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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第3章:少女セイラ
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第3章:第16話

キラは唖然とした顔でその竜巻を見ていた。

周りに二人がいないところを見るとどう考えても竜巻に巻き込まれたとしか考えられない。

そしてキラはその表情のまま下にいるティーナに視線を下ろした。後ろ姿で表情はよく見えなかった。

やがて竜巻が消えはじめ、風も弱くなった。キラは急いでティーナのところに降りていった。

キラが地面に降りるとティーナはくるりと振り返ってさも機嫌悪そうに怒鳴った。


「ちょっと!あたしが何回も呼んでるのに無視とかどういうわけ!?」


「あはは、ごめん。だってそれどころじゃなかったんだもん…」


キラは苦笑してそう言った。

その時、キラは何かが二つ落ちてくることに気がついた。

片方は極端に小さく、もう片方は十歳前後の子供。間違いなくルイーネとセイラだった。

セイラはひどい速さで落ちてきたが気絶はしていなかったようで、着々直前に風の魔法で落下の勢いを弱めると、体勢を立て直して静かに着地した。

着地したセイラにキラは少し心配そうに言った。


「大丈夫?」


「ちょこまか逃げ回ってただけの人に心配される義理はありません。

 よかったですね。魔法が使えなかったおかげで巻き込まれなくて。」


セイラは相変わらずの皮肉っぽい口調でそう言った。

キラだからそこまで怒りはしないがこれがルイーネあたりが相手だったら大変なことになっているだろうなとキラは思った。

その時やっとルイーネのことを思い出した。ルイーネは大丈夫だろうか。

キラはあたりをきょろきょろ見回したが、ルイーネの小ささのせいもあってかどこにも見当たらない。

すると、キラはティーナがいつの間にか大きな木の近くにいることに気がついた。

キラはティーナのところまで行ってみた。


「えいえいこのっ!

 よくもあたしを無視したね。起きろこらぁ!」


ティーナは気絶したルイーネを手のひらに乗せて頬をつついていた。キラは呆れてため息をついた。

これはもうゲームは中断だなと思った。

するとセイラがティーナのところまでやってきて言った。


「そんなにつついたら逆に起きませんよ。」


その声にティーナは振り向いた。視線の先にはセイラが居る。初対面ではないな…キラは見ていてそう感じた。

一瞬だけティーナが下を向く。そんなティーナをキラは初めて見た。

それから急にティーナは笑顔になって旧友と話すような調子で話し始めた。


「よっ、久しぶり。」


セイラは少し驚いたような顔をした。そして懐かしいものでも見るように答えた。


「お久しぶりです。あの事件以来ですね。こちらの時代にはもう慣れましたか?」


「うんうん、もちろん!」


キラはティーナとセイラが自然に話していることに驚いた。

二人は友達のように普通に話し始めた。キラにはその様子がとても奇妙に感じられた。

不思議だった。性格からしても二人はとても仲良くなれそうではないのに。

キラがしばらくぼんやりと二人が話している様子を見ていた。

その時、声が聞こえた。


「全く…あの二人が知り合いかよ…。」


ゼオンの声だった。いつやってきたのかはわからないが、気がついた時にはもうキラの後ろに立っていた。

わざわざ様子を見に来たのかとキラは思った。ゼオンにしては珍しいような気がした。

ゼオンがそう言うと、ティーナがすぐさまそれに反応し、甲高い声で嬉しそうにゼオンのところにやってきた。


「きゃわああ!ゼーオーン!あたしのこと追いかけてきてくれたの?嬉しいなぁー!」


「うるさい、静かにしろ。

 お前を追いかけてきたんじゃなくてセイラに聞きたいことがあって来たんだ。」


ゼオンは冷たくそう言った。ティーナは頬を膨らませた。


「むぅ…ゼオンの意地悪。でもそんなとこも好きだからねっ!」


キラはかなり冷ややかな目でをティーナを見ていた。

正直この人は自分のキャラが恥ずかしくないのかなと思った。

ゼオンもいちいちティーナの相手をしてやらなくてはならなくて大変だろう。

そう思った時、落ち葉を踏みわけて誰かがやってくる音が聞こえた。

キラはその方向を向いた。やってきたのはオズとルルカだった。


「二人ともいきなり飛び出したりしないでくれないかしら。探すこっちも大変なのよ。」


「ああそうか、悪かったな。」


ゼオンはかなり曖昧に返事をした。

ティーナはオズを見つけるとルイーネを手のひらに乗せたままオズの方までやってきた。

そして少しも悪びれずにルイーネをオズの方に突き出した。


「なんか竜巻起こしたらこいつ気絶しちゃった。はい、どうぞ。」


ルイーネは気絶して完全にのびていた。起きるまでにきっとしばらくかかるだろう。

そりゃあちっぽけな小悪魔があんな竜巻攻撃をもろに喰らえば当然だ。

ティーナ以外の全員は揃ってため息をついた。


「こりゃ中断やな…。」


「中断ね…。」


「中断だな…。」


「中断だね…。」


ティーナだけがただきょとんとした顔でみんなを見ていた。キラはちらりとセイラの方を見た。

セイラは先ほどの竜巻のせいで体のあちこちに怪我をしていて、あちこちに血が少し滲んでいた。

だが、なぜかもう出血は止まっているようで血の色はすでに鮮やかな紅ではなく少し赤茶けた色になっていた。

セイラはとても悔しそうな表情でオズを睨んでいた。


「何や、俺にガン飛ばされてもな。」


なぜセイラが睨んでいるのがティーナではなくオズなのかキラは少し不思議だった。

一方のオズもいつもどこか普段と違う目をしていた。何か悪いことでも思い出したような目つきだった。

ゼオンがセイラの服についた血を見てセイラに言った。


「ゲームは中断ってことでいいか?お前も怪我をしているしもうきついだろ?」


「…いいですよ。どうせ私が意地でも続けると言ってもルイーネさんがその状態じゃどうしようもないですし。」


セイラはかなり不満そうだったが仕方なくそう言った。この杖はセイラにとってそこまで重要なものだったのだろうか。

キラの杖を悔しそうに見つつ、セイラは何かを考えているように見えた。

そう思っていると、ルルカがティーナに少し荒い口調で聞いた。


「それはそうと、そろそろ貴女とセイラがどういう繋がりがあるのか教えてくれないかしら?」


それはキラもかなり気になっていた話だった。ゼオンもオズもティーナの方を見た。

セイラとティーナは顔を見合わせた。

そしてティーナがゆっくりと話し始めた。


「それもそうだね。

 あのさ、前にあたしが300年の世界からタイムスリップしてきたって話したでしょ?

 それで、300年前からこの時代にあたしを送ったのがセイラなんだよ。」


キラは驚いてセイラの方を向いた。セイラは静かに頷いた。

たしかにセイラは時間を操る魔法を使っていた。

なら、セイラの魔法でティーナがタイムスリップしてきてもおかしくはない。

けれどキラはタイムスリップの話が本当だということがしばらく信じられなかった。

だがセイラが時間を操る魔法が使えるのは事実。キラもこの目で見た。

だとしたら…


「それじゃあ、ティーナが言ってたタイムスリップの話って本当だったってこと?」


「おいおいちょっと、最初から本当だって言ってるじゃん!

 あっちでちょっと困ったことがあって、セイラはあたしを助けてくれたんだよ。」


ティーナが少し怒って言った。

そんな顔されたって普通いきなりタイムスリップなんて言われたってすぐに信じられるわけがない。

時間を操る魔法の存在なんて聞いたことがなかったのだ。しかも言い出したのがティーナだったから最初は何かの冗談のようにしか聞こえなかったのだ。

ゼオンがセイラに聞いた。


「で、ティーナの言ってることは本当なのか?」


「はい、本当ですよ。助けたって表現が適切かはわかりませんが少なくとも私は300年前の世界からこの時代にティーナさんを飛ばしました。」


セイラはそう言った。

その時のセイラの答え方は真面目で、嘘をついているようにも見えなかったので反論のしようがなかった。

すると、ゼオンがセイラに尋ねた。


「じゃあお前はどうして300年前からこの時代にやってきたんだ?」


セイラの表情が一瞬変わった。何か悪いものにでもあたったようなそんな顔。


「あなたには関係の無いことです。」


「つまりティーナを含めたここにいる誰にも言えない内容ってことか?」


「はい、そんなところです。女には秘密がつきものなんですよ。」


誰にも言ってはいけない話を「誰にも言えない」と言っていいんだろうか。

聞き出したくてもセイラの目が本気で聞き出せそうにない。

今度はキラがこう聞いた。


「ねえ、セイラはどうして時間を操る魔法が使えるの?」


「あ、それあたしも知りたい。」


ティーナもそう言った。

だがセイラはあまり気分良さそうな表情はしなかった。


「使えるものは使えるんですよ。

 …仕方ないじゃないですか、こういうモノなんですから。」


全く理由になってない。

要するにそれに関してこれっぽっちも教える気はないということらしかった。

キラは少し困ってため息をついた。結局本当に気になるところはこれっぽっちも話してくれなかった。


「知りたければ自分で探れってことやな。」


オズが呟くのが聞こえた。そのとおりと答えるようにセイラはクスクス笑う。

するとティーナが急にとても明るい声でセイラの前に出てきて聞いた。


「ところでさ、セイラこれからどうするの? どうせ帰る場所もないんでしょ。

 だったらさ、しばらくこの村に居れば?」


ティーナはセイラとの再会を喜んでいるようで楽しそうにそう言った。

だが、楽しそうなティーナに対してルルカやゼオンはあまり気分良くはなさそうだった。

キラは複雑な気持ちだった。セイラが何を考えているのかわからないからどうとも言いようがないが、ゼオン達と同じくあまり納得はできなかった。

オズだけは、何を考えているかわからなかった。口元は笑っているが目は笑っていなかった。

セイラは少し考えてからこう言った。


「…そう言うのなら、お言葉に甘えて住み着いちゃいましょうか。」


「はぁ!?」


「…ちょっと、そんなの聞いてないわよ。

 認めると思っているの?」


キラとルルカは真っ先にそう言った。

それに対してセイラはしれっとした顔で言った。


「そんなの今決めましたから聞いてなくて当たり前です。

 別にルルカさんに認めてもらわなくても私は勝手に居座りますよ。

 …と言ってもオズさんの権限を借りなくては居座れないかもしれませんが。」


たしかにセイラは見た目は十歳程度の子供にしか見えないからどこかの宿屋に泊まるのは難しいかもしれない。お父さんかお母さんは?とでも言われるのがオチだ。

ティーナはオズの方を見た。キラたちもオズの方を見る。セイラが居座るためにはオズの権力を利用するしかないわけだ。

オズはやけに落ち着いた様子で言った。


「わかった。宿屋のことはどうにかしたる。」


「よっしゃあ!」


「はぁ!?さっきまであんなに嫌がってたくせに!」


喜ぶティーナとは対照的にキラはついそう言ってしまった。

ルルカも少し怒った様子でオズを睨んでいた。どうしてオズが急に態度を翻したのかキラにはわからなかった。

ただ、ゼオンだけは何かを探っているような目でオズを見ていた。

なんだかいまいち納得がいかないが、セイラはこの村に留まることになったようだった。

ティーナは楽しそうな顔をしてオズに言った。


「どうせあたしたちが泊まってるとこと同じとこでしょ?

 あたしあそこの主人に話つけてくるよ!」


ティーナは急に機嫌が良くなったようでオズに対しても気前よくそう言った。

オズは急にいつもの軽い口調で言った。


「わかったわかった。お前らも先帰っててええで。あ、キラ、ルイーネたち連れてってくれ。

 俺はこいつにちょいと話があるからな。」


キラは仕方なくオズから気絶したままのルイーネを受け取った。

シャドウとレティタも少し納得いかないようだったがキラの方に来た。

キラはオズに反論できなかった。一体どういうつもりなのだろう。

キラは不思議だったがオズはいつものように少し笑っているだけだった。

ティーナは周りの空気を完全に無視して一人とっとと森の出口へと走っていった。

それを見たルルカがため息をついてティーナについて行く。そして、キラとゼオンも村に戻ろうとした。

だが、キラが歩き始めようとした時、セイラはキラを引き止めて言った。


「キラさん、一つだけ言っておきます。」


キラもゼオンも立ち止まった。

キラが振り返ると、セイラはキラを軽く睨むようにして言った。


「あなたの記憶の『穴』、早くなんとかしてください。

 さもないと、私はまたあなたの杖を狙いますよ。」


キラは何も言わなかった。自分の心臓を抉られたような心地がした。

それは、キラにとって触れられたくない話だった。

真っ黒い闇が、得体の知れない恐怖が、キラを覆っていくような気がした。

キラは何も言わずに村の方へ歩き出した。ゼオンも一緒について来た。


「おい、キラ、元気出せよ?」


シャドウがそう言ったのを聞いて、キラは少し笑って「うん」と答えた。

少し気分が沈んでいたが、それを聞いて少し元気が出てきた。

歩いていくうちに、後ろにいるオズとセイラの姿はどんどん小さくなり、森の木の影に隠れていく。

しばらくして、ゼオンが急にこんなことを言い出した。


「お前、先行ってろ。俺は後から行くから。」


ゼオンはそう言ってもと来た道を戻っていった。

キラは仕方なくシャドウたちを連れて村へと戻っていった。

全く、謎が多すぎて頭がこんがらがりそうだ。

セイラはティーナの友達だと言っていたが、それでも謎はまだまだ残っている。

どうしてセイラはあんなにキラたちのことをよく知っていたのだろう。

どうしてセイラは時間を操る魔法を使えるのだろう。

どうしてセイラはキラの杖を狙ったのだろう。

一体、セイラは何者なのだろう。

謎は渦巻くばかりだった。



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