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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第5章:ある魔法使いの後奏曲
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第5章:第2話



鬼のようなお説教は30分近く続いた。

内容はやっぱり遅刻やサボりのことで、先生は滑稽なほどに学校生活における授業というものについて熱弁しつつ、遅刻やサボりはするなと飽きるくらい怒鳴っていた。

キラとゼオンは適当に「はい」だの何だのいって適当にやり過ごしたつもりだったがそれでもお説教はかなり長い時間かかった。

もう倒れたくなるくらいしつこいお説教の後、ようやく先生が言った。


「いいですか、以後気をつけなさい。」


キラとゼオンは適当に返事をするとさっさと職員室を出ていった。

こうお説教されても、きっと明日になればキラはまた遅刻し、ゼオンは授業をサボるのだろう。

きっと明後日もその次の日もそうなのだろう。そうキラは思っていた。

職員室を出た後、キラとゼオンはすぐに階段を下って校舎を出た。

もう季節はすっかり夏になり、日差しが眩しい。とにかく暑くてたまらない。

キラとゼオンは早歩きで通りを歩いて図書館に向かう。一人で行けと言ったくせに、結局ゼオンはついてきた。


「来ないんじゃなかったの?」


「…別に、暇つぶし。」


ゼオンの様子を見たキラは少し口を尖らせて言った。


「ううー、テスト勉強があるくせに『暇』かよ…。」


「…テスト?」


ゼオンが初めて聞いたとでもいうように聞き返した。聞き返されたキラの方が目を丸くして言った。


「何言ってんの、もう7月だしもうすぐ期末テストだよ!」


「そうか…学校だしな。そういうのがあるんだな。」


他人事のような反応のしかただった。キラは少し虚しくなった。こういうことを言うくせにゼオンは成績はいいのだ。

長い間ゼオンは学校に行ってなかったのだから仕方ないのだけれどキラとしてはやっぱり複雑だ。

きっとまたリーゼとトップ争いを繰り広げたりするのだろう。こっちは最下位争いから脱却しなければならないというのに。

キラはため息をついた。ゼオンがそれを見て言った。


「何ため息ついてるんだ。着いたぞ。」


そうこうしているうちに図書館についた。二人はすぐに扉を開けて中に入る。

図書館の中なのになぜか入ってすぐに涼しい風が吹いてきた。何やら今日は妙に中が静かだった。だからといって空気が重たいわけでもなさそうだ。

奥へと歩いていくと、そこには椅子に座り向かい合ってチェスをしているオズとセイラがいた。

真っ黒い服を着ている二人を見て、更に暑くなったような気分になった。

隣にはそれを見物しているティーナとルルカがいる。


「…また貴女?」


キラを見つけたルルカが冷たく言った。そう、大体このメンバーが集まるとギスギスするのだ。

そのくせにどうしてみんなこの図書館に寄ってくるのかわからない。苦笑いしながらキラは言う。


「また私で悪かったね…。で、二人はどうしてここに来たの?」


するとティーナが笑顔全開で言う。


「暇だったから!」


「……それだけ?」


「あと涼しかったから!外暑いじゃん?」


確かに涼しいけどなぜか涼しいけど。隣にいたゼオンが「多分オズの魔法だろうな。」と教えてくれた。が、涼しい理由は正直どうでもいい。

毎回毎回ギスギス空間に居なければならないキラの身にもなってほしかった。が、言うだけ無駄かもとキラは思った。

キラはオズとセイラの方に目を向けた。いつになく真剣な顔をしてチェス盤を見つめていた。


「なんか珍しいことやってるね。」


「なんか負けた方がアイス全員分おごるんだってさ。」


ティーナが笑いながら言った。キラはボソッと言う。


「……この前からアイスって言葉をよく聞くような…。」


「……言い出しっぺはセイラだな多分。」


ゼオンもボソッと言った。チェスのルールはよくわからないが白と黒の駒が何やらたくさん並んでいる。

オズもセイラも黙って考え込んでは駒を動かしていくが、ルールがわからないものだからキラには状況が全くわからなかった。

そんな時、キラは盤面上に一つだけ変な駒を見つけた。


「…ねえ、なんでシャドウがそこにいるの?」


キラは盤面に不機嫌そうに座り込んでいるシャドウを指差した。

しかもなぜか白いはちまきをしている。どう見てもおかしいと思う。するとオズが答えた。


「シャドウの奴がイタズラして白のナイトを黒く塗りおったんや。

 だから罰ってことで白のナイトの代わりやねん。」


だから白いはちまきをしているのか。するとシャドウが不満そうに言った。


「おいオズっ!俺はいつまでこうしてりゃいいんだよ!」


「イタズラしたお前が悪いんやろ。」


「オズがガトーショコラなんて買ってくるから悪いんだ!俺はガトーショコラは嫌いなんだぁ!」


シュークリームが好きなくせにガトーショコラは嫌いというのもなあと思う。

イタズラした理由がそんな程度のことだとは。大体どうしてアイスだのシュークリームだのガトーショコラだのといったお菓子がそんなに図書館にあるんだろう。

キラは呆れてため息をついた。するとオズがキラに聞いた。


「んで、お前は何の用で来たん?」


「…悪いけど、あんまり愉快な話じゃないよ?」


キラはそう言ってサラからの手紙をオズに渡した。その手紙を読んだオズの手が一瞬だけ止まった。

セイラだけでなくティーナやルルカも何かあると察したらしく、オズを見た。

オズは手紙を封筒にしまい、キラに返した。そしてまたチェスの駒を移動させる。

顔だけは笑ったままオズは言った。


「なるほどな、サラが帰ってくるんか。」


キラは少し複雑な気持ちで頷いた。サラが帰ってきたら、キラはどうするのだろう。

本当にサラを説得できるのだろうか。不安な気持ちが渦巻いていた。そんな時、ティーナが場違いなくらい明るい声で言った。


「はいはーいっ、前から思ってたけどあたし現在状況がよくわかりませーん!誰か教えて!」


その部屋にいた全員が珍獣を見るような目つきでティーナを見た。

キラの記憶のことやサラの復讐のことであれだけ騒ぎになったというのに何を言い出すのだろう。ルルカが呆れて言った。


「馬鹿もほどほどにしてよね。キラの記憶の話の時に貴女もいたじゃない。」


「だってーあたしそれに関しては余計なことはしてない無罪組だし。

 あんまそのことに関わってなかったからわかんないよ。」


それを聞いたゼオンやルルカやオズなど有罪組がしばらく黙りこんだ。しばらくしてセイラが言った。


「キラさんのご両親が10年前に何者かに殺されたことは知ってますよね?」


「うん、さすがに知ってる。」


「キラさんのお姉さんのサラさんは犯人はウィゼート国の国王だと思っていて、復讐しようとしているんですよ。

 それでキラさんはサラさんを説得しようとしているんです。」


「へー。」


そう言ってティーナは感心していた。キラとしては今まで何を聞いていたんだ、と思う。

だがすぐに頭の中はサラの復讐のことで埋め尽くされていった。サラに何て言えばいいのだろう。そう思うと気が重い。するとオズが聞いた。


「そういやキラ、お前説得ってゆーてたけど、サラに何て言う気なん?」


「う…それは…」


キラが口ごもった時、急に後ろから扉が開く音がした。誰かが入ってきたらしい。

振り向くとそこには小包を抱えたショコラ・ホワイトが立っていた。

ホワイトはオズの所まで行くとほんわかした笑顔で言った。


「こんにちは。クローディアさんから小包が届いたんです。これ、オズさんの分らしいですから渡しておきますね。」


「ああ、ありがとな。」


オズは笑いながらそう言って小包を受け取った。

クローディアというのが誰だかはわからないが、どうもホワイトとオズの知り合いらしい。

小包が届くということはこの村の外の人なのだろう。オズにそんな知り合いがいたんだとキラは少し驚いた。

そう思った時、キラはセイラが珍しいくらいに驚いた表情でホワイトを見ていることに気がついた。


「セイラどうしたの?」


オズやホワイトもセイラの方を見た。セイラはホワイトをひたすら凝視していた。

こんな表情のセイラを見るのは初めてだ。未知のものを見たような表情でホワイトを見ている。

そしてしばらくして呟いた。


「あなた…誰ですか…?」


「そうね、あなたに自己紹介してなかったよね。私はショコラ・ホワイト。」


ホワイトは優しく笑ってそう言った。けれどセイラの表情は優しくなかった。


「ショコラ…?」


セイラは立ち上がってまじまじとホワイトの顔をのぞき込んだ。そしてホワイトの周りを一周してまじまじと見つめる。

ホワイトは少し困ったような表情をしていた。見ているキラの方も不安になった。

しばらくしてセイラは安心したようにため息をつくと椅子に戻った。


「すみません、名前が似ているんで知っている人のような気がしたんですが違ったみたいです。気にしないでください。」


「そう?じゃあよろしくね。」


ホワイトは何も気にしてはいないようだった。セイラも「よろしくお願いします。」と言ってまたチェス板へと向かった。

どうやら何事もなかったようでほっとしていると今度はホワイトがゼオンの方を見た。

そしてホワイトはゼオンに言った。


「ねえ、一度ゼオン君に聞いてみたいことがあったんだけどいいかな?」


「…いいですけど。」


「ゼオン君ってさ、お姉さんいたりする?」


一瞬だけゼオンの表情が凍り付いた。すぐにいつもの無愛想な表情にもどったが、その一瞬の表情は妙にキラの頭に残った。


「いますよ。どうかしたんですか。」


いつもと変わらない冷静な声だった。動揺してる素振りすらない。

けれど、あの一瞬の時の表情はたしかに悲しげだった。それを聞いたホワイトの表情が急に明るくなった。


「あっ…やっぱり?それ本当?」


「本当ですけど。」


ホワイトの表情がさらに明るくなる。そして笑顔で言った。


「ありがとうっ!じゃあまたね!」


そしてニコニコしながらホワイトは行ってしまった。キラも手を振ってホワイトを見送った。

本当に明るい人だなと思う。明るくて優しくて、いい先輩だ。

ホワイトが過ぎ去った後、ふとキラがゼオンを見た時だった。ゼオンの様子がいつもと違うように見えた。キラは思わず言う。


「…どうしたの?」


「いつもと違う」感じはすぐに消えた。いつもの無表情のただのゼオンだった。

だが、あの一瞬はたしかにあった。どこか悲しそうに見えた。


「…別に、何でもない。」


ゼオンはキラから顔を背けてそう言った。何かを押し殺して隠しているようだった。




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