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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第3章:少女セイラ
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第3章:第17話

ゼオンは物音を立てないように素早く先ほどの場所の近くまで走っていった。

オズがシャドウやレティタまで追い払って話をするのは珍しい。

それにオズがセイラがこの村に留まるまると言った時、ゼオンは思ったのだ。

オズも本当は以前セイラと会ったことがあるのではないかと。

ゼオンが走っていくと森の中にしてはやけに明るく、木が少ない広々としたところが見えてきた。

そして、そこにまだオズとセイラの姿がいるのがうっすら見えた。

ゼオンは素早く近くの木の影に隠れた。

二人はしばらく黙っていたが、やがてセイラの方から沈黙を破った。


「それで、話って何です?」


オズはいつもより真剣な口調で静かに言った。


「いい加減そんなわざとらしい敬語やめたらどうや?」


冷たい風が辺りの木々の葉を揺らす。オズは薄笑いを浮かべているが目だけが鋭い。

しばらく沈黙が流れた。とても静かだった。

セイラが「やっとか。」とでも言うように鼻で笑った。

そして、先ほどとは明らかに違う口調で言った。


「なんだ、覚えていたのか。

 お前があまりに私の正体を気にするものだから私のことはもう忘れてしまったのかと思った。」


オズは鋭い目つきのままセイラを見て言った。


「あまりにお前らしない口調やったから思い出すのに時間かかったんやけどな。」


「そんな格好のくせにそんな変な関西弁使っている奴にらしくない口調だなんて言われたくはない。

 おまけに私を忘れかけていたとはな。お前の記憶力はどうなっているんだ?」


「しゃあないやろ。あんだけ昔の話やで。お前の記憶力が良すぎるんねん。

 それに俺はお前の顔しか知らへんかったしな。セイラって名前も昨日初めて知ったくらいや。」


オズとセイラは元から仲が良くなかったということはすぐにわかった。

さっきセイラとティーナが話していた時とは明らかに違う、冷たい空気だった。

敵を目の前にして相手の出方を伺っているようなそんな感じだ。

ゼオンは息を潜めたまま、そのまま隠れ続けて耳をすませた。

するとオズが言った。


「キラとルルカの名前、よう知っとったな。」


「まあ、そういうものだからな。」


「知るはずの無いことを知っとる…昔からそうやったな。

 …けど例外もあるみたいやな?」


セイラが不愉快そうに黙り込んだ。対してオズはとても愉快そうな顔をして言う。


「あのゲームの話や、レティタとシャドウの動きはお前は完全に読んどったみたいやけど、ルイーネの動きはわからんかったみたいやな。」


「そりゃあそうだ。

 私だって何もかもがわかるわけではない。」


「けど、そのおかげで少しはお前のからくりの正体は見えてきたで。」


セイラは少しムッとした。

そして、少しだけ怒った様子で言った。


「それで、話は何だ?話があると言い出したのはお前だろう。」


「それもそうやな。悪い、話がそれた。」


オズの目が急に恐くなった。

それは、図書館内で、セイラの言う『あの人』の話題が出てきた時と同じ目だった。


「あいつはどこや。どこでどうしとる?お前なら知ってるはずやろ。」


オズの言う「あいつ」とは恐らくセイラの言っていた「あの人」のことだろう。確かな証拠など無くてもすぐわかる。

セイラはため息をついた。


「知らないと言っただろう。大体私も…」


「嘘つけ!」


その途端、突然轟音と共に恐ろしいくらいの強い風が吹き荒れ、何百枚もの木の葉が一斉に吹き飛ばされた。中には枝ごと吹き飛ばされたものもあった。

明らかにただの突風ではない。何らかの魔法の力が作用したとしか思えない力だった。

相当本気らしい…そう思いながらゼオンは微動だにせず耳をすまし続けた。

辺りはすっかり気まずい雰囲気に包まれてしまった。

オズが怒鳴るのを見るのは初めてだ。よほどその人物は重要なのだろう。

オズは突風が吹いたのを見て急に冷静になり、何も言わなくなった。その表情はどこか悲しそうだった。


「相変わらず怖い奴だな。

 言っておくが私はあいつの居場所は本当に知らない。お前が期待しているようにあいつの「お使い」に来たわけでもない。

 …もういいだろう?私はそろそろ村に戻る。」


セイラは少し寂しそうな顔でそう言った。

とても聞いていて理解できる話ではなかったが、話題になっている人物が二人にとってどれほど重要な人物なのかは理解できた。

きっとセイラがこの村にいられるようにしたのもその人物についての情報を聞き出すためだろう。

オズがゼオンたちをわざわざ村に留めさせたのもその人物と何か関係があるのかもしれないとゼオンは思った。

どうやら話は終わり、二人ともそろそろ村に戻るようだった。

ゼオンは二人に見つからないよう足音をたてずにそこを離れると静かに村へと戻っていった。

暗い暗い森が、何かを隠すように辺りを覆っていった。

ゼオンがその場を離れた直後、ゼオンは気がつかなかったがセイラがオズに言った。


「それにしても、お前は運が悪いな。」


「酷い奴やな、昔っからそればっかり言うて。一度くらい神様も驚くくらいの強運とでも言う気ないんか。」


「お前じゃあるまいしそんな胡散臭いことが言えるか。」


「…で、どうした?」


オズがそう聞くと、セイラは先ほどゼオンが隠れていた木の影の方を見て言った。


「多分私だから気づいたんだろうが…あのゼオンとかいう奴、ずっと私たちの話を盗み聞きしていた。」


「はぁ、気がつかんかったわ。あいつも色々鋭いな。」


「お前がいつもくらい冷静だったら気づいたかもしれない。

 どっちにしても、あいつは少し気をつける必要がありそうだな。

 あいつがこの村に居るのは偶然じゃなさそうだし…。」


セイラはそう言うとオズを置いて一人先に村に戻っていった。

オズも続けてセイラの後をついていった。


時は刻一刻と過ぎていく。平穏は終わりを告げ、夜がいよいよやってこようとしている。

そして、歯車は回り始めた。






これで3章終了になります。ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。

次の章からは少々雰囲気が変わるかと思います。

まだまだ先は長いですが、お付き合いいただけるとうれしいです。

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