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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第4章:ある魔女の子の前奏曲
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第4章:第8話

ゼオンとルルカは早足でキラの家へと向かっていった。

雲行きは怪しく、風も強い。

急いだ方がいいだろう。

中央広場を通り、キラの家のある方角へと向かう。道は一本道なので比較的わかりやすい。

すると、突然ルルカが封筒を見ながらゼオンに言った。


「貴方、これが本当だと思う?」


「さあな。」


そう言うとルルカは少し下を向いて急に歩く速さを上げた。

今度はゼオンがルルカに聞いた。


「お前、妙に焦ってるな。」


「別に、そんなことないわよ。」


ルルカはそう言ったが、やはり歩く速さは変わらなかった。

おそらく何か気になることがあったのだろう。

ルルカが焦るとなると、その原因はきっとルルカがまだ王女だった頃のことと関係があることかもしれない。

まあどちらにしろ、急いだ方がいいのは確かだ。

その時、急に後ろから声が聞こえた。


「待って!」


ゼオンとルルカは止まり、面倒くさそうに振り返った。

そこにいたのは、おどおどしながらゼオンたちの方を見つめているリーゼの姿だった。

たまたまその場にいたのがゼオンにルルカといういかつい面々だったせいか、リーゼは困った様子ですぐには何も言い出さなかった。

だが、やがて小さな声で話し始めた。


「授業サボってどうしたの?

 先生怒ってたよ?」


「面倒くさかったんだ。後で謝りには行くよ。」


リーゼはまだ何か言いたそうに下を向いた。

厄介だな。ゼオンは少しだけそう思った。


「どこ行くの?」


リーゼが静かにそう尋ねた。

ゼオンは迷わず言った。


「キラの家だ。」


リーゼは困った顔をしてゼオンを見た。やはり気にいらないのだろう。

リーゼは馬鹿ではないからきっとゼオンがキラにあの話をしたりしないか警戒はしているはずだ。

けれど、ゼオンの方もここで引き下がる気はなかった。

少し考えてから、ゼオンはリーゼに言った。


「キラの婆さんに用があるんだがお前も行くか?」


リーゼは少し考えこんでから頷いた。

ルルカが何か言いたげにチラリとこちらを見たがゼオンは何も答えなかった。

そして、再びゼオンはキラの家へと歩いていった。

後ろからルルカとリーゼがついていく。

キラの家はもうすぐそこだった。



◇ ◇ ◇



キラの家までは10分かからずについた。田舎特有の木で作られた小さな家で、窓からは灯りが漏れている。

今にも笑い声が聞こえてきそうな、暖かみのある家だった。

考えてみればゼオンはキラの家に来るのは初めてだ。

あの馬鹿女らしい家だなとゼオンは思った。


そしてルルカが玄関のベルを鳴らした。

リンリンという可愛らしい音が鳴り響いてからしばらくすると、扉の向こうから誰かが歩いてくる音が聞こえた。

そして、ゆっくりと扉が開かれ、一人の老女が中から出てきた。

おそらくこの人がキラの祖母だろう。


「どちらさんだい?

 おや、昨日来た子じゃないか。ルルカちゃんだったかね。

 リーゼちゃんもか。どうしたんだい?」


リラはルルカとリーゼの顔を見てそう言った。

ルルカとゼオンは顔を見合わせた。

そしてゼオンが封筒を取り出し、ルルカがリラに言った。


「図書館の館長のオズさんに頼まれたことがあるんです。」


「…何だい?」


オズの名前が出てきた途端に少しリラの表情が険しくなった。

やはりオズとリラには何かありそうだなとゼオンは思った。

今度はゼオンがリラに言った。


「ちょっと聞きたいことがあるんですよ、色々と。

 少し長い話になるんですけど、いいですか?」


そう言うと、固い表情を少しも緩めずにリラは目をそらした。

オズの名前が出てきた時点できっと嫌な予感はしているのだろう。

オズも巧いなとゼオンは思った。

これが相手がオズならリラは怒鳴って追い返すこともできるが、今回はルルカやゼオンなどあまり馴染みのない人物が相手なものだからきついことを言いづらいのだろう。

キラの親友のリーゼがいるとなるとなおさらだ。

そして、しばらく間が相手からリラが言った。


「…わかった。話くらいは聞くよ。ほら、中に入りな。」


そう言われ、ゼオンたち三人はキラの家の中へと入っていった。



◇ ◇ ◇



キラはいらいらしながら窓の外を見ていた。

休み時間にゼオンがルルカに呼ばれてからゼオンが帰ってこない。

授業をサボって一体何をしているのだろう。

ルルカがどうしてやってきたのか気になっていたのに、呼ばれた本人が戻ってこないのでは話にならない。

大体ルルカもルルカだ。一体何を言いに来たのだろう。

たいした内容でないなら放課後に言えばいいのにとキラは思った。

機嫌悪そうな顔をしているキラをロイドが少し困った様子で見ていた。

そんなロイドにキラは言った。


「あのさ、あいつ一体どこ行ったの?」


「そう言われても、俺は知らないよ。」


ロイドは困った顔のままそう言うだけだった。

キラは怒った口調で言った。


「だってルルカが来たって言ってたのロイドじゃん!」


「しょうがないだろ、俺は話の内容知らないよ。」


「もー、後で会ったら蹴り飛ばしてやる!」


「…当たったことないくせに。」


それを聞いたキラは怒ってロイドをぼかぼか殴った。本当にゼオンはどこに行ったのだろう。

あんなほいほい授業をサボるくせに魔法も勉強もキラよりできているなんて何だか悔しい。

再び頬を膨らませてふくれていると、廊下の方から何やら騒がしい声が聞こえてきた。

片方はペルシアの声だった。


「ちょっと、勝手に入ったりしたら困りますのよ!

 生徒じゃない人は許可なく入ったりしてはいけませんわ!

 ああもう、どこ行きますの?」


「もううるさいなぁ!

 いいじゃん、ちょっとくらい!」


何だか嫌な予感がした。

こんな無茶苦茶なことをするのは一人しかいない。

そう思った時、大袈裟な音と共に扉が開き、やかましい声が聞こえてきた。


「容疑者キラ・ルピアぁぁ!

 あんたは完全に包囲されている!

 今すぐゼオンの居場所を吐けぇ!」


そこにいたのはデッキブラシ片手に仁王立ちしているティーナの姿だった。

あまりの馬鹿馬鹿しさにキラはため息をついた。

登場のセリフといい、デッキブラシといい、一体どこからつっこめというのだろう。

予想が当たってここまで悲しいことはなかなかない。

もうあまりの馬鹿馬鹿しさのせいでキラはさっきまで自分が怒っていたことも忘れていた。

そんなキラの感情なんてお構いなしに、ティーナはキラのとこまでやってきてデッキブラシを突きつけ、キラを睨みながら言った。


「ほら、さっさとゼオンの居場所を吐け!美味しいカツ丼が欲しくないのか!?」


「そんなこと言ったってあたしも知らないよ!ティーナのとこにはいないの?」


「いないよ!

 もう、授業が終わってよーうやくゼオンに会えるって思って、心をときめかせながらやってきたっていうのにぃ!

 ほらぁ、ゼオンはどこなの!」


「だから知らないってば!

 休み時間にルルカがやってきた時からあいつ行方不明なんだよ!」


それを聞いた途端、ティーナは急におとなしくなった。

見たところティーナもルルカがなぜやってきたのかは知らないようだ。

そして、首を傾げながらキラに言った。


「ルルカが?休み時間に?確かに今日は見かけなかったけど…

 何でルルカが来たの?」


「知らないよ。知ってたらとっくに言ってるってば。」


キラとティーナは二人揃って首を傾げたがやはり答えは出なかった。

ただ、ルルカが来たときからいなくなったわけだし、ルルカと一緒に出ていった可能性は高いだろう。

するとティーナは今にも背後から炎が出てきそうな雰囲気で言った。


「ルルカぁ…!ゼオンを勝手に連れさらうなんてどういう神経してんのさ!」


「や、さらってはいないと思うけど。」


キラがすかさず言った。

すると、突然ロイドが言った。


「そういえば、リーゼもいないよね。帰ったのかな。」


「リーゼなら、ゼオンが急にいなくなったのが心配だから探しに行くって言ってましたわよ?」


「え、何それ。」


キラが声をあげた。

どうしてキラに一言言ってくれなかったのだろう。キラはさらにふてくされた。

キラがちょっとふくれているとロイドが言った。


「キラさぁ、今日はもう帰ったら?ゼオンもさすがに夜には帰ってくるよ。

 それで、明日とっちめてやればいいじゃん。」


キラは不満げに口を尖らせたが返す言葉はなかった。

たしかにこのままこけで怒っていてもどうしようもない。

帰りが遅くなるとリラも怒るだろう。


「…しょうがないなあ。」


そう言ってしぶしぶキラは立ち上がって鞄を持った。

ロイドとペルシアはようやく収まったとでも言うようにため息をついた。

キラは廊下に出ようと教室の扉の方に向かった。

後ろからティーナもついて行く。

そして扉を開いて廊下に出ようとした時、誰かとぶつかりそうになり、キラは立ち止まった。


「すいません……あ!」


キラはぶつかりそうになった相手の顔を見て声をあげた。

赤い髪の少し冷たそうな雰囲気の少女がこちらを見ている。

その相手は一学年上のショコラ・ブラックだった。


「あんた…この前の怪力魔女…」


「…キラ・ルピアです…

 この前は魔物から助けてくれてありがとうございました。」


「え、ああ…」


ブラックはそう曖昧な返事をした。

すると、後ろから急にティーナがキラを押しのけてやってきて、身を乗り出しながらブラックに聞いた。


「ちょっとあんたさ、ゼオン見なかった!?」


「ティーナやめなよ…」


キラがそう言ったがティーナは全くやめない。

ブラックは少し間が空いてからこう答えた。


「そういや見たよ。

 中央広場のあたりで。金髪の子と水色の髪の子と一緒だった。

 あんたの家の方に行ってた気がするけど。」


「え、マジで!?」


それを聞いてキラも身を乗り出した。

ブラックは頷いた。

キラはティーナと顔を見合わせた。

途端にさっきよりテンションが高くなっていくのがわかった。


「よっし行くよ、ティーナぁ!

 あいつ話聞くだけ聞くとか言ったくせにサボりやがって!

 今日こそは絶対蹴っ飛ばしてやるんだから!」


「やっとゼオンに会えるぅ!今すぐ行くからね!」


そう言ってキラとティーナはバタバタと騒がしい音をたててあっという間に廊下から消え去ってしまった。

そして、廊下には唖然としているブラックと、呆れてものも言えない様子のロイドとペルシアが取り残された。

二人が過ぎ去った後の廊下はあまりに静かすぎて、虚しい感じだった。

ロイドとペルシアはため息をつきながら言った。


「二人共、感情ベクトルが正反対でしたわ。」


「キラって、さっきまで怒っててもすぐ忘れるよね。」


そう言って、二人はまたため息をついた。




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