第3章:第11話
「なんで、いつの間に…!」
キラは目を丸くしてセイラの方を見た。
セイラはさっきまでキラより後ろのところで呪文を唱えていたはずだ。
なのにどうしてこんなことになっているのか、キラは全く理解できなかった。
セイラは余裕の笑みを浮かべてこちらを見ている。
キラは悔しげに歯を食いしばった。
そして片手をぶんぶん振り回しながら怒鳴った。
「こんのばかぁ!
さっきまで後ろまでいたくせに何いつのまにあたし追い越してレティタ捕まえてんだよぉ!
説明しろ説明しろ説明しろぉ!」
キラがそうめちゃくちゃに怒鳴ると、セイラは表情一つ変えずに冷静な様子で答えた。
「全く…うるさいですね。
さっきの魔法でちょっとキラさんの周りの時間を止めただけですよ。」
キラは急に怒鳴るのを止めた。
時間を止めるなんて、そんなことできるのだろうか。
というかこんなにあっさりタネ明かししてくれるとは思わなかった。
時間を止める魔法なんて聞いたことがない。
たしかゼオンかオズもそんな魔法は存在しないと言っていた。
そんな魔法をどうしてセイラが使えるのだろう。
だが、セイラが言ったようにセイラが「時間を止めた」のなら先ほどのことに納得がいく。
逆にその他の説明は思いつかない。
もし魔法でキラの動きを遅くしたり止めたりしたのなら、キラは自分の動きが遅くなったと感じていたはずなのだ。
どうしてもセイラの説明が一番納得がいく。
だがどうしてセイラがそんな魔法を使えるのかは全くわからない。
また、セイラの謎が一つ増えてしまった。
「それじゃあ、私はそろそろ行きますね。キラさん、後でまた会いましょうね。」
セイラはそう言ってまた森の中へと行ってしまった。
正直もう二度と会いたくないとキラは思った。
セイラが行ってしまい、大空に一人取り残されたキラはため息をついた。
まさかセイラがあんなに強いなんて思わなかった。
今ならゼオンがセイラのことを侮らない方がいいと言った訳がよくわかる。
ただでさえ魔法の腕が良く、すごい威力の魔法を連発するというのにその上時間を操る魔法だなんて。
あんな人物にキラは本当に勝てるのだろうか。
キラは少し落ち込んで下を向いた。
とりあえずまたキラは森の中へと飛んでいった。
周りの景色は再び空色から深緑色に変わった。
こんな勝負しなければよかったかもしれない。勝てる見込みなんてないじゃないか。
上空は木の葉で覆われていて、森の中は真っ暗だ。その暗さがキラを余計に落ち込ませた。
キラはふてくされながら森の中を飛んでいった。
すると、しばらくして、急に視界が晴れ、上空からまぶしい光が射し込んできた。
目の前には澄んだ美しい湖があり、水面が光を反射して輝いていた。
どうやら先ほどの場所に戻ってきていたようだった。
そういえばこの湖は何なのだろう。
この森にこんな湖があっただろうか。けれど、キラはなんとなくこの湖に見覚えがある気がした。
この湖に来たことなんてあっただろうか。もしかしたらあったのかもしれないが思い出せない。
そんなとき、キラは湖のほとりに何かが立っているのを見つけた。それの前には誰が置いたのかはわからないが小さな花束があった。
それは白いきれいな御影石だった。誰かのお墓だということが一目でわかった。
その瞬間、キラはようやく思い出した。
キラは慌てて地面に降りて、その墓に駆け寄った。
こんな湖のほとりに立っている墓なんてキラの知る限りでは一つだけだ。
その人物をキラが知らないはずがなかった。
キラは墓の前に立つと墓に書いてある文字を見て、自分の予想が当たっていたことを確認した。
墓には「イクス・ルピア」と書かれていた。……キラの父親の名前だ。
「久しぶり…お父さん。」
キラは複雑な気持ちでそうつぶやいた。キラは静かに墓を見下ろした。
もう今年で十年経つんだなとキラは思った。
キラはそれ以上は何も言えなかった。
何も言わないまま、風が吹いて時間は流れていった。
両親が生きていた頃のことは今でもよく覚えている。
母親は素直で真っ直ぐで優しくて、少し惚けたところのある人だった。
父親は、母親よりしっかりしていて落ち着いた人だった。
二人が生きていたころは本当に幸せだった。勿論今が幸せでないわけではない。
父親のイクスと母親のミラ。それと祖母のリラと姉のサラがいて、昔は賑やかで楽しかった。
二人が生きていた頃のことはこれだけはっきり覚えているのだ。
今でもはっきり二人の顔と声を思い浮かべられる。
それなのに……
そう思った時だった。
キラの後ろで草が大きな音を立てて動いた。
キラはすぐさま振り向いて杖を構えた。
草むらから音は消えない。
キラは警戒しながら草むらを睨んだ。
すると、突然何かが草むらから飛び出してきた。
「よお、キラ。やっと見つけた。
なんだー?うまいもん探しでもしてたのかー?」
キラは驚きつつも杖を下ろした。
赤い髪の毛の小悪魔が笑いながらこちらを見ている。
シャドウが自らキラのところにやって来たのだった。