第4章:第2話
キラは急いで家に向かった。
今日は両親の命日なので墓参りに行かなきゃいけない。
キラは学校を出るとすぐに家までの道を駆け抜けていった。
そしてドアを開けると、中からリラが出てきた。
「ただいま!」
「おや、おかえり。今、お友達が来てるよ。」
リラはキラにそう言った。
キラは首をかしげた。
今日は墓参りに行くので友達なんて呼んではいない。
キラの家に来ても今日は遊べないのに一体誰が来たのだろう。
キラは不思議に思って居間に向かった。
「やっほーい!遅かったねえ!」
居間の戸を開けた途端、やたらとテンションの高い声が聞こえてきた。
目の前にはクッキーを頬張りながらニコニコしているティーナがいる。
キラの口がへの字に曲がった。キラはテーブルの方を見た。
そこではルルカがのんびり椅子に座ってコーヒーを飲んでいた。テーブルにはリラが焼いたクッキーが置いてある。
キラは呆れた顔でティーナに聞いた。
「…何してんの?」
「何って美味しいクッキーをありがたく頂いてるに決まってるじゃないか!」
ティーナは当たり前のようにそう言った。
キラはさらに呆れた。
「大体、呼んでもいないのに何で家に勝手に上がってるの?」
「そりゃあ暇だったからだよ!」
キラはまた呆れた。
するとルルカがキラには目も向けずに言った。
「悪いわね。ティーナが暇だってうるさかったのよ。」
どう見たってルルカはこれっぽっちも悪いとは思っていないようだった。
相変わらず二人とも自分勝手だなとキラは思った。
その時リラが居間に入ってきた。
「ほら、キラ。墓参り、行くんだろう?
花、持ってきたよ。」
リラは手に小さな花束を持ってキラのところに来るとそれをキラに手渡した。
その時になってキラはようやく本来の目的を思い出した。
キラはそれを受け取るとすぐさま玄関へ飛び出そうとした。
だがキラが玄関へ行く前にリラが言った。
「こら、ちょっと待ちな。
一人であんな森の奥まで行くのは危ないだろう。
ちょっと待ってなさい。もう少ししてやることが終わったら私も一緒に行くから。」
キラは不満げに口を尖らせた。
待っているのなんて面倒くさい。
薬草を取りに行かせる時は一人でも行かせるくせにとキラは思った。
キラが文句を言おうとした時、玄関のベルが鳴った。
「おや、誰だろうねぇ…」
リラはすぐに玄関に行ってしまい、結局文句は言えなかった。
それを側で眺めていたルルカがキラに聞いた。
「今日は何かあるのかしら?」
「今日はお父さんとお母さんの命日なんだ。」
キラは少し寂しそうに言った。
ルルカは「ふぅん。」と言って紅茶を飲みながら部屋を見回した。
すると、ルルカの視点が棚のところで止まった。
そして、ルルカはあるものを指差して尋ねた。
「…あれ、誰の?」
それは何かの魔法陣に似た紋章のついたペンダントだった。
銀製だがとても古いものでところどころ黒く錆びている。
棚の上に置きっぱなしになっていた。
「ばあちゃんのだよ。あたしアクセサリーとかつけないし。」
キラがそう言うとルルカは無表情のまま黙り込んで何も言わなかった。
理由はわからない。ただ何か重要な物でも見つけたようにじっとそのペンダントを見つめていた。
どうしたんだろうとキラが思った時だった。
突然玄関の方から板を無理矢理突き破ったような轟音が聞こえてきた。
「…何?」
キラたち三人は急いで玄関に行った。
そこには仁王立ちをしているリラと、少し青ざめた表情のオズがいた。
そしてリラとオズの間には玄関のドアの板が倒れていて、ちょうどオズの顔あたりの高さの部分にぽっかり穴が空いていた。
キラはため息をついた。何があったのかはなんとなくわかった。
きっとリラがオズを殴ろうとして、それを避けようとオズがとっさにドアを閉めたら板に穴が空き、ドアの蝶番が壊れて板が倒れたのだろう。
リラがオズに怒鳴った。
「ほら見ろ、あんたが避けたせいで家のドアが壊れたじゃないか、どうしてくれるんだい!」
「知るかアホ、お前が勝手に壊したんやろ!」
「あんたがおとなしく殴られてたら家のドアは壊れなかったんじゃないか。」
「そんな好きで殴られるやつがおるか!そんで話は…」
「あんたに言うことなんて何もないよ、とっとと帰んな!」
二人とも怒鳴っている。
何かもめているようだが一体どういう話なのか全くわからなかった。
オズは困った様子でリラに色々と言っていた。オズの困り顔なんてレアすぎる。
オズがリラに何か頼んでいるがリラがそれを断っているということはなんとなくわかった。
その時リラがキラに気づいた。
「おや、キラかい。」
するとリラはオズの方を見ながら急にこう言った。
「そうだあんた。キラがこれからミラとイクスさんの墓参りに行くからついて行ってやっておくれ。」
「は?俺、今行ってきたとこなんやけど。」
「それじゃあキラ、気をつけて行ってくるんだよ。」
「おい、あんた聞いとるか?」
「おや、何か言ったかい?近頃耳が遠くてねえ…」
「…絶対わざとやろ。」
リラはオズの言うことを完全に無視して話を進めていた。
今、キラはオズの押しつけ癖がどこから来たのかわかった気がした。
オズがリラのことが苦手だというのも納得だ。だがどうしてリラがオズを嫌っているのかキラにはわからなかった。
キラがなだめるようにしてリラに言った。
「いいよ、ばあちゃん。あたし一人で行け…」
「キラなんかが一人で行ったら危ないだろ、あんな森。
おとなしくこいつと行ってきな。」
「…薬草は一人で取りに行かせるくせに。」
リラはキラの言葉を見事にスルーした。
何故だかわからないがリラはいつも墓参りは一人で行かせてはくれない。
もう15歳なんだからわざわざついて行ってもらわなくても一人で行けるのになとキラは思った。
オズを指差して言った。
「いいかい、キラに怪我とかさせるんじゃないよ。
途中でほっぽりだしたりしたらしょうちしないからね!」
「そんな言うならお前が行ったらええやろ。」
「うるさいね、関西弁のくせに。
全く、近頃の連中は年寄りに対する思いやりってものはないのかねえ…。」
「お前に思いやりとか言われたないわ…。」
キラたちは呆然としてそれを眺めているしかなかった。
ティーナとルルカもぽかんとしてその様子を見ていた。オズにキラのお守りを押しつけるだなんて、こんな我の強い婆さん見たこと無い。
そんな口論がしばらく続いて、ようやくオズが諦めた。
「あーくそっ、しゃーないなぁ…」
しぶしぶオズはそう言った。
オズがおとなしく引き受けるのは珍しいなとキラは思った。
オズはため息をついてからキラに言った。
「ほな、キラ、行こか。おい、ババァ。墓参り連れて行ったらええんやな?」
「そうだよ。じゃ、キラ、行ってらっしゃい。」
キラは苦笑いしながらリラに手を振り、オズと一緒に歩いていった。
二人の姿が見えなくなった後、リラとオズの口論からキラとオズが歩いていくまでを今まで黙って見ていたルルカがティーナに言った。
「私たちもそろそろ行きましょ。」
ルルカがそう言うとティーナは不満げに言った。
「えー何で?どうせ暇だしもっと居ようよ。」
だがルルカは聞かなかった。
ルルカは冷たくティーナに言った。
「…暇じゃなくなったから行くのよ。
まあ、貴女が一人であつかましくここに居座るって言うなら別に止めないわよ。
私は一人で行くわ。」
「あーそんなぁ、ルルカ待ってよお!」
「それじゃ、お邪魔しました。」
ルルカはリラにお辞儀をして、早足で家から出ていった。
ティーナはルルカを慌てて追いかけていった。
ティーナは走ってルルカに追いつくと少し不思議そうに言った。
「どうしたのそんなに急いで。どこ行くの?」
ルルカはティーナを見もせずに言った。
「図書館。」
ルルカはそう言ってかなり急いで歩いていった。