表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第3章:少女セイラ
40/169

第3章:第15話

キラとセイラは対峙したまま動く様子はなかった。

いつ破られるかわからない沈黙が流れ続ける。

「負けませんから。」と言ったセイラの目は今までで一番鋭かった。

一体その目の裏に何があるのかキラには想像もつかなかった。

先に静寂を破ったのはキラだった。キラは攻撃は加えずに杖を下ろしてセイラに聞いた。


「一つ聞いてもいい?

 セイラはこの杖を手に入れたらどうするの?」


セイラの目がさらに鋭くなった。

そして冷たくはねのけるように言った。


「キラさんが知ったってどうしようもないことです。無駄な質問はしないでください。」


まるでそれに関することを尋ねられるのを全身で拒否してるようだった。

キラは何も言えなかった。聞けば聞くほどセイラは冷たい言葉ではねのける気がしてならなかった。

キラが再び口を開きかけた時、突然セイラの後ろに大きな影が口を開けてセイラに襲いかかろうとした。

危ないとキラが叫ぶより先にセイラは素早く反応してすぐ振り返り、その影の攻撃をかわした。


「…どうやらルイーネさんの方が先に攻撃をしかけてきたみたいですね。」


その影の正体は紛れもなくルイーネが操る魔物、ホロだった。

大きな幽霊のような形をした体についている無数の赤い目玉がこちらを見つめている。

大きな口から見える牙はナイフのように鋭かった。

さすがはルイーネ、オズの右腕なだけのことはあるなとキラは思った。

だが、当のルイーネの姿が見当たらない。森のどこかに隠れて、ホロで様子を伺っているのかもしれない。森の中なら、体の小さなルイーネはとても見つけにくいだろうから厄介だなとキラは思った。

そう思った時、まるで腹を空かせた猛獣のような唸り声がキラとセイラの後ろからも聞こえた。

二人ともすぐに後ろを振り返った。そこにも無数の大きな目玉でこちらを睨みつけるホロが2体いた。


「どうやら挟み撃ちされたようですね。」


三体のホロが大きな口を開けて牙を見せていた。

ぎょろりとした目玉がこちらを見ている。

こんな魔物に噛みつかれたらひとたまりもないだろう。なんとしても攻撃を直接受けないようにしなくてはならない。


そう思った時、三匹のうち一体が大きく口を開けて二人に襲いかかってきた。

キラとセイラはすぐにその攻撃をよけた。だが、よけると同時に残りの二体の全ての目が二人の方を見たかと思うと、その目から赤い光線がキラとセイラめがけて放たれた。

するとセイラが右手をパチンと鳴らした。

すると光のバリアーが二人を包み込んで光線を防いだ。

だがすぐにまた先ほどの一体が攻撃をしかけてくる。

三体のチームワークはかなりのもので、とてもルイーネを探している場合ではなかった。

どうにかして下に行ってルイーネを探さなければならない。

キラはホロの攻撃を避けると三体の間を素早く通り抜けて森の中へと突っ込もうとした。

それを見たセイラがキラの方へ両手を向けた。するとセイラの手から大きな鳥の形をした炎がキラめがけて飛び出してきた。

キラは大きく左に避けてなんとかそれをかわした。

キラは森の中へと入り、ルイーネを探し始めた。一方のセイラもホロの攻撃を振り切って森の中に入っていった。



森の中は真っ暗で見通しが悪く、ルイーネの姿は見当たらなかった。

セイラの姿も全く見えない上に物音すらしなかったところを見るとどうやらキラとは正反対の方向を探しに行ったようだ。

キラは木の影やくさむらの中などあらゆるところを探し始めた。

だが、見つからないどころか辺りが暗くてよく見えなかった。

灯りが欲しいなとキラは思った。

成功する気がこれっぽっちもしなかったがキラは杖を持ち上げた。

おそるおそる、なるべく杖の先を自分から遠ざけてキラは呪文を唱えた。


「光よ…ここに集え…リュミ・ランテ!」


だが、その途端杖の先から花火のようにバチバチと火花が飛び出してしまった。

失敗してしまった。キラは杖を持ったまま慌ててしまった。

だがその時、キラは一瞬地面に妙な形の影ができた気がした。杖の先から吹き出る火花はしばらくしたら止んだ。

キラは上を向いた。見えるのは何十本もの木だけで、ルイーネの姿は見えない。

キラはさっき影が見えたところの辺りまで移動してみた。やはり何もいない。

だがその時、上からカサッと何かが動く音がした。キラはすぐに上を向いたが何もいなかった。

おかしいなとキラは思った。たしかに上から何かが動く音がした。キラの周りの木の葉がかなり大きく揺れているところを見ると、かなり大きなものが動いたように思えるのだがそこには何もいない。

キラは首を傾げた。そして、近くの石を拾って音がした辺りの場所に投げてみた。

すると石は何かに当たって跳ね返ってきた。キラは驚いて杖を強く握りしめた。

そして、今まで周りの風景と同化して姿を隠していたものが現れた。

それは無数の目玉をぎょろりと動かしているホロだった。だが、キラは先ほどのホロに追いかけられてはいない。

追いかけられていたのなら、ホロは体が大きいのでキラは物音でホロに気づいただろう。となるとこのホロは先ほどのとは別のホロだ。

すると突然キラの後ろにあった一際大きな木の上の方から声が聞こえた。


「運がいいですね。先に近くに来たのがキラさんで安心しましたよ。」


キラは声が聞こえてきた木の方を向いた。

すると、木の葉の中からルイーネが飛び出してきてちょこんとホロの上に乗った。

そんなところに隠れていたら見つからないに決まっている。

こんなところに周りをホロで固めて隠れていろとオズに指示されたのだろうか。


「ねーねー、ルイーネはオズに何て指示されたの?」


キラが聞いてみるとルイーネはこう答えた。


「私は何も指示されてませんよ。勝手に動けって言われました。

 シャドウさんとレティタさんには何か指示したみたいですけどね。

 それでここに隠れていたんですけどあまりに暇なのでホロを送って少しちょっかいをかけてみていたんです。」


あれのどこがちょっかいだと思ったが口には出さなかった。

キラは箒にまたがり、杖を持って空に浮き上がった。

すると、ルイーネの表情が少し変わった。


「…あーあ、どうもあの性悪が近づいてきたみたいです。

 じゃあキラさん、また後でー。」


そう言ってルイーネはホロを連れてとっととその場からいなくなってしまった。よっぽどセイラが嫌いなんだなとキラは思った。

すかさずキラもルイーネを追いかけた。森を抜け、再び大空へ飛び出した時、後ろで大きな爆発音が聞こえた。

後ろを振り向くと先ほどキラとルイーネがいた場所の木がなくなって地面がやけ焦げていた。そして同時に、セイラがルイーネを追いかけてこちらに飛んでくるのも見えた。

前方にいるルイーネは一度セイラの方を向くとあっかんべをして言った。


「出ましたね、この性悪女!

 私、あんただけには捕まりませんからね!」


そう言ったかと思うと、どこからともなく5匹のホロが現れ、キラとセイラに襲いかかってきた。

それをうまいことかわしてセイラが反撃に出る。

セイラが指を鳴らすと無数の火の粉が飛び出してルイーネを襲った。赤い雨がルイーネに降り注ぐ。

するとルイーネは前方にホロを何匹も固めてそれを防いだ。

二人が戦っている隙にキラはルイーネに近づこうとする。

だがホロが目から光線を出してキラの行く手を阻んでしまった。

先ほどから何回もルイーネに攻撃したり近づいたりしているのだが周りのホロが邪魔をしてしまう。

やはりルイーネはシャドウやレティタのようにはいかないなとキラは思った。

キラはルイーネに怒鳴った。


「ルイーネのばかー!

 ちょっとは手加減してよー!」


「手加減してあの性悪に捕まりたくないです。」


一体どんだけセイラ嫌いなんだよとキラは思った。

キラはもう一度ルイーネの方に飛んでいった。

するとやはりホロが数匹キラの方にやってきた。

ただでさえホロは大きいのに体中についている目は全てキラの方を睨んでいて少し怖かった。

ホロは大きな口を開けてキラに襲いかかってくる。それをキラは素早く避けつつルイーネに近づいていく。

するとそれを見たセイラが標的をキラに変えてきた。

セイラがキラの方に手を向けると、強い風がセイラの周りを取り巻いたかと思うと一気にそれらがキラに向かってきた。

キラは強い風のせいで身動きが取れない。

セイラはキラにさらに攻撃を加えようとまた手を振り上げた。

だがその時、ホロがセイラのすぐ横まで近づき、セイラに噛みつこうとした。

セイラはすぐにそれを避けようとしたが避けきれず、ホロの牙に帽子がかすってしまい、セイラの帽子は宙に投げ出されて先ほどセイラが木を焼き焦がした場所に落ちていってしまった。

キラは思わずそれを目で追ってしまった。帽子は真っ黒く焼け焦げた地面にぽとりと落ちた。

その場所はセイラが焼いて炭になった木がごろごろしていてとてもきれいな場所とは言えない。

あんなところに帽子が落ちてしまってかわいそうだなと思った時、キラは誰かがその帽子を拾い上げるのを見た。

それはティーナだった。なぜこんなところにティーナがいるのだろうとキラは思った。

ティーナは帽子を拾うと上を向いた。ちょうどその時キラと目が合い、ティーナはキラに手を振った。

キラも手を振ろうとしたが、その時ちょうどまたホロが攻撃を仕掛けてきた。

キラは申し訳ないと思いつつもティーナを無視してホロをよけた。

ホロはネズミを追うネコのよいにキラを取り逃がしては追いかけ、また取り逃がしては追いかけを繰り返していた。

その間、ティーナが呼ぶ声がしていたがとても返事をしている場合ではなかった。

ちらりとセイラの方を見るとセイラもまたホロに追いかけられていた。

これではいつまで経ってもルイーネにたどり着けない。

そう思った時、セイラがかなり苛立った様子で舌打ちした。


「チッ、小賢しい…!」


するとセイラは手を一体のホロに向けた。

すると手から光が放たれ、ホロの目を撃ち抜いた。続いてセイラは他のホロにも次々と光を当てていく。

すると、ホロたちはひるんで一瞬動かなくなった。

その時、セイラは両手を前に出して呪文を唱え始めた。とても長い呪文で、大技が来るということはすぐにわかった。


「この世を創りし蒼き瞳の女神よ…我が声に耳を傾けたまえ…」


セイラの下に青色に輝く魔法陣が現れた。その光はどんどん強くなっていく。

それを見たルイーネはホロを全員自分の近くに戻した。

そしてそのうちの一体に何か言ったかと思うと、今度は全てのホロの目が赤く光り始めた。

こちらも何か大技を使おうとしているようだ。ホロの体が赤く光っていく。そしてホロの目がセイラの方を向いた。

二人の様子を見てキラは素直に感心した。

だが感心なんてしている場合ではない。早く逃げないとキラも巻き込まれてしまう。

キラは急いでその場から離れようとした時だった。


「その手より生み出されし光よ…遥かなる記録よ…今、我の刃となれ…リュイール・エペ・ドゥ・メムワール!」


そして魔法陣がいっそう強く輝いたかと思うと、セイラの身長の二倍はありそうな鋭い光の刃が何本も現れ、森全体に届くのではと思うような勢いで四方八方に一斉に飛び散った。

そしてその刃はルイーネにも降り注いでいく。

その時、ルイーネを取り囲むホロの目から一斉に赤い閃光が放たれた。

光の刃と赤い閃光は激しくぶつかり合って勢いを増していった。両者一歩も譲る様子はない。

キラは眩しくて目を開けることができず、ただそのぶつかり合いを眺めていることしかできなかった。

だがその時、キラは下からもまた何かが光っていることに気がついた。

キラがおそるおそる下を見ると、まさに呪文詠唱中状態のティーナがいた。

手には例の杖を持って複雑な呪文を唱えている。ティーナは地獄から這い上がってきた閻魔大王のような恐い表情をしていた。

最初はキラはなぜティーナが突然呪文詠唱を始めたのかわからなかったが、理由はすぐにわかった。

先ほどティーナに呼ばれた時、キラたちは全員揃って無視してしまった。それで怒ったのだろう、たぶん。

キラがそう納得した時、ティーナは魔王のような凄い形相で空に杖をつきつけて怒鳴った。


「無視すんじゃねえこの野郎ぉ!ティフォン・ディストラクション!」


その途端、まるで今のティーナの機嫌の悪さっぷりをそのまま形にしたような灰色の巨大な竜巻が現れ、恐ろしい勢いでキラのところまで伸びてきた。

キラは必死で竜巻から逃げた。凄まじい破壊力の竜巻は周りのもの全てを飲み込もうと物凄い勢いで近づいてきた。

キラは精一杯スピードを上げて竜巻から逃げた。

竜巻はすごい力でキラを引き寄せようとする。キラはそんな力に精一杯抵抗してどうにか竜巻から逃げることができた。


「ふぅー危ない危ない…。」


ひとまず竜巻を切り抜けることができたキラはほっと息をついた。

そしてくるりと先ほどの竜巻の方を向いた。


「…あ。」


キラは思わず間の抜けた声をあげた。

セイラとルイーネの姿が見当たらない。

かわりに先ほどまでセイラとルイーネが戦っていたところで竜巻がぐるぐる渦巻いていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ