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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第5章:ある魔法使いの後奏曲
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第5章:第11話

「それにしてもルルカがお姉ちゃんのとこに行くなんて意外だな。

 てっきりゼオンが見つかったから自分も危ないって感じで村から逃げ出す準備でもするかと思ってたのに。」


キラたちは歩いて家を目指していた。横を歩くルルカはやたら早足で進んでいった。キラは急いでついて行くしかない。

いつも冷めた様子で、他人の私情に興味を持たないルルカがどうしてこのことには積極的に関わってくるのか不思議だった。

するとルルカは呟いた。


「…色々気になるのよ。…本当にあの人が殺したのかしら…」


ルルカの足が更に早くなった。キラも慌てて後を追う。ルルカの先に見えるのは紛れもなくキラの家。二人は急いで玄関に走り出した。

中から物音や声はしない。サラがちゃんといるか少しだけ不安になる。


「ただいまー…」


キラは扉を開けておそるおそる中へ入る。ルルカも後から続く。

玄関に灯りはついていない。中はとても静かで物音一つしなかった。

ゆっくりと一歩一歩居間へ進む。多分サラは居間にいるはずだ。その時居間から灯りが漏れているのが見えた。

二人は居間へ入る。そこにはお菓子を食べながらくつろいでいる最中のサラがいた。


「お帰りなさい、どうしたの?」


サラは最初は笑顔でそう言ったが、キラの後ろに居るルルカを見た途端黙り込んだ。二人の空気を察したらしい。

自分が敵意を向けられているということを感じたようだった。ルルカはサラの前に行き容赦なく言う。


「10年前の事件について色々と聞きたいのだけれど…よろしいかしら?」


「…初めましてだね、ルルカ王女様。あの子の言ったとおりだな。」


ルルカの眉間にしわがよる。サラはルルカが村に居るということも最初から知っていたらしかった。キラがサラに訊く。


「お姉ちゃん、ゼオンやルルカがここにいること、誰から教えてもらったの?」


サラはにっこり笑って口の前で人差し指を立てる。


「それは内緒なんだなぁ。あの子に教えないでねって言われちゃったの。

 それでルルカさん、訊きたい事って何かな?」


サラは状況とは不似合いな笑顔で言う。ルルカは仏頂面を少しも崩さずに言った。


「10年前の事件…どうして国王が殺したって思うのかしら?私が知る限りじゃ、あの人は他人を殺すような人じゃないわ。」


「…人は見かけによらないんだよ?」


サラは急に真顔になった。先ほどの笑顔はどこにもない。どこか恐ろしさを感じた。

サラの言葉を聞いたルルカはどこか悲しげに俯く。しばらく黙りこんだ後、ルルカは答えた。


「…それはそうね、その通りだわ。けれど貴女が国王を犯人だと思った理由くらい聞かせてもらえないの?」


サラの表情が険しくなる。国王への恨み、怒りが滲み出てくるようだ。

10年間キラが気づくことのできなかった表情だった。サラはまた真顔に戻り、淡々と話し始める。


「あの日は寒い夜だった。父さんと母さんとキラは寝室にいて、そこに今の国王が遊びに来たのよ。

 そしたらキラが寒いって言って愚図りだしてね。私が毛布を貰いに行って、戻って来た時にはもう…」


そこまで話して急にサラは黙り込んだ。表情は暗い。


「部屋の中は真っ暗。炎に包まれていた。中には血まみれで倒れている父さんと、気絶しているキラと…右目から血を流しながら例の杖を持って座り込んでいるあいつがいた。」


時計の針が動く音がよく聞こえて嫌だった。何も言わない、音もしない、なのにこんなに緊張するこの数秒が苦しかった。


「…じゃあ、殺した瞬間を見たわけではないのね。」


「でもあいつはあの杖を持っていた。手足に怪我はしていなかったし、あいつにしか父さんと母さんは殺せなかった!

 …絶対あいつが犯人っ!」


サラは急に恐ろしい表情でルルカを怒鳴りつけた。キラは思わず震え上がった。こんなサラを見るのは初めてだった。

サラは今までいつも優しかったから。こんな怖い表情なんてしたことがなかったから。

けれど今思うとそれは精一杯の演技であり、自分の本心を見せないことこそがサラなりの優しさだったのだろう。

それを知ってしまった今、キラは辛いけれど。ルルカは少し考えこみ、サラに言った。


「…国王にしか殺せなかった…ね。本当にそうかしら…?」


「信用できなければしなくていいよ。どうせルルカ様は国王の味方だし。」


二人は何も言わずに睨み合う。冷たい沈黙が消えない。

その静寂を破ったのは居間のドアが開く音だった。とても乱暴な音がして、一歩一歩怪物の足音のような音が近づいてくる。

三人は驚いて扉の方を見る。先ほどまでの緊張感はどこかに吹っ飛んだ。そして突然居間の扉が開いた。入り口ではリラが仁王立ちしていた。


「居たね、サラ!とっとと来な!」


サラの顔が青ざめる。リラはずかずか居間に入り込むとキラとルルカを押しのけてサラの耳をつまんだ。サラはリラに文句を言う。


「痛っ、あいたたー…!痛いって、止めてよ婆ちゃん!あいたー!痛いよぉ!」


「止めるもんかい!こんなことして、何の詫びもなしに済むと思っているのかい!

 カルディスのところにあんたも来な!」


そう言ってサラはリラにつままれて行ってしまった。キラは口をあんぐり開けてその様を見ていた。

嵐が過ぎ去った後のように、ルルカとキラはしばらく二人が過ぎ去った方向を唖然として見ているしかなかった。


「…貴女のお婆さんって最強ね。」


「…あはは。」


キラは苦笑するしかなかった。サラが完全に去り、ルルカは急に真面目な顔になって考えこんだ。


「それにしても…あの様子じゃ私が国王と知り合いってことも知っていたみたいね…。

 本当に密告したの誰かしら…。」


「……は?ルルカが国王様と?聞いてないよ!?」


キラが驚いて聞き返す。ルルカは「話を聞いていなかったの?」と言わんばかりにため息をついた。

そんな顔をされても知らないのだから仕方がない。初耳だ。キラはぶーっと膨れてルルカを見て、「どういうことなのか教えてくださいっ!」と言った。

するとルルカは少しだけ顔を赤らめてどこか落ち着かない様子で言った。


「その…昔の知り合い…それだけよ。」


「昔の知り合い…かあー。」


キラはニヤニヤしながらルルカを見る。ただの知り合いと言っている割にいつものルルカと様子が違う。

するとルルカが少し怒った。


「何よ…ただの知り合いって言ってるでしょ?」


「はいはーい。」


キラはまだニヤニヤしながら言った。ルルカはまだ不満そうだったが気にしないことにした。

するとわざとらしくルルカが話をそらした。


「それにしても…貴女このままじゃまずいわよ?」


とてもわざとらしい話のそらし方だったが、言っている内容は無視できたものではなかった。


「ほぇ、なんで?」


「ゼオン達が居なくなると味方が減るんじゃない?」


ルルカは当たり前のように言ったがキラはギョッとして言い返した。


「ちょっと待ってよ、なんでゼオン達がこのことに協力する前提になってるの!?」


「あら、私はてっきりあの子達も戦力内だと…」


「せ、戦力!?」


キラは驚き唖然とした。一体どこから戦力なんて言葉が出てきたのか。

まさかサラと戦えとか言い出すつもりだろうか。冗談だろうとキラは思っていたがルルカは本気だった。


「何を抜けたこと言っているの?相手は復讐するつもりなのよ?

 頭に血が上った奴は何をしでかすかわからないわ。きっと杖を奪うためなら武力行使だってするでしょうね。

 貴女、復讐を止める気なんでしょう?だったら貴女だって戦わなくちゃ絶対に復讐を止めるなんてできないわよ?」


キラは口をつぐんで黙り込んだ。ルルカの言う通りだった。

ただ説得するだけで止められるレベルの問題なら、リラがとっくに止めていたはずなのだ。

けれど駄目だった。もう話し合いで解決できるレベルの問題ではなくなっているのだろう。

キラも薄々気づいていた。けれどそうなってほしくないと願っていた。

けれどそれは所詮願いでしかなかった。


「戦うと言っても貴女一人じゃ当然無理よ。相手は反乱『軍』ですもの。当然味方は必要でしょうね。」


キラは更に黙り込む。返す言葉はない。だが素直に頷ける話かというとそうではなかった。


「けどあいつは…」


「あの二人を味方にできないと貴女かなり不利よ?」


「でも…ただでさえあいつも辛い状況なのに、お姉ちゃんの復讐を止めるために村に残れって言うの?

 あたしの利益のためにゼオン達を利用しろって言うの?」


キラの口調がだんだん激しくなる。だがルルカは頷くだけだった。続けてルルカは言った。


「ええ、勿論。二人を引き止めるにはまずディオンって奴の方に手を打たなくちゃいけないでしょうね。

 ああでも復讐を止めるつもりなのに国の人を敵に回しちゃ逆効果なのかしら?やっぱりオズのような悪知恵は働かないわね…」


「待ってよ、どうしてそんなこと言えるの!?何でルルカは二人の辛さを無視できるの!?」


「私じゃなくても、オズやセイラも同じように言うと思うわよ?あの二人は私より腹黒いもの。

 復讐を止めたいと思わないのなら別にいいのよ?これ、私の問題じゃあないし。」


キラはルルカの思考回路が理解できなかった。まるで二人のことを人としてすら捉えていないような考え方だ。

どうしてそんな考え方ができるのかキラには理解不能だった。

そして、きっとオズやセイラはルルカよりもずっと冷酷なのだろう。

キラには理解できないくらいに。沸々と怒りが沸いてくる。


「あたしは…そんなことできないよ。自分の為にあいつらを利用するなんてしたくないよ!」


「そう、じゃあ勝手になさい。私は知らないから。」


「勝手にするよ!ルルカのバカバカバカっ!」


キラはそう怒鳴って家を飛び出した。行く当てもなくただ駆ける。不吉な予感はまだ消えそうになかった。



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