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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第1章:不思議な杖と逃亡者
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第1章:第4話

森を抜けたキラ達は村全体を見渡せる高台に出た。遠くに見える小さな村がキラが住むロアルの村。深い森に囲まれてぽつんと佇む小さな村だった。

ここから村の中央の広場に向けて道が伸びており、広場から放射状に村のあちこちに道が伸びている。村の東側には寮付きの大きな学校があり、西側には村長の屋敷や村の施設などがあった。


「なんか気味悪い村だな。」


ゼオンがぽつりと呟いた。キラは腹が立ってゼオンを睨みつけた。

人に道案内してもらっておいてこれは失礼だ。

キラはゼオンを怒鳴り始めたが、ゼオンはそんなキラを全く相手にしていなかった。

無視するゼオン達にキラは怒鳴った。


「無視すんな! わざわざ道案内してやったのに、恩をあざで返しやがってー!」


それを聞いたとたん、ティーナがキラを指差して笑い始めた。

わけがわからないキラはきょとんとした表情で首を傾げた。

ゼオンが呆れ果てた顔をして言う。


「…あざじゃなくてあだだろ。」


間違いを指摘されたキラは口をぽかーんと開けたあとに、慌てて別に知らなかったわけじゃないだの言い間違えただけだの言って言い訳をしたが、誰も聞いていなかった。ただリーゼが苦笑いするだけだった。

もう道案内なんか放り出して帰りたいところだったが、そうもいかなかった。

キラがくやしくて三人を睨みつけていると、突然ゼオンが空を見ながら言った。


「ここ、妙なくらいに晴れてるな。異常気象の影響本当に受けてるのか?」


それを聞いたキラはさっきまでの怒りを忘れてきょとんとした顔でゼオンを見た。

異常気象が起こってるなんて聞いたこともない。今回はリーゼも何も言わなかった。

この村はキラが知る限りでは今までずっと、良く晴れて、時々雨が降る、日照りが続くこともなければ洪水になることもない、普通の村のはずだ。

そんなキラを見たティーナが、今までで一番の驚きの声をあげた。


「あんたらどこまで田舎者の世間知らずなのさ! もう10年くらい世界中で異常気象続いてて大混乱だっていうのにー!」


「だってこの村で異常気象なんて起こったことないよ?」


ティーナが更に大きくリアクションした。

異常気象が起こっていないことがそんなに大変なのだろうか。

どちらかというと起こっている方が大変な気がするのだが。

そのことを聞こうとした時、突然リーゼが何かを思い出したようで、申し訳なさそうに言った。


「キラ、ごめん! 私、急いで学校に取りに行かなきゃいけないものがあったの忘れてた!ごめんね!」


そう言った後、リーゼは何度も謝りながらあっという間に走っていってしまった。

キラは救いの天使が遠ざかっていくのを見るような思いでそれを見ていた。

リーゼがいなくなるとキラはここから先は一人で道案内をしなければいけないのだ。

仕方がないことはわかっているが、一人というのは心細かった。

悲しみに暮れるキラに対してルルカが容赦なく言う。


「じゃ、早く案内してくれないかしら?」


こうしてキラは一人でこの三人を村の内部へと案内することになってしまったのだった。



◇ ◇ ◇



辺りはもう夕暮れに近かった。空も茜色に染まっている。カラスの声が澄み渡った空によく響いた。

村の奥に進むにつれて見かける村人の数も多くなってきた。先ほどまで周りには畑しかなかったがいつしか民家ばかりになっていた。

人々の間をするすると通り抜けながら、キラ達は村の奥へと進んでいった。


「で? どこまで案内すればいいの? あたしまだお使い残ってるんだけど。」


キラはまだ喧嘩腰のままでゼオンに言った。


「とりあえず村の中心部まで案内してくれればいい。」


どんなに怒りを帯びた声でキラが言っても、ゼオンはこれでもかというくらい冷静に受け答えるのだった。

キラがぶつくさ言いながら三人と歩いていると、ようやく村の中心部の広場が見えてきた。

憩いの場でもあるこの広場。小さな子供達が楽しそうに遊んでいるのが見えた。

ふと広場の片隅見ると、シルクハットをかぶった背の高い青年が何かが入った袋を持って三匹の小悪魔と話しているのが見えた。

青年の髪の毛は紫色で瞳は血の色のような真紅。外見的には20歳くらいだ。

あの横顔には見覚えがあった。村の図書館の管理人、オズ・カーディガルだ。

キラはオズの方へと走り、声をかけた。


「おーい、オズ! 何してるのー?」


キラが大きく手を振りながらそう呼びかけると、向こうもキラに気づいたらしく、三匹の小悪魔と共にこちらへと歩いてきた。


「お、キラ。ちょうど隣町に買い物行って帰ってきたとこや お前こそどないしたん?」


それを聞いたとたん、後ろにいたゼオンたち三人の表情が歪んだ。大きな違和感を感じたような表情だった。

多分外見と喋り方が全然合っていないと思ったのだろう。初めてオズと会った人は大抵そう言うからだ。

キラは苦笑しながら言った。


「お使いと、この三人の道案内。まあここで道案内は終わりだけどね。」


キラがそう言うと、オズは三人を見た。

だが、その視線はすぐに三人の顔ではなく三人の持つ杖へと向かった。

しばらくオズは三人の杖を見つめていた。キラはそれに気づかずにオズに尋ねた。


「ところで、何買ったの?」


すると三匹の小悪魔のうち、眼帯を付けた小悪魔の少女、ルイーネが言った。


「紅茶と食料とカップを2つです。」


ルイーネは礼儀正しくそう言った。

他の二匹の名前はシャドウとレティタというのだが、ルイーネは三匹の中で一番しっかり者で、能力も高いらしい。ルイーネはオズに言った。


「ほら、オズさん。早く帰って新しく入ってきた本の整理しましょう?」


「せやな。じゃ、キラ、またな。」


オズはそう言った後、ルイーネに一言何か言ってから帰っていった。

オズが立ち去ったところでキラは待ってましたとばかりにゼオン達の方を見た。

道案内はここで終わりのはずだ。キラはゼオンたちに言った。


「村の中心部まで案内したからもうあたし帰っていいんだよね? ってか帰るよ?」


「ああ、わかった。勝手に帰れ。」


それを聞いたキラは「やった!」とガッツポーズをして一言こう言ってからたったか走り去った。


「じゃ、あんたたち絶対に変な騒ぎとか起こさないでよね!」


ゼオンは走り去ったキラを見送った後、周囲を見回しながらつぶやいた。

矢が頭上を掠めていくかのように、突如風が吹き抜けていった。


「できればな……」


カラスの鳴き声がいくつもいくつも。まるで何かの始まりを告げるかのように聞こえた。



◇ ◇ ◇



紅を引いたような空に幕を下ろすように、空は徐々に暗くなっていた。村の中心部に行くにつれて人の数も徐々に少なくなる。

人気の無い一本道を一人の青年が歩いている。その後を追ういくつかの小さな影が騒ぎ出した。


「なー、なんでシュークリーム買ってくんなかったんだよー! 買ってくれよー!おいオズー!」


「馬鹿ね! あんた、村に帰ってから買えるわけないじゃない!」


シャドウの声が夕焼けにこだまする。それに答えるレティタの声もよく響いた。

カラスの鳴き声の中、オズたちは中心部から西に向かって歩いていた。図書館のある方角だ。

シャドウはさっきから何度も「シュークリームぅー!」と不満そうに言っていたがオズはまともな反応を返さない。

というのもシュークリームの話なんかしている場合ではなかったからだ。

オズはルイーネの方をちらりと見る。二人の表情は固かった。


「どや、ルイーネ。あの三人、どっちに向かってる?」


「西南西。ちょうど宿屋がある方角ですね。あの魔術師の方に気づかれそうなんですけどまだホロに追わせ続けますか?」


「ああ、そうしてくれ。」


ルイーネは自分の能力で三人の姿を追い、オズはその報告を聞いて指示を出した。

オズの目は先ほどとは比べ物にならないくらいに鋭い。

二人の様子を見てシャドウとレティタは急におとなしくなった。ルイーネがオズの方を心配そうに見て言った。


「突然あの三人を追えだなんて、どうしたんです? あの三人に何か気になることでもあるんですか?」


その言葉を聞いてニヤリとオズが笑った。

オズはまるで宝の地図を見つけたかのように満足そうに言った。


「どっちかってと、あの杖の方にちょっとな……」


そう、確かに三人の持つあの杖はルピア家にあった杖と同じだった。

懐かしく、そして忌まわしいあの杖。キラがなぜその杖を持っていたかはわからなかったが。


だとすれば……


オズは突然持っていた袋をシャドウの方に放り投げた。

自分の全長の何倍もの大きさの袋をなんとかシャドウはよろけながら受け止めた。

そしてそれを確認してからシャドウとレティタの二人に言う。


「先に帰っててくれ。用が済んだら帰るから。 ほな、行くで、ルイーネ。」


そしてオズはルイーネを連れて三人のいる方角へと歩いていった。

あの杖。それはやっと、やっと見つけた手がかりだった。

否定された過去を実在させるための。

遠い過去のことを思いおこしながらオズは見慣れたこの村の地を踏みしめ歩いていった。

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