オズやセイラのように卑怯だったならもう少し楽に村を抜け出せたかもしれない。

忘れよう。そんなことどうでもいい。そう自分に言い聞かせながら質問を続けた。


「杖の影響で暴走…って、その状況は意図的に作り出したんだよな?

 …どうやったらそんなことができたんだ?」


『…オズさんが、杖を持った状態のキラさんに身体強化の魔法をかけたんです。そしたら…』


「強化魔法?それだけでか?オズとセイラはその手段を最初から知っていたのか?」


『そうみたいですよ。』


強化魔法で暴走が意図的に起こせるなんて聞いたことがないし、強化魔法なんて今までゼオンもティーナもお互いに何回も使ってきたがそんなことは起こらなかった。

どうしてそんなことが起こるのか、二人がどうしてそんなことを知っているのか、理由はわからない。

その時、ティーナがルイーネに尋ねた。


「…ねえ、その強化魔法の呪文って…覚えてる?」


『呪文…ですか?うー、あまり覚えてませんが…この世を破壊する紅き瞳の女神よ…とか…』


ティーナが「あっ…」と声を漏らして黙り込んだ。

ゼオンがすぐに訊いた。


「…何か知っているのか?」


ティーナの顔色は悪かった。普段絶対に見せないような表情だった。ゼオンがディオンに会った時、もしかしたらゼオンはこんな表情をしていたのかもしれない。

ゼオンが何か尋ねてもティーナは答えようとしなかった。

その時だった。屋敷の正門側から誰かが走ってくるのが聞こえた。

ティーナが反射的に杖をその方向に向けたが、ゼオンがすぐに「下ろせ。」と言った。

ティーナは黙って杖を下ろした。村長の家の裏をおおっぴらに走れる人なんてそう多くはない。なんとなく誰だか想像がついた。

そしてあの声が聞こえた。


「誰かいますの?」


強気な声と共に三人が姿を現した。ペルシア、ロイド、リーゼ。

三人はその状況を見て驚いた様子でゼオンを見る。ゼオンはまたため息をついた。

また面倒なのが来たなと思った。




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