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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第1章:不思議な杖と逃亡者
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第1章:第5話

ゼオンたち三人はとりあえず今日泊まるところを探すために宿屋を探していた。とは言っても正直こんな山奥の村に宿屋なんてあるのかいささか不安だった。

歩いても歩いても見えるのは草原と民家ばかりで宿屋らしきものは見つからない。

ティーナが横で不満そうな表情をしていたがゼオンは無視して後ろを警戒しつつ歩いていた。

時折後ろを振り返りながら歩くゼオンにルルカは言った。


「ところで、あの子たちに素性バレたのにそのまま帰して本当によかったの? 私達と会った記憶消すくらいして証拠隠滅したおいたほうがよかったんじゃないかしら?」


するとティーナが自信満々で言う。


「いーのいーの、 ゼオンが決めたんだからいーの! 大体よく言うよ。ルルカがする証拠隠滅は殺人のくせに。」


ルルカは表情一つ変えなかった。ゼオンはルルカの話を聞かずに辺りをキョロキョロ見回していた。

誰かの視線を感じる。誰かというより何かというべきかもしれない。

後ろから感じたかと思えば次は左から感じ、かと思えば今度は真上から感じて、すぐさまその方向を向いても、そこには誰もいない。

間違いなく監視されている。ルルカの話を聞いている場合ではなかった。

全く話を聞いていないゼオンにルルカは言う。


「ねえ、貴方私の話聞いているの? 全くさっきからキョロキョロ何を……」


そう言いかけたところで急に後ろを振り返った。だがそこには何もいない。

ルルカはその方向をしばらくじっと黙り込んで見つめていた。

どうやらルルカも何かが自分たちを監視していることに気づいたらしかった。


「なるほどね。 正体不明の何かに監視されている時に堂々と証拠隠滅はできないわね……」


そう言うとルルカは早速杖を弓矢に変えて応戦の準備をした。

ゼオンも自分の杖を出し、警戒態勢をとる。

ただ一人状況を把握できていないティーナは真剣そうな二人を見て、不思議そうに言った。


「え、何、誰かいるの? どこどこ?」


そう言いながらしっかり杖を握りしめていた。そのとき、ルルカが上空に向かって矢を放った。

するとその矢をよけるようにして何もいなかったはずの空間から一体の魔物が姿を現した。

薄紫色の体。全身を覆う無数の赤い目玉。巨大な口に鋭い牙がある。普通の人なら見ただけで震え上がりそうな恐ろしい外見だった。

その魔物は、幽霊のように不気味に飛び回り、こちらに突進してきた。三人ともそれを素早くかわした。

ティーナが杖を鎌に変え、魔物に切りかかった。魔物はまた姿を消して鎌を避ける。

だがこの場から去ってはいない。気配はまだある。……上だ。ゼオンは上を指差してルルカに合図をした。

するとルルカは弓を片手に呪文を唱え始めた。


「闇夜を照らす月の光よ……我が願いに耳を傾けたまえ……」


すると上空にいた魔物が再び姿を現した。不気味な瞳がルルカを捉えた。

そして詠唱中のルルカに向かって魔物は襲いかかった。

ゼオンがティーナに合図する。

ティーナが魔物に再び飛びかかった。ゼオンも杖を剣に変えて魔物に切りかかる。

二人の攻撃はあっけなくかわされでしまったが、ゼオンの狙いはそこではなかった。要はルルカの詠唱時間が稼げれば良いのだ。

その時だった。


「集え聖なる光、天の裁きよ……リュミエール・フレーシュ!」



ルルカの矢が白く輝き始める。

そしてルルカは弓矢を構え、魔物に狙いを定めた。


「立ち去りなさい…全身失明になっても知らないわよ?」


その途端、無数の光の矢が天空に向かって放たれた。何十本もの白い筋が空を貫く。

魔物はそれもかわそうとしたがさすがに攻撃範囲が広すぎた。数本の光の矢が魔物の胴体に突き刺さった。

魔物は地を裂くような悲鳴と共に苦しそうにもがき、地面へと落ちた。


「やったあ、ルルカやるねぇ!」


ティーナが嬉しそうに声をあげる。だがゼオンはまだ気を抜くことができなかった。

まだ何かの気配を感じた。この魔物ほどの力はないが、数が半端ではない。

少なくとも数十体。どこから……右……いや違う。上でもない。

ゼオンは魔物のいる方向と反対の方を向いた。


「後ろだ!」


それと同時にゼオンが向いた方向から無数の黒い何かの集団がやってきてみるみるうちに三人を取り囲んだ。

よく見るとその黒いものは何百匹もの小悪魔だった。小悪魔たちが三人を取り囲むと同時に先ほどの魔物は突進を止めた。

どうやらこの魔物は囮だったようだ。ここまで大きな群集の小悪魔を見るのは初めてだった。

その小悪魔と協力する魔物など普通は存在しない。その後ろで誰かがその二つに指示を出しているとしか考えられなかった。


「出てこい。そこにいるんだろ。 用があるなら面と向かって言え。」


ゼオンが小悪魔の壁の向こうにむかって言った。返事は聞こえない。

だが、突然小悪魔たちが作り上げた黒い壁が裂け、先ほどと同じのどかな村の風景が見えてきた。

そして、そこに誰かが立っている。見覚えのある顔だった。

それは、先ほど中央広場で会ったオズという青年とルイーネという小悪魔だった。


「ご苦労、ルイーネ。」


「いえいえ。ホロもご苦労様です。」


ルイーネがそう言うと先ほどのたくさんの目玉がある魔物がよろりと起き上がりルイーネの方へ行った。

どうやらこのホロと呼ばれた魔物はルイーネの指示によって動くらしい。

だがどういうことかわからない。なぜこの二人が初対面のはずの三人にこんなことをするのだろう。

三人が逃亡者ということを知って正義感で捕まえてやろうとでも思ったのか。

だが、それなら小悪魔たちに三人を囲ませたらすぐに攻撃させればいい。

わざわざ互いに話せるような状況なんて作らずに。オズは不適な笑みを浮かべながらこちらを見つめるだけだった。

疑問を持ちつつもゼオンはオズに言った。


「お前、何の用だ。 どうしてこんなことをする。」


そう言うとオズはふっと笑ってこう言った。


「お前ら三人に頼みがあるねん。 こうでもしないと聞いてくれへんやろからな。」


ティーナがオズを睨みつけて何か言おうとしたが、ゼオンがそれを片手で制した。

オズは笑みを浮かべながら言った。


「とりあえず立ち話も難やな。 俺んとこの図書館に来うへん?」


夕暮れの茜色の中、カラスが一つ鳴いた。

それはこれから水面下で繰り広げられる戦火なき戦いの始まりを告げる鐘でもあった。

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