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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第4章:ある魔女の子の前奏曲
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第4章:第17話

オズが去った後のしばらくの沈黙は長かった。リラは閉まったドアを見つめながら何も言わない。

それからリラが疲れたようについたため息が重たかった。やがて、ようやくキラが勇気を出して尋ねた。


「あの、ちょっといい?ばーちゃんとオズって昔なんかあったりでもしたの?なんかオズにだけ厳しい気が…」


「…別に。もう過ぎたことだ。ただあいつのものの考え方が気に食わないもんでね…。」


リラは静かにそう言うと、居間の方に戻ろうとした。キラはリラを慌てて引き止めた。

まだリラに言わなくてはならないことがある。先ほど冷たい態度をとったことを謝らなくてはいけない。


「その…ばーちゃん、さっきはごめんなさい。ばーちゃんだって苦しかったのに、あたし被害者面していこと言って…」


リラは驚いた表情で振り返った。キラは申し訳なくて下を向いた。

リラは笑ったキラに言った。


「馬鹿だねえ。実際被害者だろう。私らがずっと騙していたわけなんだから。キラは謝る必要ないよ。」


リラの笑った顔を見てキラは少しほっとした。その後リラは何か思い出したような表情をしたかとおもうとキラに言った。


「…そういやキラ。リーゼちゃんたちのこと、いいのかい?」


キラはハッとした。リーゼとゼオンに対して先ほど強く怒鳴ってしまったことを思い出した。

あの時は二人に腹が立った。リーゼがキラの為だなんて言い訳をつけて嘘をついていたことに腹が立っていた。

取り繕うように嘘をつくくらいなら、側で慰めて励ましてほしかった。

ゼオンにも腹が立った。無関係のゼオンが他人の暗い過去に首を突っ込んできたことが許せなかった。

しかもキラが知らなかったことも全て知っていたから余計に。

けれど、今となっては話は違った。リーゼは本当に反省しているようだったし、ゼオンのことだってあの書類の内容を知った後だと一概には責められない気がする。


「んー…やっぱりこのままじゃ駄目だよね…。」


「だろうねぇ。」


「あたし、ゼオンたちのところ一回行ってくるよ。」


キラはそう言って玄関の戸を開けて外に飛び出していった。


「いってらっしゃい。」


暖かい声がした。



◇ ◇ ◇



キラは家を飛び出すと通りを駆け抜けて村の中央広場へと向かった。道がぬかるみ、いつもより走りにくかったがそれでも行くべき方向にただ走り抜けていく。

雨上がりの空気は決してやさしいものではなかったけれど、足を止める理由にはならない。

真っ昼間の中央広場は子供たちがたくさんいてとても賑やかだった。いつもと何も変わらない村の景色だった。

キラは広場に到着すると辺りをキョロキョロ見回した。中央広場からは村のあちこちへ道が伸びている。

ゼオンたちがどこに行ったかキラは全く知らない。二人ともまっすぐ家や寮に戻っただろうか。

けれどゼオンなんかはちゃっかり寄り道とかをしていそうな気がする。結局どこに行ったか想像がつかず、キラはがっくりと下を向いた。

その時、どこかから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「え、じゃあクルクルちゃんキラの家行ったの?」


それはティーナの声だった。キラは辺りを見回しながらティーナを探した。

すると、広場の出口あたりに派手な赤髪を見つけた。次に金髪と水色の髪も見つけた。

ティーナだけではなく、ルルカとリーゼもそこにいた。キラはすぐに三人のところへ走る。

最初にルルカが気づき、その後ティーナがキラに気づいて手を振った。

それにしても珍しいメンバーだなとキラは思った。こんなところでどうしたのだろう。

キラは三人の所まで走って言う。


「どうしたの?珍しい組み合わせだね?」


キラが尋ねるとティーナが言った。


「ああ、クルクルちゃんにゼオンどこ行ったか聞いてたとこ。

 でももう寮に帰っちゃったって。そういうあんたこそ寝込んでたんじゃなかったの?」


ティーナがそう言うとキラは気まずそうに目をそらした。リーゼも下を向く。そして小さな声で話し始めた。


「あの…キラ…」


「あ、いいよ、もう謝らなくて。」


キラは笑って言った。そして、キラはリーゼに頭を下げて言った。


「あたしこそ、怒鳴った上に蹴っちゃってごめん。辛かったのはあたしだけじゃなかったんだよね…。

 そのこと、全然わからなくてごめん…」


「ううん、いいよ。辛さに耐えきれなくて逃げた私が悪いの。

 …本当はリラさんがキラの記憶を封印したとき止めてあげればよかったんだよね。

 それでキラが元気になるまで、励ましてあげればよかったんだよね。」


リーゼはまだ悲しそうだった。やっぱりリーゼも苦しかったのだろう。

リーゼは見た目の割にしっかりしていて、その分思っていることを抱え込んでしまう人だと思うから。

そんなリーゼにキラはにっこり笑って言った。


「もういいよ、そんな顔しないで。これからは、もう一人で悩まないで。」


リーゼは一瞬目を見開いてキラを見たかと思うと急に泣きそうな表情になって下を向いてしまった。

キラは慌ててしまった。


「あれ、ちょっと…大丈夫?」


リーゼは首を振った。そしてにっこりと本当の笑顔で言った。


「…そうだね、ありがとう…。」


それを見たキラも笑った。そして少し前のようにキラとリーゼはまたお喋りをして笑い合った。

それを側で見ていたティーナが言った。


「ま、こっちはなんとかなったみたいだね。…それで、こっちは何か言うことないのかなあ?」


そう言ってティーナはルルカの方を見た。ルルカは少し言葉に詰まった様子でティーナを見た。

するとティーナはいたずらっぽく笑ったかと思うとキラの方を見て言った。


「キラぁ、ルルカが何か用あるってさー。」


キラはルルカを見た。

ルルカはティーナを睨みつけたがティーナは全く気にしていなかった。

するとルルカは少し困ったようにティーナを見た後、ため息をついてキラに言った。


「もう……悪かったわね、あんなことになって。

 言い訳にしかならないけど、ゼオンと違って、私オズがああなるように仕組んでたこと気づかなかったのよ…。」


「許してあげてよ、キラ。ルルカは無愛想だけど根っこは素直で可愛いお姫様だからさ。ちょっとお間抜けなね。」


ティーナの言葉を聞いたルルカがものすごい形相でティーナを睨んでいたがティーナは全く気にしていないようだった。

キラは笑いながらあっさり言った。


「まあ、いいよ。許してあげる。」


キラはそう言うとルルカは顔を上げたが、なぜかすぐに顔を背けた。

すねたり怒ったりしているというよりは、何か言いたそうな感じに見える。

するとルルカはキラに言った。


「…こんなことがあった直後に難なんだけど…一ついいかしら?」


「いいけど?」


「…その、貴女の御両親をウィゼートの国王が殺したって…本当?」


ルルカは珍しく不安そうにそう聞いてきた。ルルカのそんな表情なんて初めて見た。


どうしてそんなことを尋ねたのかはわからないが、ルルカにとってとても重要なことだということはわかる。

だが、真面目に答えようとしてもキラには答えられなかった。どうしても犯人が誰だかは思い出せなかった。キラは少し困ったように言った。


「…わかんない。私は犯人の顔は見なかったから…」


「…そう…。」


ルルカは少し下を向いた。両親を殺したのは誰か、少し考えなくてはいけないなと思った。

すると、ティーナがぼそりと言った。


「…ルルカはあっさり許すんだね。ゼオンには怒鳴ったみたいなのに。」


「ああ、あの時はちょっとカッとなっててさ…」


キラは苦笑した。ティーナはじっとキラの表情を見ていたが、急にため息をついたかと思うと言った。


「…まあ、いいんだけど。そういや騒動の元凶のオズはどこ行ったんだろね。報告した後に図書館出てったきり見てないけど……。」


「ああ、オズならさっき家に来たよ。騒動のことは謝ってくれたし、お姉ちゃん止めるのに協力もしてくれるって。」


それを聞いたティーナの表情が変わった。理由はわからないが先ほどより険しい表情だった。

いつも冗談ばかり言っている愉快な振る舞いからは想像つかないような表情で、何かまずいことでも言ったかなと少し不安になった。

ティーナはキラに言う。


「あんた…あいつのこと許したの…!?」


「え…?うん。そうだ、あたしゼオンにも用あるから行ってくるね。」


そう尋ねてきた訳は気にはなったが、キラはそう言って学校の方へと走り出そうとした。そのことよりもゼオンに謝るのが先かなと思って。

すると突然ティーナが低い声で言った。


「…あいつをあまり信用しないほうがいいよ。」


キラは驚いて足を止めた。ティーナのこんな声は初めて聞いた。


「…今回のことで確信した。あいつは他人のことなんてみんな駒だと思ってる。

 あたしらもあんたも、利用されてるんだよ。…それどころか、あいつの周りにいる小悪魔たちのことまで、あいつは駒としか思ってない気がする。」


キラは答えられなかった。オズが何を考えているのか。それは未だにわからない。

いつもと違うティーナが少し怖い。キラは振り向いてティーナを見た。途端にティーナはいつもの愉快な笑顔になった。


「以上っ、ちょっとした忠告でしたっ。じゃあ気をつけて行ってきてねーっ!」


ティーナは異論を受け付けないかのように笑って手を振っていた。キラは何も言えずに、学校の方に向かうしかなかった。

何だかティーナがちょっと怖い。その程度にしか思わなかった時点で、キラはまだまだキラのままだった。



キラが過ぎ去った後に、ルルカがティーナに言った。


「…貴女っていつもゼオンゼオンってうるさい割に、あの子がゼオンとよく一緒にいてもあまりうるさく言わないわよね。」


「だってっ、運命の女神様が将来あたしはゼオンとくっつく運命だから大丈夫って教えてくれてるんだもんっ!」


それを聞いたルルカとリーゼは呆れて顔を見合わせ、ため息をついた。

その時ティーナは二人に聞こえないくらいに小さな声で呟いた。


「…なんてね。……そんなのただのエゴだもの。それに……」





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