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ある魔女のための鎮魂歌【第1部】  作者: ワルツ
第3章:少女セイラ
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第3章:第13話

「次は絶対負けないんだから!」


キラはニッと笑いながらそう言った。

そしてどんどんスピードを上げてセイラに近づいていく。

だがセイラもそうやすやすと抜かれてはくれなかった。

セイラはそれを見てまた呪文を唱えた。


「荒れ狂う風よ…」


キラはすかさず杖をセイラに向けた。


「響け雷鳴よ…白き稲妻よ…エクレール!」


また失敗して前方で爆発が二回起こった。

だがとりあえず詠唱は防げた。キラはその隙にセイラの横をすり抜けた。

セイラは爆発の煙の中から脱出すると、その間にセイラを抜かしたキラの方を見た。

キラはセイラに言った。


「もうその手は食えないよっ!」


セイラはため息をついて言った。


「…食えないじゃなくて食わないですよ。

 詠唱が止められてしまうなら方法を変えなければいけませんね…」


そう言うとセイラは後ろで何かした後、再びキラを追ってきた。

キラは少し後ろを向いてセイラが何をしたのか確認しようとしたすぐにはよくわからなかった。

だがしばらくしてキラはあることに気づいた。セイラの右手の指から血がにじみ出ていた。

まさかセイラは自分で指を咬んで血を出したのだろうか。


その時、セイラの目がキラを捉えた。

魔法が来るなと思ったキラは詠唱を止めるためにと杖を握りしめた。

だが、セイラは詠唱はしなかった。セイラは右手を軽く振った。

その途端、ゴォォという強い音が響き、激しい吹雪がキラを襲ってきた。

キラは一瞬何が起こったのかわからなかった。魔法に関してキラは詳しくないのでなぜ詠唱なしで魔法が使えるのかもわからなかった。

だがそんなことを考えている間に周りの世界は真っ白に変わっていき、強い風と雪がキラの行く手を阻んだ。

キラは腕で雪を防ぎつつ先に進もうとするがうまく進めない。

セイラを攻撃して吹雪を止ませようとしても辺りは真っ白で何も見えない。

キラはがむしゃらに前に進もうとしたが箒はほとんど動かなかった。

キラは困り果てて途方に暮れてしまった。

どうしたらいいだろう。このままだったらセイラにシャドウを捕まえられてしまう。

そうなるともう完全にキラの負けだ。けれどキラは負けたくはなかった。

こんな吹雪のせいで足止めなんてまっぴらごめんだ。

キラは立ちはだかる風を無理矢理押すように少し前に進んだ。

たしかにセイラはすごい。だが、セイラとキラを比較して落ち込むことに意味なんてない。

キラはさらに進んだ。空を飛ぶことに関しては負けてやらないとキラは思った。

キラはさらにさらに進んでいった。目の前が少し明るくなり始めた。

そしてキラはまるで吹雪を突き破るかのように、白い世界の明るい部分に杖を突きつけ、呪文を唱えた。


「赤き鳥よ…燃えさかる炎よ…集え我が手にっ…ワゾー・ドゥ・フラーム!」


その途端、真っ赤な炎がキラの杖の先から吹き出し、吹雪の世界に一カ所だけ穴が空いた。

キラはその穴に無茶苦茶に突き進み、ついに吹雪から抜け出した。

白い世界が晴れて、再び青空と黒い二つの影が現れる。

セイラはもうシャドウに大分近づいていった。

ここからはもう突っ走れるだけ突っ走るしかないと思った。

キラは目標をしっかり目で確認した。

そして、一気にスピードを出して、雲を突き破るような速さでシャドウに向かって突き進んだ。

やはりセイラとキラだとキラの方がスピードは速く、二人の距離はどんどん縮まっていく。

だが、もうセイラとシャドウの距離は数メートルに縮まっていた。

キラは持てる全ての力を出して必死で箒のスピードを上げた。

セイラとの距離はさらに縮み、あっという間にセイラのすぐ後ろまで追いついたがまだセイラの方がシャドウに近い。

もうあと少しでセイラはシャドウに手が届きそうだ。

あともう少しで追い越せるのに。そう思った時、セイラが右手を少し上げた。

さっき魔法を使った時の手の動きと全く同じだった。

ここで魔法を使わせたら終わりだとキラは思った。

一か八か、キラは箒の上で立ち上がり、強く箒を蹴ってシャドウの方へ勢いよく跳び上がった。

だがそれではまだシャドウに届きそうにない。着地地点だって勿論ない。


「えっ…」


これにはさすがにセイラも驚いたようで一瞬動きが止まった。

その隙をキラは見逃さなかった。キラはセイラの頭を思いっきり踏んづけるとそのままセイラを踏み台にしてシャドウの方へ勢いよく跳んだ。

そしてシャドウに精一杯手を伸ばす。


「届けえっ…!」


その時、キラの手は何かを掴んだ。

その途端、キラの体は急降下し、目も開けていられないような速さで下に落ちていった。

だが、ここで目を閉じたら終わりだ。恐怖を必死でこらえて目を見開いた。

その時、何かがキラの下をかすめた。



数分経った。セイラが空中でふわふわ浮きながら辺りをキョロキョロ見回していた。

シャドウの姿もキラの姿ももうどこにもない。

セイラの周りにあるのはただ静かな空だけだった。

その時、セイラは何かに気づいたようにはっと後ろを振り向いた。


「へへん、これで同点だよ!」


そこには無傷で笑っているキラがいた。

シャドウが笑いながらキラの肩に座っていた。

落ちる時、キラは箒を自分のところまで呼び寄せていたのだった。

セイラは特に慌てた様子もなく言った。


「やれやれ、早く終わらせようと思ったんですが…

 というか人の頭を踏んづけるのは止めてくれません?」


「やーだよーっ」


キラはいたずらっぽく笑って嬉しそうにシャドウを手に乗せてセイラに見せてやった。

正直言って、自分でもセイラを踏み台にしてシャドウを捕まえることになるとは思ってもみなかった。それが成功するなんてことも。

キラは嬉しくてニコニコしながらシャドウを手に乗せていた。

すると、セイラがそんなキラの様子を見て言った。


「…喜ぶのは結構ですけど、まだ勝負はついていませんからね。」


キラはその言葉を聞いて笑うのを止めた。

そして真剣な顔つきでセイラを見る。

セイラはキラに言った。


「言っておきますけど、負けませんから。」


セイラの目からは、尋常でない位の強い悲しみと意志が感じられた。



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