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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第1章:不思議な杖と逃亡者
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第1部:第3話

キラは現れた少女を見た。髪は金髪のショートカットで瞳は海のように澄んだ青色だ。背が高くスタイルも良い美少女だった。けれど少女の目は外見の綺麗さに不似合いなくらいに冷たかった。

少女は上品な足取りでこちらへ歩いてきてゼオンとティーナの方を見た。どうやら二人とは顔見知りのようだった。

ゼオンが少女に言う。


「お前もここにいたのか。」


「ええ。悪かったわね、追っ手と間違えて。さっき二人も見つけたからまたかと思って。」 


少女は静かにそう言った。するとそれを聞いたティーナが驚いて声をあげて言った。


「えー!こんな山奥までルルカのこと追ってきてたの!? ここ他国の領土じゃん! エンディルス国相当しつこいなー!」


ティーナはそう言ったが話を聞く限りじゃこのルルカという少女も逃亡者だ。

堂々と名前をバラされたルルカは少しムッとした表情を見せて言った。

ティーナはキラがゼオンに怒鳴ったことが相当気に入らないらしく、不機嫌そうにキラを睨みつけた。

どうやらルルカの名前をばらしたのはそのことの八つ当たりのようだ。

ティーナに対してルルカが何か言おうとしたところでゼオンが口を開いた。


「で、その二人の追っ手、どうしたんだ?」


「ああ、殺したわよ」


ルルカはさらりとそう言った。

今まで話がわからなくて黙りこくっていたキラだったが、ルルカの言葉にビクッと一瞬震えたのは言うまでもなかった。

これにはさすがにティーナも顔をしかめた。ゼオンが冷静に言った。


「お前は殺しすぎだ。」


「あら、貴方が甘いのよ。殺してしまう以上にいい口止めの方法なんてある?」


「殺しなんかして死体や血が残ったらお前が通ったと言っているようなものだ。わざわざ処理なんてしてる暇ないだろ? 忘却術でもかける方が楽だ。」


「忘却術なんて解かれたら終わりだわ。」


すると二人の間にティーナが入った。


「まあ、そこは色々技術があってですねえ……。」


なんだかその会話を聞いていて、キラは目の前にいる三人がとんでもない奴らだということがようやく理解できてきた。

きっと、この三人は今までキラが考えもしないような生活をしてきたのだろう。それこそ敵から逃げ続け、逃げ延びるためになら手段を選ばない日々を。

そうキラが思っているとルルカがキラたちの方を向いて言った。


「ところで、この二人はどなた?」


ルルカの振る舞いはどこか気品があるが、キラはさっきの発言を聞いてしまっため、警戒して一歩後ずさりした。


「そいつ、近くに村ってあるって聞いたのに教えてくれないんだよ! その上ゼオンに酷いこと言ったんだよ!許せないー!」


ティーナがキラを指差してそう言った。一体どれだけ根に持っているのだろうか。

キラは思わず言い返した。


「そっちが脅すからでしょうが!」


そう言ってにらみ合うティーナとキラを眺めているルルカに向かってリーゼが言った。


「あの……ルルカさんってひょっとして、エンディルス国の元王女様のルルカ・E・サラザーテさん……ですか?」


またもやリーゼに注目が集まった。

何のことだかわからないのでリーゼに聞くと、ルルカ・E・サラザーテは、5年前にエンディルス国で起こったクーデターで捕まり、牢に入れられたがその後逃げ出した王女様のことらしい。

どうもまたもや有名な逃亡者のようだ。

リーゼが賢い上に物知りなのは昔から知っていたが、キラはこの時それを改めて感じた。


「いいえ、違うわ…と言っても意味ないでしょうね。 ティーナに名前バラされたし。」


ルルカは慌てる様子もなくそう言った。だが、その目の奥はかなり冷たく光っていた。

キラは思わず震え上がる。正直逃げたい。けど逃げられない。

ルルカの素性がバレたところでゼオンが再び口を開いた。


「これでわかっただろ。俺たちは逃亡者だ。追っ手から逃げ切るためなら手段は選ばねえ。 素性がバレていた以上、お前らのことも見過ごすわけにはいかねえな。 村があるのかないのか言ってくれたら見過ごしてやってもいいけど。 ああ、ついでに道案内もしてくれ。」


ああ全く運が悪い。なんでこんな奴らとばったり会ってしまったんだろう。

キラは杖を突きつけながら冷たい紅の瞳を向けるゼオンを強く睨みつけた。

キラは舌をべーっと出しながら言った。


「あんたたちのために村への道案内なんて絶対やってやんないんだから!」


「ということは村はあるんだな。」


しまった。そう思ったときにはもう遅かった。このゼオンという奴、勘がいい。

そう言われようが、道案内だけはしてやるもんかと意地を張ってキラがそっぽを向いていると、ゼオンはそっちがその気ならとでも言うようにこう言った。


「別にわざわざお前に聞かなくてもいいんだよな。 こっちの気が弱い方に聞くか。」


するとくるりと向きを変えてリーゼの方を向いた。ギョッとしたキラは慌てて二人の間に入った。

内気なリーゼがこんな逃亡者3人なんかを前にしたら怯えて何も話せなくなることは目に見えている。

親友としてリーゼを放ってはおけなかった。それを狙っていたかのようにゼオンが言う。


「じゃ、道案内するんだな?」


ああ全く、くそ意地悪い奴。キラは口をとがらせてふてくされた。こうなったらもう道案内をしてやるしかなかったが、素直にいいよという気にもならなかった。

そう思ったとき、ふとゼオンの持っている杖が目に入った。

そして、少し考えた後、こう言った。


「この杖について、あんたたちが知ってること教えてよ。 そしたら道案内してあげる。」


3人は顔を見合わせたあと、ゼオンが言った。


「……わかった。」








お互いに納得したところで5人は村へと歩き出した。深い深い森の中、葉を踏みわけていく音が五つ聞こえる。

普通の人が歩けば数分もしないうちに右も左もわからなくなりそうな複数なこの森も、キラとリーゼは慣れているので、立ち止まることもなく進める。

大抵この森歩いている時に、早く抜けたくて仕方ない、などと思うことはまずないのだが、この日に限っては別だった。


「ねー、村まだなのー!? つかれたぁー!」


「うるさい。黙って歩けよ。」


「ほんと。貴方達よくそれで逃げてこれたわよね。」


どう考えてもこいつらのせいだ。キラは今自分が逃亡者三人組の道案内をしてるなんて信じられなかった。

一人はうるさくて残りの二人はとにかく雰囲気がとっつきにくい。こんな三人の道案内なんてとっとと終わらせたかった。

こうなった原因はなんだっただろう。それは間違いなく、姉のサラから受け取ったこの杖だった。


それを考えてキラは思い出した。三人にこの杖のことを聞かなくてはならない。


「そーだ、この杖について教えてくれるんでしょ? 早く教えてよ!」


それを聞くと、ゼオンは面倒くさそうに目をそむけ、ティーナは忘れてたと言わんばかりに「ああ!」と言って手を叩き、ルルカは話を聞いてすらいなかったようで、キラが何を言ったかティーナに聞いていた。

キラは、この三人の思考回路は地獄にでも繋がってるのではと思った。

キラが怒り三人を睨みつけているとゼオンはこう言った。


「とりあえず知ってることは話すけどな、俺たちも大したことは知らねえからな」


それを聞いた後、ルルカとティーナが説明を始める。


「とりあえず私達がわかっているのは、 その杖で魔法を使うと、普通の杖で使ったときの何倍もの威力が出るってことくらいよ。」


「でも、どの位威力が強くなるかはその時その時でまちまちなんだよねー。

 あんたが使ったときは結構威力出たほうだと思うな。」


二人がそう言うと、キラは続けてルルカにこう質問した。


「ルルカって言ったっけ? あんたさっき杖を弓矢にしてたよね? あんなこともできるもんなの?」


ルルカは一度キラの方を見てから質問に答える。


「できるわよ。 別に弓矢以外にも剣とか鎌とかにもね。 ペンダントやピアスにもできるから持ち運ぶのには便利よ。 まあ、形を変えて維持する分の魔力は使うんだけど。」


そこまで聞いたところでキラは質問をやめた。

杖の形を変える魔法はキラには使えないのであまり関係の無い話だったが、その程度のことなら使い方さえ気をつければこの杖もそこまで危険ではないだろう。

キラがそう思っていたところでゼオンが言った。


「一応言っておく。 その杖、人を暴走させることがあるから気をつけろ。」


暴走。ゼオンがそう言った瞬間、しんと辺りが一瞬静まり返った。

誕生日プレゼントで人が暴走するなんてキラは聞いてない。

どういうことかゼオンに聞こうとしてそちらをむいたが、聞けなかった。

表情は見えなかったが、ゼオンはたしかに先ほどとはどこか表情というか雰囲気が違った。

急に静かになり、何と言い出せばいいかわからなくてキラが困っていたその時、今まで何重にも重なり、行く手をはばんでいた木々の間から強い光が射し込んだ。

緑一面の世界からすがすがしい青空が顔を覗かせる。

それと共に、見慣れた小さく平和な村が遠くに広がっている様子が見えた。

その光景が見えると後ろにいる三人に向かってリーゼがおどおどしながら言った。


「えっと…その、あれが、私達が住んでるロアル村だよ.」

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