表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第4章:ある魔女の子の前奏曲
48/169

第4章:第6話

ゼオンは階段を降り、急いで昇降口まで行った。

外はどんより曇っていて、昼間なのに校舎内の方が明るいくらいだ。

ルルカはそんな校舎の入り口の外で腕を組みながらゼオンを待っていた。

ティーナは一緒にはいない。視線をこれっぽっちも動かさずに黙って待っているところを見ると、やはり一人で来たようだった。

ゼオンは突然ルルカが一人でここにやってきた理由を知らなかったが、とりあえずルルカのところまで歩いていった。

ルルカは待ちくたびれたのか、ゼオンを見つけると少し疲れた様子で言った。


「遅いわ。」


「悪かったな。それで、突然どうした?何かあったのか?」


ゼオンがそう言うとルルカはなぜか辺りをきょろきょろ見回した。

なぜ急にそんなことをしだしたのかはわからなかったが、どうやら周囲に人がいないか警戒しているようだということはわかった。

そして、周囲に誰もいないことを確認すると、ルルカはゼオンに聞いた。


「ねえ、貴方は授業をサボる程度の度胸は持ち合わせているわよね?」


それを聞いたゼオンはすぐには何も言わなかった。

そして少し間が空いてから答えた。


「…それはつまり授業をサボれってことか?」


「まあ、そんなところね。」


ルルカはあっさりそう答えた。

ルルカがこんな中途半端にやってきて授業をサボれと言うとは思わなかった。

だが意地でも断って授業に出ようという気もなかった。

ルルカがこういうことを言い出すのには何か理由があるのだろう。


「わかった。それで、これからどうするんだ?」


ゼオンがそう言うと、ルルカは歩き出して校門の方へと向かっていった。

続いてゼオンもついて行く。ルルカがゼオンに言った。


「ちょっと図書館までついてきてほしいのよ。

 できればキラに見つからずにね。」


あいつは隠し事されてばっかりだなと、その時ゼオンは思った。

キラがついてこなかった理由がこれでわかった。

おそらくロイドにゼオン一人で来るように言ったのだろう。

結局、キラ自身のことなのにキラだけ置いてけぼりだ。

自分のことすらよくわからない人と、自分どころか他人のことまで嫌でもわかる人、どちらが幸せだろうなとふと思った。

ルルカは小走りで学校を抜け出して図書館へと向かっていった。

何かあったのかは知らないが、どうもルルカは少し急いでいるらしかった。


「何があった?あの馬鹿に知られたくないことでもあったのか?」


すると、ルルカはゼオンに静かに言った。


「…キラの杖の出どころ。気にならない?」


ゼオンの足がピタリと止まった。

確かに気になってはいたことだった。

あんな危険な杖、姉からのプレゼントだったとしてもそうでなかったとしても、何の理由もなしにキラの家にやってくるのはどう考えてもおかしい気がする。

そこのところに何か理由がありそうだとは前々から思っていた。

ルルカは歩きながらゼオンに言った。


「私に一つ、仮説があるの。」


そう言ってルルカは早歩きで図書館へと向かっていった。

ゼオンも何も言わずにルルカについていった。


◇ ◇ ◇



ドアの木が軋みながら開く音が広い図書館に響き渡った。

心なしか図書館の空気も今日の天気のよいに湿っている気がする。

二人は無言で図書館の中へ入っていった。

やかましい関西弁が聞こえてこないのを見ると、今はオズは留守なのかもしれない。

奥に入っていくと、中にはレティタとシャドウと、あとはセイラしかいない。

レティタとシャドウはカウンターの周辺で遊んでいて、セイラは黙って椅子に座り、呑気にジュースを飲んでいるだけだ。

オズとルイーネの姿は見あたらなかった。

二人の姿を見つけたセイラがクスクス笑いながら言った。


「こんにちは、二人とも呑気にサボりですか?」


「サボりはこいつだけよ。私は関係ないわ。」


ルルカはぴしゃりとそう言った。

自分で連れ出しておきながらよく言うなとゼオンは思った。

するとルルカがセイラに聞いた。


「今日はオズはいないのかしら?」


「数時間前に隣町に買い物に行きましたよ。

 天気もよくないことですし、そろそろ帰ってくると思いますが。」


するとルルカは疑わしげに言った。


「…本当?」


「本当のつもりですが信じていただけないのなら結構ですよ。

 さすが度々人間不信と言われるだけのことはありますね。」


「ムカつくわね…

 まあ、オズがいないなら好都合だわ。」


ルルカは安心した様子だった。

その理由はゼオンもわかる。

ゼオンたちがキラの家のことについてこそこそ嗅ぎ回っていると知ったらひょっとするとオズはよく思わないかもしれない。

オズもこの村の人だからリーゼがゼオンに話したことについてはきっと知っているだろうし、オズはキラに対しては少し甘いところがある。

ルルカはゼオンに言った。


「ちょっと待っててちょうだい。

 私、ちょっと本を取ってくるから。」


そう言うとルルカは図書館のさらに奥の方へ行ってしまった。

一人取り残されたゼオンはぐるりと図書館内を見回した。

部屋の中は巨大な木製の本棚とアンティーク調のインテリアが並んでいる。

やっぱり関西弁とはこれっぽっちも合ってないなとゼオンは思った。

ゼオンは後ろの方を見てみた。

あるのはカウンターと小さめの机だけだ。

机の上にはオズの私物らしきものがたくさん無造作に置かれていて、正直言って整理整頓できているとは言えなかった。

あるのはたくさんの書類と、飲みかけの紅茶のカップと、何かの薬がいくつかと、あとは数冊の本だった。

ゼオンはその本を手に取ってみた。

タイトルや中身を見たところ、どうやら神話の本のようだ。

他の本も神話やそれに関連する内容の本だった。

次に机の上に置いてある薬が気になって、手に取ろうとすると、後ろから声がした。


「おい、勝手にいじったらオズに怒られるぞ。」


シャドウの声だった。

シャドウは少し怒った顔をしながらこちらを見ている。


「ああ、悪かったな。」


ゼオンがそう言うと、シャドウはやれやれと言った表情でレティタのところに戻っていった。

ちょうどその時ルルカが戻ってきた。

分厚くて重たそうな歴史書を抱えながらゼオンを呼んでいる。

なぜ急に歴史書を持ってきたのか不思議に思いながらもゼオンはルルカのところに行った。

ゼオンはルルカに聞いた。


「何で急に歴史書なんだ?」


するとルルカはシャドウとレティタに聞こえないように小声で話し始めた。


「貴方、一応貴族出身ならウィゼートの歴史は教わったわよね?」


「ああ、徹底的に叩き込まれたな。」


「『ウィゼート内戦』って知ってるかしら?」


ゼオンは頷いた。

ウィゼート内戦は50年前にこのウィゼート国王家の跡取り問題をきっかけに始まった内戦のことだ。

今はもう内戦は終わっているし、今はその時跡取りに決まった人の孫が国を治めているが、この国の歴史を習うときには必ず出てくる内戦の名前だ。

だが、キラの杖の出どころの話をしていたはずなのになぜ急にその内戦の話が出てきたのかわからない。

ゼオンはルルカに聞く。


「何で急に内戦の話が出てくるんだ?」


すると、ルルカはこう話し始めた。


「…あくまで推測の話だけどね。

 ウィゼート内戦が50年前に起こった争いだってことは知ってるわよね?

 当時の王の跡取りをめぐって、王様の子供の兄弟が争いを始めたのよ。

 結局兄の方が後を継ぐことになったんだけど、弟は納得がいかなくて、自分の家臣たちや兵士を連れて、ウィゼート東側のスカーレスタって街の城に立てこもったわけ。

 それで東西に別れて内戦が始まったわけ。

 けどその内戦中、東側の拠点だったスカーレスタの近くにあるブランって街を中心に謎の大爆発が起こったの。

 ウィゼートの国土の三分の一が巻き込まれるくらいのね。

 結局その爆発に巻き込まれて東側は壊滅、西側が勝利したってわけ。」


「で、その話と杖がどう関係するんだ?」


「東陣営はね、王城から抜け出しての城に立てこもるときにあるものを持ち出したのよ。

 それが、代々ウィゼートの王家に伝わる杖だったの。

 先に黄色い宝石がついていて、普段の数倍近い威力の魔法が使える杖よ。」


その杖が何なのかはゼオンもすぐに想像がついた。

そんな杖、ゼオンが知る中じゃ一つしかない。


「まさか、その杖ってのは…」


「多分キラの杖のことだと思うわよ。

 まあ、推測だけどね。」


ルルカは冷静にそう言った。

あの杖が内戦の時に持ち出された杖だとしたら、一つ疑問がある。


「だとしたら、どうしてそんな杖があいつのとこに…」


「…それなんだけどね。」


ルルカはそう言うと歴史書を開き、「ウィゼート内戦」についてという項目を開いた。

そこには内戦の詳しい内容や、両陣営の紋章や、内乱の起こった地域の地図などが書いてあった。


「その時負けた東側陣営の人々はほとんどが爆発に巻き込まれて死亡したんだけど、跡継ぎ争いしてた東側のトップの妹が行方不明になっているのよ。

 秘宝の杖もなくなっていたらしいわ。

 ちなみにその人の名前はアルフェリラ・エスペレン。」


そう言ってから、ルルカは両陣営の紋章の部分を見て、東側陣営の紋章を指差した。

魔法陣のような模様と黒い狼が描かれた紋章だった。

ルルカはそれを指差しながら言った。


「これと同じ紋章のついたペンダントがキラの家にあったわ。

 あの子のおばあさんのなんですって。」


ルルカの目を見て、ゼオンはルルカが何を言いたいのかすぐにわかった。

内乱が終わった今、そんな紋章のついたペンダントをとっておく意味はないし、内戦と無関係なこの山奥の村の家にそんなものがあるのも不自然だ。

けれどそれはキラの家にはあった。

キラがなぜあの杖を誕生日にもらったかは、キラの祖母が、姉からのプレゼントを装ってキラに渡したと考えれば、辻褄が合う。


「…つまり、あいつの婆さんはその内戦で行方不明になったアルフェリラ・エスペレンかもしれないってことか?」


ルルカは静かに頷いて「推測だけどね。」と付け足した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ